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ミスティック ナイツ  作者: ミナミ ミツル
第四章 天空の戦乱
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頂上決戦


 ペガーナ騎士団団長アーヴェイン。

 彼の振るう剣は、摩訶不思議なAAがひしめくペガーナ騎士団の中でも指折りの危険物だった。

 導光性エーテル結晶剣『ムング』。

 鞘から抜かれたその刃は、一見淡い光を放っている。

 しかし、それは刃が発光しているのではない。刃と触れ合った空間に満ちるエーテルが発光しているのだ。

 さらに言えば、便宜上剣と呼ばれていても、ムングは本当のところ剣ではない。

 それゆえ正確に言えば刃もない。鎬も峰もない。

 ただし物体を切断するという点では、いかなる刃物にも勝る。

 これはムングを構成する導光性エーテルの特質によるものだ。

 導光性エーテルとは光の媒質となるもので、簡単に言えば絶対に壊せず、超高密度でありながら同時に限りなく希薄でもある、という物質である。

 常識では測れないこの性質の物質を、さらに超々高密度に圧縮し結晶化したとAAがムングであり、触れるもの全てを破壊する魔剣として恐れられていた。


 破壊の剣ムングを握るアーヴェインに対し、ストラスは機械虫たちをけしかけた。

 薄い金属の羽がこすれ合う羽音を立てながら、何百という機械虫が一斉にアーヴェインに群がる。

「喝っ!」

 気合と共にアーヴェインの剣気が唸る。

 眼前に群れる機械虫の第一陣がバラバラに切断された。

「流石だな」

 と、ストラスは呟いた。しかしその表情に焦りはない。

「では、これはどうだ不死殺し!」

 第二陣の機械虫が飛び交い、再びアーヴェインに迫る。

 再びアーヴェインの手にあるムングは機械虫を一瞬で切断した。

 が、その瞬間、機械虫たちは爆発し炎と金属片をまき散らした。

「……!」

 咄嗟にアーヴェインは身を翻し爆発から逃れる。

 だが機械虫の群れはアーヴェインを逃すまいと何処までも追っていく。

「爆発は斬れても防げまい」


 ちいっ。

 内心でアーヴェインは舌を打った。

 視界の端に、自分に向っていない(・・・)機械虫が映ったのである。

 それらは重力遮断物質(ケーバライト)の光柱に向い、ニューハイペリウムを支える機械を解体して、重力遮断物質(ケーバライト)を取り出している。

 時間稼ぎは明白。奴にまともに戦うつもりはない。狙いはあくまで重力遮断物質(ケーバライト)か。

 なら、目に物見せてやろう。

 アーヴェインがムングを八相に構えると、淡く輝くムングが一瞬にして、十倍以上もの長さと太さに膨張した。

「食らえ」

 死の剣が振り下ろされると、ムングに触れた機械虫は次々と爆発していく。そしてムングを振り切った瞬間、一瞬だけそこに道ができた。

 瞬きの間に再び機械虫に塞がれるであろう、その道をアーヴェインは走った。

 雑魚を一匹一匹相手する時間はない。ならば敵の頭を刎ねるしかない。

 アーヴェインの狙いは機械虫を統率するストラスだった。

 だが。


 ――見え透いているわ。

 ストラスは胸の内でアーヴェインを嗤った。

 アーヴェインの神速はタラリスに勝るとも劣らない。

 しかし、アーヴェインの狙いを看破したストラスにとって、いかに速かろうと物の数ではない。

 間合いが詰め切られる前に、機械虫がアーヴェインの活路を塞ぎ、それと同時に自爆した。

 アーヴェインの姿が爆炎に呑みこまれる。

 今度の嘲りは胸中に収まらずストラスの口から出た。

「案外とあっけない」

「ああ、騎士狩りともあろう者がな」

「!?」

 背後から声を聞いたかと思った途端、ストラスの上半身と下半身が両断された。

 驚愕の目を浮かべながら首を回すストラスの目に、爆死したはずのアーヴェインが姿を現した。

「おっ……」

 倒れながらストラスはアーヴェインの戦術に気付いた。

 ムングは光の媒体たるエーテルに干渉する剣である。

 つまり光を歪め、視覚を惑わすことも理論上可能ということだ。


 それにしても戦いの最中、違和感を生じさせないほどの幻を見せるとは……。

 十分に評価していたつもりでも、いささか不死殺しを甘く見ていたということか。

 ただし戦略的な勝敗は別だ。

「ぬ」

 アーヴェインも違和感に気付いた。

 両断されたストラスの切断面から覗くのは、生身の肉体ではなく機械の部品である。

 機械人形!

 身代わりか!

 そう思ったとき、ストラスの姿をした人形は嗤笑を浮かべた。

 そこから発される声は、ニューハイペリウムの上空に浮かんだ旗艦(ザーネース)に座る、本物のストラスが発した声を伝えるものである。

「中々の余興、楽しめたぞアーヴァイン。決闘は貴様の勝ちで良いが、戦争はわしの勝ちだ。ペガーナの残骸と共に落ちるがいい」

 それだけ言って、人形は糸が切れたかのように動かなくなった。

 同時に、ストラスの手足となる機械虫たちも一斉に飛び立って撤退していく。

「くそっ!」

 アーヴェインが吐き捨てると、多くの重力遮断物質(ケーバライト)が抜き取られたニューハイペリウムが、急速に高度を落とし始めていた。



 やれやれ、私は貧乏くじだったな。

 傷ついた体をさすりながら、雷豪君――竜へと変化した咒慍天師は内心ボヤいた。

 戦艦二隻の支援があったとしても、セイレーンの女王の勢いは止め難い。

 タラリスといいセイレーンの女王といい、最近の女はヤンチャで困る。

 そう認めた咒慍天師は、隠し持っていた通信装置を使い、戦艦セガストリオンに命令を伝えた。

『咒慍天師からセガストリオンへ告ぐ。総員退避。旗艦(ザーネース)へと移れ。セガストリオンは放棄する。繰り返す、セガストリオンは放棄する』

 ほぼ同時に、総大将ストラスからも撤退指示が下った。

「目的は達した。撤退する」

 それらの命令は瞬く間に侵攻軍に浸透し、侵略者たちは撤収を開始した。

  ニューハイペリウムの上空に取り付いていた軍団がゆっくりと離脱を開始する

 ぐるりと船首を巡らして、帰投していく攻撃機を見て、状況の変化に気付いたロザリンドは、全身を怒らせてこの世の物とは思えぬ咆哮を上げる。

「このまま逃がすと思うかァァァァァァ!」

 ほぼ不死身の体を持つ咒慍天師さえ、その気迫には怯んだ。

 全く。本当に手に負えないな。

「何をごちゃごちゃ言っている! 一人たりとも逃がさないわ!」

 女王が羽ばたくと、風が渦巻き、まるで獰猛な獣のように唸りを上げる。

 怒りに燃える女王の前に、咒慍天師は立ち塞がった。

「命薄如紙。とはいえこの命、まだくれてやるわけには行かん!」

 竜の姿のまま咒慍天師は虚空に印を結び、裂帛の気迫と共に、その顎から雷を吐き出した。

「かぁぁぁぁっ!」

 閃光が奔り、闇に包まれていたニューハイペリウムを照らす。

 膨大な雷がロザリンドの体を焼き焦がした。

「おおおお……!」

 じゅうじゅうとロザリンドの羽毛と皮膚が焼ける。

「こ、この、女王を舐めるんじゃなぁぁぁぁぁい!!」

 ロザリンドは体を焦がしながら、なおも羽ばたきを続けた。

 咒慍天師の渾身の一撃を浴びながら、なおも前へ前へと進む。


 やはり、止められんか。

 分かっていたさ。セイレーンの女王。

 自身を怪物に変えてまで、この国に尽くしてきた者が、この程度で止まるはずがない。

 咒慍天師は微かにロザリンドを憐れむような視線を向けた。

 そして次の瞬間、武装飛行船セガストリオンが、ロザリンドただ一人を目掛けて突進した。

 目の前に突如として迫る武装飛行船の存在に、さしものロザリンドも目を見開く。

「なに!?」

「全長二百メートルの火船だ。このくらいやらねば、貴方は止まらないだろう」

「こんなのおおおお! 負けるかぁぁぁぁぁ!」

 巨大な女王と、さらに巨大な戦艦が空中で激突した。

 両者は一瞬静止したかと思うと、戦艦に急激な変化が生じる。

 船体の大部分を占める気嚢部分がブクブクと膨張し、やがて万の雷が一斉に落ちたかのような轟音を伴って、武装飛行戦艦セガストリオンは大爆発を起こした。

 無数に砕けたセガストリオンの残骸に混じって、意識を失ったロザリンド女王がニューハイペリウムに落下した。



 既に侵略者たちは撤退を開始している。

 だが、天が焼け焦げ、大地が崩れ、不死身の女王が墜落する。

 それはこの世の終わりの光景だった。

 その地獄の中で、朱の翼を持つ元近衛兵と青の翼の守備隊は、骨肉を食み合うような戦いを続けていた。

 互いに王国を守ろうと誓ったはずの部隊は、いまや宿敵同士となり、握った矛に憎悪を込め殺し合う。

「これが、貴様の望みかオルバ! この地獄が!」

 シャイアの矛がオルバの首筋を掠める。

 刃と刃がぶつかり、死神を喜ばせる甲高い音を立てた。

「改革には必要な犠牲だ! こうでもしなければニューハイペリウムは永遠に変わらん!」

「お前の身勝手な改革の為に何人殺す気だ! やはり貴様に王者の資格はない!」

「資格? 資格だと!?」

 オルバは一旦矛を振るう手を止め、繰り返した。

「それが間違いだというのだ! そう考えていること自体が! そう思わされていること自体が、思考の中に作られた檻なのだ! その檻を壊す為に俺は戦っている!」

 矛を握り直したオルバがシャイアへと迫った。

 ガチッと音を立てて、矛と矛がぶつかる。

「王となるのに資格など必要ない! 誰であれ王を目指せる! 玉座に座るものを殺し、自ら座るができる! それは選ばれたものの特権ではない!」

「王を殺せば王になれる、だと?」

 腕に力を込めながら、シャイアは反論した。

「では医者を殺せば医者になれるのか! お前の言っていることはそう言う事だぞ!」

「ああ、なれるとも」


 くそっ。

 かつての親友には、もはや何を言っても通じなかった。

 完全にイカレている。

 だが。

 シャイアは冷静に状況を見た。

 どういうわけか相手は撤退を始めている。

 戦況自体はこちらが優勢だ。

「お前が後ろ盾だと思っている連中は逃げ出してるぞ。お前は追手を食い止めるだけの捨て駒だ」

「利用してるのはお互い様だ。女王さえいなければ、どうとでもなる。明日には俺がセイレーン族を率いる!」

「はっ!」

 最大限の侮蔑を込めシャイアは嘲笑した。

「あの方が死んだと思っているのか。女王様は死んでいない。その庇護のもとでニューハイペリウムも永遠に健在だ。ここで死ぬお前と違ってな!」

「黙れ、黙れよ! ロザリンドの奴隷が!」

 オルバは叫びながら力任せに矛を振るった。

 その一撃を受けたシャイアの手がしん、と痺れる。

 畜生。馬鹿力め。

 胸の内でシャイアは悪態をつく。

 大振りだが、力強い。オルバの膂力は自分より上だ。もっと言えば一人の武芸者として、自分よりオルバの方が上だ。

 なんたってあいつは近衛兵の隊長だ。

 唯一の例外、ロザリンド女王を除けば、間違いなくオルバこそ国一番の戦士である。

 自分が勝つには、今すぐ技量以外の要素が必要だ。

 くそっ。だが、そんなものが……。

 か細い望みだった。シャイア本人も、そんな都合の良いことがあるとは思っていなかった。

 だが、それはあった。


 翼に風を受けて、シャイアはやや距離を取った。

 強引に攻めてもオルバの防御は崩せない。

 オルバが歪んだ笑貌が浮かべる。攻めあぐねている私を笑っているのだろう。

 好機と見たオルバが一気に迫る。

 まずい。

 矛同士がぶつかり、互いの筋骨を軋ませる。

 相手の吐く息が感じられるほどの距離。膂力での押し合いになった。

 まずい。

「それがお前の限界だ。お前は今の場所に満足して努力を怠った。俺は違う。俺は……過去を踏み、未来へ飛ぶ!」

「……!」

 言い返すこともできない。

 少しでも力を緩めれば、即座に押し切られ、次の瞬間頭を割られそうだ。

 見知ったはずの親友の顔が逆光で影となり、まるで顔なしの、闇に潜む悪魔ように思われた。


 逆光……光。そしてほんのりと伝わってくる、暖かな熱

 シャイアは目を細め、チラりと一瞬オルバの背後にある物を見た。

「女王様……!」

 オルバは雷に撃たれたように驚いて、目を見開いた。

 正統なる支配者、ロザリンド女王。その存在は簒奪者の恐怖だ。

 そして、脳の原始的な部分が命じるまま、反射的に振り返る。

 しかし――そこには誰もいなかった。

 熱と光を放っていたのは、遥か彼方で燃え盛る恒星、太陽である。

「あ……」

「遅いわ!」

 オルバが引っ掛けに気付いたとき、シャイアの矛はオルバの右の翼を叩き斬っていた。

「そん……な」

 ……この俺が負けた……?

 落ちていく。翼が風を受けきれない……落ちていく。

 自分が落下していく感触は、身の毛もよだつ感覚だった。

 そしてそれ以上に、敗北という絶望の衝撃と実感が、オルバを気絶寸前まで追いやった。


「……」

 混濁した意識の中で、オルバは全身に強い痛みを感じた。

 体に伝わる石畳の感触で、自分が叩き落されたことを知る。

 体が動かねえ。死んだな、これは。

 ぼうっとする視界にシャイアが現れた。勝ち誇るでもなく、ただ悲しい表情で、こちらを見下ろしている。

「よお。お前の勝ちだ」

「……」

「聞きてえことがある。敗因が分らねえ。いつも俺の方が勝ってたのによ……」

「お前は自分の未来の為に、過去多くの人間が紡いできた物をメチャクチャにしようとした。女王様も私たちも、それを未来に繋げる為に戦っている。その違いが勝敗を分けたのだろう」

「……お上品な答えだな、聞きたくない」

「私も一つ聞きたい。なぜ地上で私に会いに来た? そんなことをするメリットはなかったはずだ」

 オルバは答えを躊躇ったが、結局は口を開いた。

 十秒後に死ぬのに、何を恥ずかしがる必要がある?

「お前を誘いたかった。飛ぶなら、お前と一緒に……」

「……バカ野郎」

 シャイアは痛哭の念と共に、友の亡骸にそう吐き捨てた。

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