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ミスティック ナイツ  作者: ミナミ ミツル
第四章 天空の戦乱
37/40

騎士たちの戦い

 天空の戦いは佳境に達していた。

 野望のために立った者。

 国を守るために奮闘する者。

 欲望のため天上の世界を侵さんとする者。

 義によって奔走する者。

 怨みを晴らさんとする者。

 幾つもの戦場で意地と意地がぶつかり合い、流された血は雨の如く地上に降り注ぐ。



 ニューハイペリウム軍と、不死の同盟軍の揚陸戦力がぶつかった『ステージ』の戦いでは、ゴーシュ、アーシム、サヒーラの三名の騎士が不死の同盟きっての武闘派バハラーンと対峙していた。

「アーシム、サヒーラ、いくぞ!」

 ゴーシュは二振りの剣を抜きバハラーンへと飛び掛かった。その左右をサヒーラとアーシムが走る。

 対するバハラーンは飛行能力を生かし、空から三人を迎え撃とうと、飛び立つ構えを見せた。

 ゴーシュが素早く叫ぶ。

「アーシム!」

「おう!」

 そう答えたアーシムが両手を突き出すと、鋭い旋風が巻き上がりバハラーンが飛び立つのを妨害する。

 さらにサヒーラが手をかざすと、バハラーンの周囲に光の檻が出現し、さらにその動きを制す。

 疾風と物質化した光を操るAAを用い、相手の動きを阻害して戦うのは、アーシム&サヒーラペアの基本戦術である。


 閉じ込められたバハラーンの瞳には、炎刃と氷刃という二振りの剣が唸りを上げ迫ってくるのが映った。

「おのれ!」

 喝っとバハラーンは目を見開き、両手の拳をぶつけ合わせた。

 その瞬間、まるで大気が固体と化し襲ってくるかのよう、凄まじい低重音が響いた。

 光の檻はガラスの様に砕け、三名も衝撃に吹き飛ばされる。


「ちぃっ。化け物め、簡単にはいかねえか!」

 いち早く立ち上がったアーシムに続き、ゴーシュとサヒーラもフラフラと立ち上がる。

「なんだいあのAAは?」

 サヒーラが問うと、傍らのゴーシュが答えた。

「恐らくは超振動! 大気を振動させ、衝撃波を発生させている!」

「正解だ小僧」

 バハラーンは三人を見下した調子で言った

「お互い手の内を明かしたところで、本気で殺し合おうか! ペガーナの騎士の力を見せてみろ!」

「なんでさっきから上から目線なんだい」

「……あまり調子に乗るなよ」

「貴様の不死は今日で終わりだ!」

 三人の騎士は裂帛の気迫を見せながらバハラーンへと迫った。

 干戈の音は止むことなく続く。



 ニューハイペリウム内部構造体の広間で、タラリスとアキレイアは対峙していた。

 二人の戦いは、国家の存亡や不死への願望などという巨大な目的とは無縁である。

 もっと小さな理由の為に、二人はこれから殺し合う。

 恥をかかされた。だから殺す。

 受けて立つ。である。

 そもそもが性的なハニートラップを発端とした醜い争いだが、その生臭い醜聞を消すため、アキレイアはたった一人でタラリスの前に現れた。

 つまり正々堂々とした決闘。

 タラリスにもその意図は分ったが、こちらも遊びではない。プライベートならタイマンなんていくらでも張ってやるが、いまは仕事中だ。

 相手に付き合ってやる義理はない。

 マロに()ったタラリスは、オオカミの背を撫でる。

「ワルいね、アキレイア。一対一じゃなくて」

「構わん。エルフの戦士は人狼一体なのだろう。お前の本当の姿を見せてみろ、ステァ」

「いいよ。まず……私はタラリスだ。ステァじゃない」


 手綱を通してマロに走れと伝えると、人狼一体の騎士の姿は周囲に溶け、一筋の風になった。

 それはリノーフのエルフたちが誇る神速の機動である。

 さらに、この風は重力に縛られない。

 巨木の生い茂るエルフ世界出身のオオカミは、平らな野を走るが如く、直立した樹木を駆け上ることができる。

 そのオオカミが壁や天井のある場所で走り回った場合、天地上下の区別なく疾走するのは必然である。

 それほどの速度と無軌道ぶりの中で、タラリスは両手を手綱から離し、弓に矢を番えて狙いを定めた。


 旋風が鉄の矢を吐いた。

 飛来する矢を躱しつつ、タラリスの恐ろしいほどの技量にアキレイアは目を見張った。

 現実の光景とは思えない。

 エルフの騎士は、まるで死の使いだった。恐ろしく、同時に美しい。

 なるほど。咒慍天師が怖じ気づき、キャリバンが殺されるわけだ。

 内心アキレイアは唸る。

 だが。

 自分はその二人とは違う。自分は坊主でも快楽殺人者でもない。

 ……恐れを知らぬアマゾン族だ。

「ステァ、いやタラリス! 見るがいい。これこそ私のAA、フォボスだ!」

 アキレイアの身に着けた武具が血のように赤く輝く。

 特に槍の刃は血が滴っているかのように妖しい光を放っていた。


 一方タラリスもアキレイアの持つ戦力に驚いていた。

 既に七矢を放っていたが、被弾はゼロ。上手くいなされている。

 想像以上にやる。

 そう思っていたところにアキレイアの武装が深紅に染まった。

 本領を発揮するらしい。

 特にあの槍はヤバそうだ。


 ――試すか。

 タラリスはあえてアキレイアの正面で鉄弓を引き絞った。

 獰猛な矢が風を鳴らす。

 だが、矢がアキレイアの心臓を貫く前に、深紅の槍がそれを阻んだ。

 アキレイアの槍はただ矢を打ち払っただけでない。

 両者が接触するやいなや、鉄の矢は一瞬で錆つき、崩れ去ったのだ。

 フォボスとは、強力な酸化現象を引き起こし、物質の崩壊を引き起こす破壊の槍だった。

 その背後にどのような科学理論が潜んでいるかタラリスには分からないが、それがどれほど危険かは一瞬で理解できた。

 かつて隆盛を極めたはずのペガーナ文明。

 それが残した旧世界の遺物(AA)が極端に少ないのは、文明の痕跡さえ消し去る兵器が多数使われたからなのだ、とまことしやかに語られている。

 間違いなく、フォボスはそのような兵器の一つだった。


恐怖(フォボス)に触れたものは死体さえ残らねえぞ。残るのは、ただ敗れ去ったという事実だけだ」

「おっかないな」

 口ではそう言いつつ、うなじがゾクゾクする感覚にタラリスはうち震えた。

 死を感じる。そのことが生を実感させる。

「アキレイア。一つ言う事がある」

「ああ?」

「前に猿だと言ったことは謝るわ。いまのお前は奇麗だよ、ダーリン」

「っ!」

 タラリスの顔に浮かんだ表情を見て、アキレイアはぞっとした。

 怨みのこもった皮肉ではない。余裕のある冷笑でもない。

 タラリスは身命を賭した戦いに、歓喜している。

 不死を求める者にとって、それは病的な破滅願望に映った。

「それがお前の本性か。望み通り消し去ってやるよ!」


 アキレイアの装備は破壊の槍だけではない。着込んだ鎧は、肉体を強化する一種のパワードスーツである。

 それゆえアキレイアはマロにも劣らない速度で踏み込んだ。

 恐怖(フォボス)の刃が閃き、エルフとオオカミはそれを紙一重で避ける。

 一瞬の攻防。

 タラリスは矢が放ったが、アキレイアは苦も無くそれを切り払った。

 初めてタラリス・マロのコンビが退く。

「逃げられんぞ」

 アキレイアは恐怖(フォボス)を持ち替え、勢いよく投擲した。

 タラリスとマロは射線から退避したが、恐怖(フォボス)は真っ直ぐ飛ぶのではなく、当然のように目標を追尾する。

 障害物を崩壊させながら恐怖(フォボス)がタラリスに迫った。


 まずい。

 確実に迫る死の予感にタラリスの集中が研ぎ澄まされる。

 時間感覚の引き伸ばし、永遠の刹那エターナル・モーメントが発動した。

 だが、その中ですら恐怖(フォボス)は完全には止まらない。凍り付いた時間の中ですら、死をもたらすべく恐怖(フォボス)がやって来る。

 どうする?

 タラリスは周囲をざっと確認した。

 足止めになりそうなものはない。

 が。

「……!」

 視界の端に丸窓が映ったとき、タラリスの戦略は決まった。


 ……恐怖(フォボス)は、止められない。

 凄い武器だ。

 それがタラリスの出した答えだった。

 矢で射ち落そうとも恐怖(フォボス)に触れた瞬間に矢は錆ついて砕かれるのがオチだろう。

 だから狙うのは恐怖(フォボス)ではない。

 いま狙うべきは最大の武器を手放している本体(アキレイア)だ。


 タラリスは矢を二本掴むと、弓に番えずそれを直接アキレイアに向って投げつけた。

 そのうちの一本がアキレイアの顔面を掠めると、恐怖(フォボス)はタラリスの追尾を中断し、アキレイアの手元に戻った。

 間髪なく、タラリスは矢を投げつける。

 弓に番えるよりも威力は落ちるものの、弓を引く動作もなく二本三本を同時に投げるため、連射という点では比較にならない。

 最初の数射、アキレイアは恐怖(フォボス)を振るい、矢を防いだ。

 しかし続く投擲は防ぎきれず、矢の一本がアキレイアの腕に突き刺さり、壁へと縫い留めた。

 飛び散った血がべっとりと丸窓に飛び散るも、アキレイアは平然としている。

「けっ。このくらいで私は死なねえぞ!」

 でしょうね。

 と、タラリスも内心同意する。

 でもここがどこか知ってるか、ダーリン。

 アキレイアが状況を理解する前に、マロの体当たりが壁ごとアキレイアを押し潰した。

「がっ……!」

 1トン近いマロの突進を受けても、アキレイアにとって致命傷ではない。腕が貫かれても内臓が潰れても、すぐに再生が始まる。

「無駄……」

 そう言おうとしたアキレイアは絶句した。

 壁を突き抜けた先に、叩きつけられるはずの地面がない。

 浮遊感が全身を包む。

 上を見れば、オオカミに乗ったタラリスがこちらを見下ろしている。

 体当たりはダメージを目的としたものではなかった。

 私をニューハイペリウムから突き落とすための――。

「く、クッソォォォォッ!」

 絶叫しながらアキレイアは落ちていく。


「丸窓に寄りかかったらいけませんよ、ってな」

 タラリスはホッとして落ちていくアキレイアを見下ろしていた。

 まともに戦ったらもっと苦戦していただろう。いまはそんな時間はない。

「マロ! ローズを追って! ハイドラ・プラントを止めるぞ!」



 カッカッカッカッカッカッカッカッ。

 一定でブレのないリズムを刻み、ローズはハイドラ・プラントの幹に向って走り続けた。

 そうしていくうち、この任務は他の誰でもなく自分がやるべきだという確信が強まる。

 ハイドラ・プラントは、能動的に動く動物的な特性を持ってはいるが、それでも植物だった。

 つまり視覚も、それを処理するための脳もない。

 獲物に反応している様に見えるのは、あくまで単純な反射行動である。

 恐らく動物の体温や呼気に反応して枝を伸ばし、捕食するのだろう、とローズは思った。

 というのは、こうして走っているうちに何度かハイドラ・プラントの枝に出くわしても、自分に対する反応が鈍いのである。

 今日のところは機械の体に感謝した。

 体温はともかく、呼気を発しない自分は、ハイドラ・プラントにとってまるで影のような存在なのだろう。

「一気に片づけるのです!」」


「おっ到着なのです。ここが――」

 そうしてしばらく走っていると、ローズはついにハイドラ・プラントの幹のある場所へと到達した。

 さきほどタラリスから受け取ったバッグを開き、中身を確認する。

 タラリスは除草剤などと言ったが、勿論そんな代物ではない。

 E-50とその起爆装置。

 ペガーナ騎士団が製造できる個人携帯可能な爆弾の中で最強の威力を持つ。

 これを根元に取り付けて爆破すれば流石のハイドラ・プラントも破壊できるだろう。

 

 仰ぎ見る様にしてハイドラ・プラントの全容を確認しようとしたその時である。

 獰猛な枝がローズの存在に反応し、牙を剥いた。

「うっ」

 ローズは驚きつつ身を躱した。

 どうやらハイドラ・プラントの感覚は、幹に近づくほど敏感になるらしい。

 視覚を持たないはずのハイドラ・プラントの枝が、まるでこちらを窺うように一斉に鎌首をもたげていた。

 巨大な蛇の群れとでもいうような光景に、ローズはたじろいだ。

 ……怖いのです。

 ローズの内部で、人間の思考を模した精巧なアルゴリズムが反応した。

 機械人形は恐怖を感じる。

 しかし起動して学んだことがある。それは恐怖を乗り越え戦うペガーナの騎士の気高さだ。


 エネルギーの切れたバッテリーをパージし、身軽になったローズは、大蛇の群れの中に飛び込んだ。

 たちまち無数の鋭い牙を持った顎がローズを狙って動き出す。

 一つだけでも脅威。それが四つ五つと数を増しながら、ローズに襲い掛かった。


 もしタラリスならこんなときどうするだろう。

 きっと信じられないほどの動体視力とスピードで、相手の動きを見切ってしまうに違いない。

 けど、私のやり方は違う。

 ローズが会得した回転による戦法も、多くの敵を相手にするには不十分だ。

 だがここで、ローズの身のこなしはさらに一段階進化した。

 死の大口が迫る寸前で、ローズの体はひらりと優雅にそれを避ける。

 その動きはまるで風に舞う木の葉のように儚げで、頼りないものだった。

 しかしそれでも、当たらない。

 ひらひらとローズは枝の猛攻を避けながら、ハイドラ・プラントの幹へと近づく。

 その動きは、制御された不安定性と呼ばれる物だった。

 自然界でこのように動くものの例として、蝶の飛行が挙げられる。

 ひらひらと断続的に上下し、いかにも弱々しい飛行は半ば墜落しているのをギリギリで支えている、と表現してよいだろう。

 しかし、蝶を丹念に調べると、彼らの体の構造は飛行から想像されるほど貧弱ではないという。

 一般的に見られるモンシロチョウですら、その気になれば全くブレずに一直線に飛べるだけの筋力を有している。

 そうであるにも関わらず、蝶が遅く、飛行距離当たりの体力の消費も大きく、しかも天敵の目を引くような飛行をするのは、それを補って有り余るメリットがあるからだ。

 それほど蝶の動きは予想しづらく、捕えづらい。

 ローズの動きはまさにそのようなものだった。

 人に非ざる計算能力を持つローズならではの、ランダム性を取り入れた機動である。


 ひー!

 ちょっと後悔なのです!

 ローズは内心嘆息した。

 予想より負担が大きい。ランダム性は最適さとは相反する要素だ。

 陽電子頭脳からは火が出そうだし、足はもつれて転んでしまいそうだった。

 だが止まった瞬間、地獄の植物の餌食だろう。

 襲い来る枝を右へ逸らし、くぐって避け、或いは飛び越える。

 幹に近づけば近づくほど、抵抗が激しくなる。

 けれど、これでいいのです。

 ローズはタラリスの言葉を思い出していた。

 生物は重要な部分を安全な場所に置きたがる。

 植物は構造的に動物のような臓器を持たないが、それでも抵抗の激しさがハイドラ・プラントが守りたい場所の存在を示唆していた。


 このままいける。

 そう思った時だった。

 焦りか、体の限界か、それとも不運か。

 鞭のようにしなったハイドラ・プラントの枝がローズの体を捉えた。

 バチンッという音がしてボールのようにローズの体が吹き飛ぶ。

「かはっ……」

 衝撃を受けて一瞬意識が飛ぶのは人も機械も同じらしい。

 気が付くとローズは地面の上に転がっていた。

「う……く……」

 しくじったのです。

 ふ、ふ。

 やはりタラリスのようにはいきませんか。けれど、この程度では諦めないのです。

 と、少し自嘲しながらローズは立ち上がった。

 ローズ自身も気付いていないが、地面に叩きつけられた際、意識がなくとも彼女は受け身を取っていた。

 そして傷つきながら相手に向かっていく不屈ぶりは、まさにタラリスを彷彿させる。

 エルフと過ごした日々は間違いなくローズを進化させていた。


 二度目の挑戦(アタック)。ローズは最短距離を通るのではなく、迂回しつつハイドラ・プラントの懐を目指す。

 さっきは自分の動きに気を取られ過ぎたのです。

 ローズは一度目の失敗をそう分析した。

 欠けていたのは相手の観察である。

 相手をよく見ろ、というタラリスの言葉を思い出した。

「……なるほど」

 注意深く観察すれば、巨大な枝はその巨大さゆえに相互に動きを阻害しあっていて、攻撃のルートが限られている。

 相手が攻撃し辛い場所に居れば、それだけで被弾率は下がる。

 基本を忘れていたのです。

 二度目の歩みは一度目より遅い。

 しかし、二度目はより危なげなく、ローズはハイドラ・プラントの根本へと近づいた。


 それでも幹から二十メートルほどというところで、ローズは立ち止まらず得なくなった。

 相手の手数が多すぎて、これ以上近づけない。飛ぼうが屈もうがこれ以上は無理だ。突き進んでも先ほどの二の舞になる。

 再びタラリスの言葉がローズの背中を押す

『もっと工夫しなさい。正直すぎる。ずるく戦わなきゃ』

「……そうですね。よく分かったのです」

 そういえば自分は機械だった。人にはない機能がある。

「終わりなのです!」

 ドカンッ!

 ローズの手は爆弾を握ったまま、勢いよく飛び出した。

 ロケットパンチというのは安直なネーミングだが、これ以上なくこの機能を表している。

 小さな腕はハイドラ・プラントの棘や牙をすり抜け巨大な幹の根元に爆弾を接着した。

 勝利の笑みを浮かべる間もなく、肘とその先を繋ぐ高密度ワイヤーが巻き戻し、ローズは急いで後退した。

 E-50ともなれば、強固な城壁を備えた要塞を攻撃する為に使用するのが本来の用途である。

 巻き込まれでもしたら笑い話にもならない。

「起爆!」

 十分に距離を取った上でローズはスイッチを押した。

 しかしその衝撃は、想像以上だった。

 熱と閃光が分厚いコンクリートの壁を貫通し、ニューハイペリウムそのものを揺るがす。

「……!」

 爆風でローズの体が浮き上がった。

 衝撃に備え咄嗟にローズは受け身の体勢を取る。

 そのとき、何かがローズの体を掴み、グイと引き寄せる。

 あまりの力強さにハイドラ・プラントの枝がまだ生きていて襲われたと思ったが、馴染みのある声がローズを安心させた。

「草刈り終わったかい?」

 軽い調子でタラリスが言った。

「はい!」

「よくやったね。お駄賃をあげないと――……!」

 言いながらタラリスのニヤけた顔がみるみる硬直していく。

 次の瞬間、ニューハイペリウムが再びグラグラと揺れた。

 何度か感じた揺れはますます大きくなっているようだった。

 ローズは不安になり、顔を上げて尋ねた。

「いまのは私がE-50を起動させたせいなのですか?」

「いや違う。さっきのは今までの揺れと同じだ。上でやってる戦争の衝撃だと思ってたけど、どうやらそれも違う……いまのは下から響いてる感じがした」

 ここよりさらに下の層と聞いて、ローズはハッとした。

「もしかしたら……反重力制御の異常!? もしそうならニューハイペリウムがバラバラになってしまうのです!」

「そいつは悪いニュースだな。だけど良いニュースもある」

「なんですかそれは?」

「まだバラバラになってないし、私たちがいる。さあ急ごう、もう一仕事だ!」

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