第一話 出会い
初投稿です。
ピロン
めったに鳴らない僕のスマホの着信音が部屋に響いた。
「伸一くん、今度ご飯いかない?友達もくるけどいいよね」
いいはずがない。僕の唯一の女友達、星宮まきからのメッセージだ。
とくに恋愛感情もなく、星宮から見た僕も、たくさんいる友人の中の一人に過ぎない。
しかし、ダメだと言うこともできないし、第一その友達に失礼だ。22歳にもなればそのくらい分かる。
仕方なく、僕は「いいよ!」と返信した。
それにしても、どうして大学生ってのは人との繋がりを求めるのだろうか。
友達なんて三人で十分だし、彼女なんて別に欲しくない。負け惜しみとかではなく、本心からそう思っていた。そう、高校二年の秋、うつ病になり、多くの友達を失ってからは。
──── それから数日が経ち、僕は大学の研究室を後にし、約束通り十六時に博多駅へと向かった。研究室と聞くと響きは良いが、大学四年生が集まって謎の研究をし、その後はゲームをするだけの場所だ。
心地よい九月の風を感じつつ、中央改札口の近くにいると、「おまたせ~」と言いながら星宮がやってきた。その後ろには、長い黒髪の女の子がいた。どちらかというと可愛い系だ。そして彼女は
「は、はじめまして...、桜瀬咲です」
と言った。
「あっ、高橋伸一です」
と僕も言う。
どうやら桜瀬さんは、人と話すのが苦手らしい。それは意気投合だね!でも、それだと会話ができないね!ってことで、二人で会話をすることなく、星宮についていくと、駅近くのイタリアンの店へ入ることになった。
店内は木目調のフローリングに、レンガの壁という、いわゆるオシャレな店内だ。
チェーン店というわけでもなさそうだが、驚くほど高額でもなく安心した。
会話がなく、気まずくなったのか、星宮が喋る。
「何食べようかなぁ」
それに続いて桜瀬さんが
「このパスタにしようかな」
と返す。
「じゃあ僕もそれにする」
と後に続いた。
「わたしも~」
と星宮も言った。
料理が来るまで、自己紹介をしていた。桜瀬さんは同じ大学に通う同級生であり、アニメが好きだそう。それが世間的にみんなが見ているようなアニメではなく、深夜にしかやっていない、いわゆるオタクと言われる人たちしか見ていないようなアニメだった。
「今季は女の子2人が協力して世界を守っているアニメにハマっている」
とか
「アニメの影響でギター弾いたこともあったっけ」
などと話しているうちに、桜瀬さんと僕の間にあった見えない壁もなくなっていった。
注文していたロレンツァのパスタが三皿届いた。ロレンツァってなんか強そう。そう思いながら一口食べてみた。
「おいしい」
とみんなで言いった。
確かにおいしい。ベーコンとパスタの絶妙な食感と、それに絡みつく卵。テキトーにおいしいと言っているわけでもなく、本当においしかった。
それからというもの、僕と桜瀬さんは、アニメやらゲームの話で盛り上がり、気づけばパスタは全部食べてしまっていた。アニメやゲームを全く知らない星宮はずっと黙り込んでいたことにも気づかずに。
店を出ると、星宮は「またね」と言って家に帰った。初対面の僕たちを残して。
星宮は博多駅の近くに住んでいるが、僕と桜瀬さんはここから電車で十五分ほどの香椎駅付近に一人暮らししている。
博多駅の改札を抜け、電車の座席に座る頃には、アニメの話も終わり、自分自身の話になっていた。ネタが尽きると大抵は高校時代の話とかになるのが普通だろう。好きな人はいた?とか、部活は何やってた?とか。
僕は今後親しくしたい人には病気の経験を伝えている。それを理解した上で仲良くしたいと思っているからだ。
だから
「部活はなにしていた?」
と聞かれると
「高校二年生まではテニス部だったけど、うつ病になってから辞めてしまったよ」
と言った。
すると、隣に座っていた彼女が泣き始めた。
僕は困惑した。甘えだ!とか、みんな辛いんだ!と言われたことはあったが、涙を流されたのは初めてだった。
通勤ラッシュ前の電車に彼女のすすり泣く声とレールの音が響く。
そして、彼女は言った。
「私も精神疾患持ちなの...」