第二話 『なりたいこと』
この国は空中都市キャメロットと呼ばれる。遥か昔にソロモン王という存在が作り上げた10個の国の1つである。しかし、他の国についてはまだ知らないしなぜ空に浮かばないといけないのか俺には理解できない。何か理由があるにしろ物心ついたころから浮いているんだ今更不思議に感じることもない。ただ、知らないことだらけの俺らでも知ってることがある。それはこの国は今のままでは遠い未来に絶滅していることと下に降りると『魔物』という生き物がうじゃうじゃいることだけだ。
危機的な状況でこの国の未来を考えると下の世界を占領し広い土地を手に入れることが最重要とされている。しかし、並みの人間では魔物に太刀打ちできない。そんな中で唯一魔物と対抗できる存在がいる。それこそが『騎士』という者だ。
騎士がなぜそこまで強いのかはわからないのだが、元々はアルトリウスと同じ人間だった。例え元がどんなに弱くなっても騎士になれば一般人より強くなれることが分かっている。また、騎士の活動には民を守護すること以外に下界の調査がある。一般人はキャメロットから離れることはできないが騎士になればそれが可能になる。このことを知ってからアルトリウスずっと憧れてきた。もちろん未知との遭遇が多いほど死は近づいてくる。博打といっても過言ではない。ミテラはその危険性を今の騎士たちよりも理解している。
「もちろん、なるに決まってる」
憧れていたんだ。絶対にこのチャンスを逃すわけにはいかない。騎士になれるのには2通りしかない。元騎士か在籍中の騎士からの推薦か、16歳になるとおこなわれる騎士団入団試験の2つのみ。俺は後者の方で挑戦する。前者の方はレアケースとなっているため、ほとんどが後者の方で騎士になっている。
「もしもだ、私が今てめぇを殺してでも止めるとしても騎士になるかい…?」
恐ろしい声でこちらに問う。圧倒的な威圧感は部屋全体を駆け巡る。呼吸がしずらいとすぐにわかるぐらい恐怖を感じる。それでもだ、自分のやりたいことに命かけなくてどうする。その覚悟を決めミテラにこう話す。
「どんなことを言われようが自分の憧れのために身を捨てることに疑問なんてない。もしあるのならばそれはただの理想だ。」
真剣な表情で言葉を放つ。本人の覚悟は強固のものだった。それでも彼女は決して変わらない。
ミテラはアルトリウスが寝転んでいるベットに近づく。目や言葉に表さなくても彼女が放つオーラで分かる。『やめろ』と。
「あんたが言いたいことは分かる。それでもだ、あんたは言ったじゃないか。騎士になれば俺の両親のことぐらいすぐに分かるしここでは知らないようなこともたくさん知れるって!」
「・・・・・・」
威圧感は和らぎ確かに言ったと確信していた。孤児院の担当者として子供たちには何不自由なく過ごして欲しい。子供たちには親もいなければ頼る人たちもいない。ならせめてお互い隠し事なくすべてをさらけ出し、安心して生きてほしい。それが彼女の望みである。
「で、でもだ。てめぇの想像以上にそれは険しい道のりで果てしなく遠い世界だ。いつ死んだってわからない。瀕死の状態でも私みたいに救ってくれるものが近くにいないかもしれない。ここなら死ぬことなく長く生きられる。」
「その通りだ。死ぬリスクは高い。でもなりたいんだ。ここで教わったことはちっぽけと思うほど世界は広い。俺はその世界に挑戦してみたいんだ。だからといって死ぬ気はない。」
ベットから起き上がり暗い部屋の中でも分かるように目を向ける。そして彼が放った言葉の強い意志は彼女の想いを持ってしても決して動じることはない。なぜなら、今のキャメロットが生活困難に陥っているからだ。遠い未来に絶滅するといわれているのは食材不足が原因である。孤児院にはアルトリウスよりも小さい子もたくさんいる。そんな子たちに不自由にして欲しくないしここまで見ず知らずの自分を育ててくれたミテラに恩返しがしたい。そんな想いを持って騎士になるのを待っていた。
「・・・・・・懐かしい目だねぇ。どんなに言っても己の意志は変えないということかい。そこまで気持ちがこもっているのならもう止めはしねぇ」
「え?おいおい、拍子抜けだよ。いつもなら『私に反対したら殺す』とか言うのに」
困惑している。いつもなら子供のために動いてきた人だから何か命がかかわれば全力で止めるのに止めない。傍から見たら自分の命を差し出してでも知恵をつけたいと言っている俺を止めたかったはず。それなのに止めない。
「でもこれだけは約束してくれ必ず生きてここに帰ってこい」
穏やかな声でアルトリウスに願いを言う。それは説得を諦めたことを表すかのように。
「最後に一つだけ聞いてもいいか?なんで説得をやめた?あんたに納得させる答えを俺はまだ言ってないのに」
純粋な疑問を抱いた彼はすぐ様に彼女に問う。
「単純だよ。私は知っているてめぇがそうしたいと思ったとき、この暗い部屋からでもわかるぐらい漢の目をしてた。それが昔の知り合いと重なってかけてみたくなったのさ」
なぜか彼女の言葉には悲しさが伝わった。