第十四話 手紙
二月に入った。ここ香椎ではあまり雪は降らないが、やはり冬は寒い。気温は二度。僕が生まれ育った|佐賀県伊万里市では、氷点下になる日も多く、それに比べると暖かいが、それでも冬は寒い。僕はポケットに手を突っ込んで、近くの百円ショップまで向かっている。
あれから一ヶ月経ったが、連絡は返ってこない。かと言って、こちらからメッセージを送ることも良いとは思えない。どうするか悩んだ結果、手紙を書くことにした。
百円ショップに入ると、便箋の売り場を探す。しかし、今までの人生で便箋を買ったこと無かった。娯楽用品、ギフトなど探し回ったが、見つからず店の人に
「すみません、手紙ってどこにありますか?」
と聞いたところ、事務用品の場所へと案内された。男の人は手紙を書くイメージが無いので、少し恥ずかしかった。
柄や色など様々な種類があった。女性はどういうものを好むのか分からず、十分ほど迷っていた。考えた結果、ピンク色の花柄の洋2と書かれたレターセットにした。便箋と封筒、シールが入ったセットである。
レターセットだけをレジに持っていくのは恥ずかしい気持ちがあったので、スマホの充電ケーブルも一緒にレジに持っていった。
家に帰り、ボールペンを握る。そして、四枚入った便箋のうち一つを取り出し、文章を考えた。手紙を書くのは何故か緊張した。
「お久しぶりです。お互い卒業研究も終わり、落ち着いたところでしょう。咲と出会ってからというもの、毎日が幸せです。最近は卒業研究の最終発表もあったので、疲れていると思います。今はゆっくり休んで、気が向いたときにでもまた連絡ください。僕はいつでも待っています」
僕がうつ病だったらと考えて、手紙を書く。軽い言葉のつもりでも、本人にとっては自殺の原因になったりもする。僕は慎重に言葉を選んで書いた。最悪の場合も考えて、最後に住所を書いた。そうすれば、警察が真っ先に僕のところへと来るだろう。そう考えた。
手紙に封をし、外へ出る。そして、咲のアパートへと向かった。幸い部屋番号は知っていた。大量に並んだポストの中から203号室のポストを探す。この間に咲と会ってしまわないか緊張していた。
「あっ、あった」
そして、僕はそっと手紙を入れて、外へ出た。
自分の白息を見ながら僕は家に帰っていた。正直、手紙を出すことが良い事なのかも分からない。少なくとも僕がうつ病だったときこんなことをされたら嬉しかっただろう。そう思っていた。今度会えるのはいつだろう。もう会えないのかもしれない。そう思うと涙が溢れそうになった。




