第十八話 それぞれの道
只今より、入社式を開式いたします。
四月一日、今日から僕は社会人になった。佐賀県伊万里市の工場だ。地元だから選んだという訳でもない。地方にしては給料が高めで、完全週休二日制だったからだ。同期は4人いるらしい。
では、自己紹介をお願いします。
「はい、高橋伸一です。ご迷惑おかけすることもあるかと思いますが、いろいろ教えて頂けると幸いです。よろしくお願いします」
咲も今ごろ、同じ気持ちで入社式を迎えているのだろうか。僕たちはそれぞれの道を歩みだす。
入社式が終わると、設計室に案内された。大卒の場合、機械系では、設計へ配属されることが多い。僕は、多くのパソコンの中から一台のパソコンへと案内される。
「高橋くんだっけ?はじめまして、設計の中尾悠です」
隣の歳が近そうな人が話しかけてきた。
「あ、はじめまして、高橋です。よろしくお願いします」
僕は挨拶をした。
「高橋くん、彼女とかいるの?」
早速その質問なのね。
「まあ、はい。います」
卒業式以降、連絡も来ていないのだが、僕はいつまでも待つと返事をした。咲も、体調が良くなれば連絡をすると言っていた。
「うぉー!かわいいの!?」
「めっちゃかわいいです」
僕は即答した。返事の早さに笑われる。
「正直でいいね。大切にしなよ。もう彼女つくる機会ないと思うから」
そう言われなくても大切にするさ。
そんな会話をすると、早速、設計の説明に入る。
「2DCADのときはこっち、3DCADのときはこっちを使うから」
設計と言うと、テーブルに大きな紙を広げて書くイメージの人も多いと思うが、最近はパソコンで書くのがほとんどだ。その設計をするソフトのことをCADと言い、設計図などの場合は2D、シミュレーションなどの場合は3Dを使用する。
一日が終わり、僕は家に帰る。実家から通勤できる距離ではあるが、僕は会社の近くにアパートを借りた。地方なので、安くアパートを借りられるのと、一人暮らしのほうが楽であるからだ。自分の病気を理解してくれない人と一緒に暮らすのはきつい。かと言って、親が嫌いと言う訳ではない。理解されなくて当然の病気だと思っている。しかし、そんな人と暮らすのは精神的に辛いのだ。
ワンルームの、だけど学生の頃とは違い鉄筋コンクリート製のアパートへと入る。リュックを床に置き、スマホを取り出す。咲からのメッセージは来ていないようだ。でも、今までとは明らかに違う点がある。元気になったらまた連絡すると言われている。僕はそれを待つだけなのだ。
――――― 入社して一ヶ月が経った。ゴールデンウィークは九連休だった。ニュースでは僕と同じくらいの年齢の人たちが、ゴールデンウィークも働いてどんどん稼ぎますなどと言っていたが、僕は生活できるくらいの給料が貰えれば良い。あとは休みたいと思っている。土日や連休は休み、残業もほとんど無いこの会社は、僕にとても合っていた。
久しぶりに会社へ行くと
「高橋くんおはよう」
と中尾さんから言われる。僕も
「おはようございます」
と挨拶をする。その後も、続々とやってくる社員に、挨拶をしていく。
僕もやっとこの会社に馴れてきた。
咲も会社に馴れてきているのかな。そうだったら良いなと心の中で願っていた。
きっと大丈夫。咲なら。適度に頑張って、逃げるときは逃げる。それができる人だ。
そう思いながら、僕はパソコンを立ち上げた。




