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英雄の冠  作者: 月下 猫
第一章 「騎士誕生」
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第四話 『チャンバラ開戦』

「この世には有り得ない天才がいる。私はそんなやつ見たことがある」


「へぇー、それってババアより強いのか?」


「あたりめぇだ。そいつの存在感は異常であるがゆえにまともだ」


「異常なのにまとも?どいうことだよ」


 言葉がおかしいそんなことは聞いているやつなら分かるほど矛盾しているのは分かっている。アルトリウスもすぐに自身の言葉は飲み込んだ。


「で、でもよ…そんなやつ滅多にいないだろ。今、魔術対策するより剣術とか体術の方がいいんじゃないかな…?」


 ミテラの表情を伺いながら提案する。しかし、それを良しとはしなかった。


「それじゃあダメだ。言っておくが私の拳を受けても気を失う程度のやつなら入団試験は合格できる」


「まじか!?なんだよ、楽勝じゃないか!これならまだ遊んでても問題ないな」


「だが、実践となればてめぇは死ぬ。たとえどんなに剣術や体術のレベルが高いとしても魔術に対応できなければ確実に死ぬ」


 魔術での攻撃は当然アルトリウスは知る由もない。生まれる前の子供が外の世界を知らないのと同じことだ。それでも、先導者は後の者に生きてもらうため最善の対策をおこなう。これが今、ミテラがやろうとしていることだ。


「でもそんなこと言ったって、魔術が使えるやつなんて騎士だけだろ。いつ来るかわからない魔術におびえるぐらいなら今できる別の何かをとびぬけるぐらい強くすればいいんじゃないのか?」


「確かに。騎士の中にはとんでもないバケモノは多くいるがそれは本当に一握りだ」


「ひ、一握りでもいるんだったら大丈夫じゃないか。俺もそんな人達になればいい」


 引きずった笑いで自分を保とうとするが現実は甘くない。ミテラはアルトリウスの目の前で指を三本立たせこう言い放った。


「あの騎士団だけでも3人しかいない」


「3人…まじかよ…ん?待てよ騎士団って何人いるんだ?」


「様々な要因で色々変わって来るが大体200人前後。これに毎年入団する20人前後を加えた220人が目安だと思え」


「220人…そんなにいても3人しかいないのかよ」


「本当に何にも知らねぇんだな。すまないなアルトリウス」


「うん?なんか言ったか?」


「いいや、何でもねぇ」


 キャメロットに関することは孤児院育ちがゆえに知らない。それは教えてもらえていないことが原因ではなく教えてもらう必要がないからだ。アルトリウスが在籍している孤児院はこの国の端にある。そのため、国の現状などは知らなくても問題はない。


 だからといって全てが知らないというわけではなく知っていることもある。例えば、国の中心には城があり近くには闘技場が設立されていること。そして城の周りは栄えていることは知っている。これはミテラの教えではなく食料など生活に必要な物を支給に来てくれる騎士から教わったことだ。


「そういえばそろそろ支給の人ってくるよな?」


「ん?そういえばもうそんな時間が今回は誰が来るんだろうな。まぁ、色んな対策の前に騎士本人から色々聞いてみろ。そうすれば私の偉大さがわかるはずさ」


「それもそうだ。今度きた騎士さんに3人のバケモノのこと教えてもらおう!」


 ミテラの言う得体の知れないバケモノに興味を持ったアルトリウスは騎士が来ることを楽しみにしていた。それをみて呆れると同時に嬉しそうにしたミテラは部屋を後にした。


 静かになった部屋を見渡して壊れた机など掃除し始めた。木くずも綺麗に文句を言いながら掃除していた。そんな中いきなりドアが開いた。


「アルにぃ!起きてる!遊ぼ!!」


 元気な少年の声が部屋中に響き渡る。声の方向に振り向くとそこにはちんちくりんの男の子がいた。彼の名前はハズウという。この孤児院の住人の一人だ。アルトリウスのことは遊んでくれる人型のおもちゃだと思っている。ちなみにアルトリウスはこの子と遊ぶことは極力避けたいと思っている。


「ハズウか…今お兄ちゃんは忙しいんだ他のやつと遊んできなさい」


「嫌だ!俺はアルにぃと遊びたいの!それに他のやつらババアに連れ去られちまった」


「あーなるほど。それは暇だな」


「でしょ!だから俺と遊んで遊んで!」


「だが断る!」


 自分より一回り小さい子供だろうと容赦はしない圧倒的な断り。それには大人げないと感じるも自分のやりたいことを優先したい気持ちの方が強かった。


「嫌だ嫌だ!何でなのさどうせ暇だろ。何ならアルにぃのやりたい遊ぶでもいいから」


 駄々をこねるハズウに対して悩むアルトリウス。しかし脳裏に浮かぶ「有り得ない天才」その言葉がどうしても引っかかる。自分はその枠に入れていないことは分かっているのにもしかしたら、何かの手違いで自分はその天才なのかもしれないと。どうしても他人ごとには感じないのだ。


「(ならここでハズウと戦ってみて実力を試してみるのもありか)」


「ねぇねぇ、どうするんだよ」


「ああ、ごめんごめん。お前がそこまで言うならチャンバラでもしようぜ」


「チャンバラ!いいぜいいぜ。この間リュウエンとやったばかりだから木の棒たくさんあるし」


「へぇー、あのリュウエンがやってくれたんだ」


 リュウエンというのはこの孤児院にいる子供の中で一番の常識人。アルトリウスよりも2歳年下なのだが、ミテラの信用はリュウエンの方がある。動きもしなやかなで何をしても速い。噂ではあるがこの国の出身ではないと言われているが孤児院のメンツは気にしていない。唯一気にしてると言えば騎士に直接スカウトされているという話をアルトリウスが気にしているだけ。


「とりあえずはやく外に出ようぜアルにぃ」


 アルトリウスの腕を掴み階段を降りていく。三階から二階から一階とかけていく。嬉しそうな眼差しで走るハズウは玄関を開け孤児院の傍にある大樹の前に止まった。


「はぁ、はぁ、だいぶ速くなったなハズウ」


「当たり前だよ。毎回リュウエンに追いかけ回されているんだから。それよりこの樹の近くにこの間の木の棒が…あった!これこれ」


 木の根元の部分を掘るハズウ。掘り進めると木の棒が二本で出来た。


「なんでそんな所にあるんだよ」


 アルトリウスは疑問を抱く。


「それはこの間ミテラのババアにばれて物凄く怒られたからだよ。怒られたくなくて仕方なくここに隠してんだよ」


「あははそういうことか。お前も馬鹿だなぁ」


 腹を抱えて笑うアルトリウスに対して怒りを覚えるハズウ。しかし、冷静なのか深呼吸して落ち着いている。


「それよりはやく遊ぼう」


 自身の持っていた木の棒をアルトリウスに渡す。少し振り回しすぐに構える。構え方なんて知らないがミテラの怒る時にもつ箒のように両手で持った。ハズウも同じ構えだった。


「よっしゃ、それじゃ行くぞ。」


「うん!」


「よーい、ドン!」


 開戦の合図ともに草原が風でなびく


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