第十三話 最終発表
次に高橋くん、清水くん、発表お願いします。
200人は入るような広い教室で、僕たちは立ち上がった。そして、教壇へ立つ。パソコンの画面から自分たちのプレゼンテーションのファイルを探し、ダブルクリックする。すると、この一年費やした研究の題目"二足歩行ロボットの足回りについての研究"がプロジェクターから映し出される。そして、僕は言った。
「高橋伸一、清水寛太です。今から発表を始めます」
そして、ストップウォッチのカウントが始まった。時間は七分。僕たちの一年の集大成が始まった。
質問があれば、挙手をお願いします。
七分の発表が終わり、質問が始まる。
教授の手が二つ、生徒の手が一つ挙がる。
「では守山くん」
守山という人とは喋ったことはあまり無いが、数学が好きらしい。
「はい、その積分の計算なんですが、途中式をもう少し詳しくみたいです」
「はい、別のスライドに用意しているので説明します。ー」
「次に松永先生」
松永先生は、しっかりとした内容の質問が多い。少し厳しい質問だがタメになる。
「脚が戻る挙動ですが、わざわざプログラムで制御せずに、バネを使用すれば大丈夫だと思いますが、プログラムにした理由はあるのですか?」
「はい、確かにバネでも可能ですが、プログラムであれば都度変更が簡単にできますし、様々な挙動にも対応できます。なので、今回はプログラムで制御しました」
「それは良い考えですね。ありがとうございます」
とてもスッキリした質問で気持ちが良い。
「次に神谷先生どうぞ」
神谷先生は屁理屈ばかり言ってくる。他の機械科の教授達にも嫌われている。
「そもそも、二足歩行ロボットをつくる意味があるのですか?」
「はい、二足歩行ロボット自体、現段階ではあまり実用的ではありません。しかし、それを応用した足回りの構造やプログラムは、不整地を移動するロボットに活用されることが期待されています」
「であれば、不整地を前提とした研究を最初からやったら良いんじゃないの?」
「不整地を前提とした場合でも、最終的には二足歩行ロボットの研究に落ち着くので、今回はそのプログラム部分に注目してます」
この質問に、答えられないと思っていたのか、神谷先生が少し不満そうな顔になる。その空気を断ち切るように
「はい、他に質問はありませんか」
と司会者が言う。
「なければこれで発表を終わります」
――――― 卒業研究の最終発表が終わった。結果はまあ、こんなもんだろうと言ったかんじだ。僕を含む研究室のメンバーは、研究室に戻るとプロジェクターとロクヨンを起動した。今日で最後となるここでの生活を満喫していくつもりだ。今日は夜まで遊ぶことになりそうだ。コントローラを持つと、手元のスマホをポケットに入れる。通知を見返したが、咲からの連絡は来ていなかった。
研究室での最後のパーティーも終わり、僕は家まで帰っている。一人で歩く夜道は寂しい。早く咲に会いたい。でも、今は待つことしかできないのかも知れない。もし元気になったときに、大切な人が居なくなっていたら、それ以上に辛いことはないと思う。だから、僕は待つことにした。
今夜は雪が降るらしい。昼から曇っていた。ふと思い出し見上げた空は、真っ暗だった。




