2話
「貴女は恋愛に困ってらっしゃいますね」
目の前の女性は俺と対面の席に座りながら、こちらに手のひらを見せている。
「えぇ!?なんで分かるんですか!?」
殊更驚きながら、俺の顔と手のひらを交互に行ったり来たり。
「貴女の手相を見ればなんでも分かりますよ」
手相占い師の常套句をかませば、だいたいの相手は信用してくれるさ。
「じゃあ金運とかもいつ結婚するかとかも分かりますか!?」
そりゃあもちろん。俺は稀代の占い師だからな。
「えぇ、では占ってみましょう」
今年で30歳の俺は店を持ちながら新宿で占い師をしている。
10代から父の仕事の助手をしながら一緒に占い師をしていた。
父の背中を見ながらの勉強ではあったが、如何せん父の占いは当たらない。
そして何故か俺の占いは逆に悉く当たっていた。
20歳から独立し、通路の端っこで細々と占い師をしていたが、
テレビ番組の取材が切っ掛けで大ブレイク。
今では稀代の占い師とまで言われるまで、色々な面で成長していた。
その中で主軸となっているのが手相占い。
俺には特殊な能力があり、その能力を使うと相手の寿命や健康状態、適性職業や今抱えている事、
運命の相手はどんな人かなど色々な事が手相で分かってしまうのだ。
この能力に気づいたのが、父の助手をする前。
父が俺の手相を見てやろうという一言で、俺は自分の手相を始めてまじまじと見た。
その手相占いで俺は終始驚いていた。能力が脳に直接教えてくれたのだから。
言ってしまえば、この能力に気づいたからこそ助手になったのだ。
だが、色々見えてしまうが為、本当に色々な事が起こった。起こってしまった。
大ブレイク、稀代の占い師。
そんな事を言われていた俺は天狗になっていたのだろう。
店には色々なお客様が来る。
恋愛に困っている人から、人生のどん底まで落とされた人まで多数だ。
そんな中で一人、親の所為で多くの借金に見舞われ、挙句の果てに恋人にも見捨てられた男性が占いに来た。
「先生、俺は今後どうすればいいですか・・・どうすれば幸せになれますか・・・」
この時もっと親身になってあげれば良かったのか、それともそそくさと見捨てればよかったのか。
今の俺に取っては後の祭りではあった。
「そうですねー、じゃあ占ってみますね。んー借金と恋人ですかー。
次の一歩を踏み出す事が一番いいですねー。ハロワにでも行ってみるといいかもですねぇ」
「そんな・・・・私は・・・何度も行ったんだ・・・でもダメだったんだ・・・・」
「そうですかぁ、勉強した方がいいですねぇ」
「勉強・・・勉強!?勉強だって!?俺はずっとこの歳まで一生懸命仕事してきたんだ!!!
あんたに!あんたみたいな成功者に何が分かる!!何が分かるって言うんだぁ!!!!!」
その叫び声の後には俺の胸には小型のナイフが刺さっていた。
単なる逆上だったとは思う。でももう少し親身に伝えていれば、俺は死なずに済んだかもしれないな。
次の人生はもっと素敵な人生が待っているといいな。