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ミスティック ナイツ  作者: ミナミ ミツル
第三章 ワンダフル・ライフ
26/40

それぞれの結末、それぞれの始まり

 犠牲者を出しながらも遺跡の調査を完了し、調査隊はペガーナ城へと帰還した。

 しかし、廊下の前でタラリスとすれ違ったゴーシュにはまだ暗い影が浮かんでいた。

 無理もない、とタラリスは思った。

 相棒が死んで平気でいられるわけがない。

 さらにもっと深刻なのは、ゴーシュが何日もそれに気付かなかったということだ。

 相棒は殺され、敵と入れ替わっていたのに、全くその事実に気付かなかった、そのせいで死者まで出た。

 そのことでゴーシュは誰よりも自分を責めていた。

 今回の事件がもたらした燃えるような怒りが消えると、その後にゴーシュに残ったのは空虚な灰の如き感情だった。


 タラリスとゴーシュと馬が合わず、顔を突き合わせるたびにやり合っていたが、いまのゴーシュは打ちのめされ、タラリスとやり合うどころではなかった。

 普段喧嘩していたタラリスだからこそ、その姿はより痛々しいものに思えた。

 元気だとムカつくが、静かだとこっちの調子まで狂う。

「……ねえ。大丈夫?」

「いや、大丈夫ではない。お前に心配されるとは、いよいよ俺もヤキが回ったようだ。ダルシーが死んでいても気付かないわけだ」

「だからそういうのはやめろって。気付かなかったのは私たち全員だろ。お前だけじゃない」

「だが、俺は気付くべきだった! 俺が……」

「自分を責めるのはいいけどさ、ダルシーが死んだのは本当にそれだけが原因だと思ってる?」

「どういうことだ?」

「入れ替わり野郎と戦ったとき、途中でそいつダルシーそっくりの動きをしたんだよ。けどさ、正直言ってなまっちょろい突きだったよ。そのときちょっと思ったんだ、ダルシーが殺されたのは単に力不足だったせいなんじゃないのって」

「なんだと!?」

 カッとなったゴーシュはタラリスの頬を思いきり殴りつけた。

 鈍い音がして、タラリスは壁にぶつかり、その衝撃で周囲が僅かに揺れる。

 さらにゴーシュはタラリスの胸倉を掴み、ぐいと吊り上げた。

「もう一度言ってみろ!」


「タラリス!?」

「いい」

 ローズが止めに入ろうとするが、タラリスは身振りでローズを制止した。

「ふん。まだ元気じゃない。やっぱりアンタみたいな奴は慰めるより怒らせる方がいいな」

「あ?」

「やる気出たでしょ。ダルシーのこと悪く言ったのはごめん。だから一発は殴らせてあげたけど、それ以上はぶつける相手が違うでしょ」

「ぬう……」

 タラリスの真意を悟ったゴーシュは怒りの矛先を失い、ギリギリと歯ぎしりした。

「……早く下ろして。服が伸びる」

 躊躇いがちにゴーシュがタラリスを下ろす。

 胸元を整えながらタラリスが言った。

「さっきも言ったけど気付かなかったのは私も同じ。一人で抱え込まないで」

「……悪かった」

 ゴーシュはようやく喉の奥から声を絞り出した。

「だが俺の相棒は弱くない。俺がそれを証明してやる」

 そういうとゴーシュはその場を後にした。その歩みは、先ほどまでより確かなものになっていた。


「タラリス……痛くないのですか」

 ローズが心配して言うとタラリスは頬をさすった。

「痛くないわけないでしょ! アザになったら治療費と美容代請求してやる」

 そうしたちょっとしたトラブルがありながらも、二人は団長の執務室へと向かった。


「入れ」

 室内からアーヴェイン団長がそういうと、タラリスとローズは揃って入室する。

 アーヴェインは苦虫を噛み潰した顔で二人を見た。

 そのままじっと無言で二人を睨みつける。

「……」

「どうしたの。言いたいことがあるなら言いなさいよ」

「報告書には目を通したタラリス卿」

 アーヴェインの言葉は、普段よりも他人行儀な呼び方で始まった。声にもいつもより硬質な響きがある。

「出発前に俺が言ったお前の役目は何だった?」

「ローズを守ること」

「で、それを放り出して敵と戦いにいったそうだな」


 それここで言うかと思ったが、しぶしぶながらもタラリスはそれを認めた。

「ああ、行った」

「しかしアーヴェイン団長、あの時はそうしなければもっと被害が出ていたのです! それにタラリスはマロに私を守るようちゃんと言いつけていました。決して私をほったらかしにしたわけではないのです」

 ローズがタラリスを擁護すると、今度はアーヴェインの目がローズの方を向いた。

「それで、ローズ。お前はお前でマロと一緒に大立ち回りを演じたそうだな」

「あうっ」

「お前は守備隊の一員ではなく調査の手伝いという名目で遺跡に行ったんだ。このような場合、守備隊の指示に従って避難しろと言ったはずだが」

「それは……はい。そうなのです……」


 しおしおとローズの声が小さくなっていく。

 畳みかける様にアーヴェインは続ける。

「命令が聞けないなら、お前たち二人はしばらく謹慎した方がいいと俺は思う。だが……」

 そこまで言うとアーヴェインは深い溜め息を吐いた。

「だが、諜報部から不死の同盟の末端組織が近頃活発に活動しているという情報が入った。残念ながら呑気にお前たちを休ませておくほど人的余裕はない」

「つまりお咎めなし?」

「許したわけじゃない。こき使う方向で罰を与えるということだ。覚悟しておけ。いいな!」

「了解、団長」

「もう行け。追って次の任務を与える」


 タラリスは一礼してすぐ出て行こうとしたが、ローズは戸惑った風に立ち尽くした。

「あの、アーヴェイン団長……」

「なんだ?」

「騎士団領の外に出ることは禁止されている私はどうしたらよいのですか? タラリスと別れて技術開発部の手伝いということなのですか?」

「……キャンプの守備隊が提出した報告書だ」

 アーヴェインは机の上にファイルにまとめられた紙を乱暴に置いた。

「お前たちは命令を守らなかったが、そのおかげで被害が最小限で済んだのもまた事実。報告書にはローズとマロの戦いぶりは正規の騎士にも匹敵するとある。お前を騎士団の戦力として数えるのに十分な評価だ」

「ということは?」

「技術部から犠牲者が出たせいで領内の市民や非戦闘員が動揺している。いまは嫌な空気を吹き飛ばす勝利が必要だ。それもたくさんの勝利が。ローズ、これからお前は正式に騎士の見習いとなる。タラリスと共に不死の同盟を叩き潰せ!」

「はい! 了解なのです! いまある世界のために!」

 ローズはぴしっと背筋を伸ばし、ペガーナ騎士団の誓いの言葉を唱えて敬礼した。



 その夜のことである。

 タラリス、ローズ、そしてマロはペガーナ城と城下町を一望できる丘に登っていた。

 丘には建設途中の発電用風車が立ち並び、そのうちのいくつかは既に完成していて、風を受けてゆっくりと回転している。

 そうした風車の一つにもたれて座っていたのは技術開発部の部長、アーサー卿だった。

 一行は、アーサー卿を見つけるとその傍へと近づいた。


「やあ、タラリス。こんばんは。呼び出して済まなかったな」

「いいよ別に」

 タラリスとローズはアーサーの隣に座る。

 月光に照らされる街を眺めながらアーサーが口を開いた。

 いつものような大声ではなく、穏やかで寂しげな口調だった.

「嫌なもんだ。自分より若い奴が死ぬのは……」

「ああ」

「私がペガーナ騎士団に入ったのは……エミールくらいの歳だった……三十年、いやもっと前か……すっかり年を取った」


 アーサー卿の言う時代はタラリスが入団するよりさらに前の時代だった。

 タラリスでも何度か話に聞いたことしかない

「その頃は大変だったんだってね。いまとはまた違う感じで」

「ああ。ペガーナ騎士団の大改革の真っ最中だった。旧来の方法を見直して新しい運営方法を模索していた。ふっ、だから私みたいな変人も呼ばれたんだ」

「変人を入れた甲斐はあったと思うよ。私の見た限り改革は上手くいった」

「私もそう思うのです」

「ああ。自画自賛になるが、私もまあまあ上手くやれていたと思う。これまでは。だが、そろそろ才気ある若者に席を譲るときが近づいてると思っていた」


 アーサーは額に手を当てて、ぎゅっと目を瞑った。

「私のミスだ。私がゴルドーへ行って、エミールをここに残すべきだった。よくも、こんなことを……」

 アーサーの目から雫が垂れた。

 さらに嗚咽を抑え込みながら呟く。

「許してくれ、エミール」

「アーサー……エミールは私が看取った。あの子はあんたを恨んだりしてないよ。最後の瞬間まであんたを信じてた」

「……」

「それにさ、私はあんたらに比べりゃあんま頭良くないけど、調査団の中でエミールがすげえ頑張って戦ってたのは分かる。自分のできる方法でね。剣や銃を持ってなくても、エミールは戦士だった。死んだことに後悔はしていないはずさ」

「エミールが戦士?」

「巨人のようだったよ。そんな戦士の霊を慰める方法はたった一つ、生き残った奴が戦いに勝つことだ。まだ隠居はできないぞアーサー卿」

「そうか……」

「で、ついでに聞くけど、エミールが最後に言ってた有翼人(セイレーン)ってのはなによ?」

有翼人(セイレーン)か……」


 アーサー卿は少し考えてから記憶の奥から彼らのついての情報を引き出した。

「それは戦乱世界(ウォーランド)の種族だ」

「聞いたことないけど」

「だろうな。有翼人(セイレーン)は二百年くらい前に戦争に負けて自国の領土を失い、それ以降は生き残りも散り散りになって、やがて目撃したという声もなくなって久しい。私もとっくに絶滅したと思っていた」

「なるほど! その有翼人(セイレーン)の生き残りが空中都市を見つけて移り住んだとすれば、エミールを悩ませていた二つの種類の遺物の謎が解けるのです! 一方は古代人の作った物で、もう一方は後から有翼人(セイレーン)が作ったものということですね!」

「ああ。まだ有翼人(セイレーン)がいるという確証はないが、彼らとコンタクトを取る方法を考えておいた方が良いかも知れんな……」


 そのときアーサーの胸からジリジリという音が鳴った。

 アーサーは懐中時計を取り出してアラームを止める。

「時間だ……」

 その言葉が合図になったかのように、ペガーナ城の明かりが一際強く輝いたかと思うと、その強い明りが伝染したかのように眼下の町までもがポツポツと輝きだした。

 まるで星々が地上に舞い降りたかのような明かりに、タラリスは立ち上がって目を丸くした。

「おおお……凄いな! なんだこれ!?」

「町で光っているのは電灯だよ。ペガーナ城の明かりも、それまでの小さな発電機から、たったいまこの風車に切り替わったんだ。他に三キロ先の川にも水車を置いていて、そこからも電気を引っ張っている。これから毎日、この明かりが灯る」

「凄く奇麗なのです! この短期間によくこれだけの街灯を設置しましたね、アーサー卿!」

「ああ。エミールに見せたかったんだ。この科学の明かりを……」

「……見ているさ」

 タラリスが呟くと、滅多に吠えないマロが大きな声で遠吠えをした。

「ウォォォォォォォォォォォォ……」

 それはまるで、見えない何かを感じ取ったかのようだった。



 同じ晩のことである。

 重々しい通信機械が唸りを上げ、薄暗い地下の底で今宵も月光会議が開かれていた。

 粒子を通して現れた一同の面子を見渡すと、咒慍天師は首を斜めに傾げた。


「やはりキャリバンはいない、か。だからここ最近のペガーナの騎士は危険だと言ったのだが」

「ふん。果たしてそうかな。奴のエグゼキューターは強力なAAだが、それゆえ奴は相手を侮り戦局を見誤ることも多かった。身を滅ぼしたのは自業自得だ」

 と、竜の姿をしたバハラーンが辛辣に言う。

「私はどっちでもいいけどよ。仲間が死んだんだから、けしかけた奴が何か責任取るべきじゃないか? なぁ、仲間が死んだんだぜ、どう落とし前付ける気だよ、ストラス」

 この間の続きとばかりに、アキレイアがストラスをなじる。

 だがストラスも負けずに混ぜっ返した。

「仲間? 白々しいなアキレイア。お主がそこまで他人のことを気にかけていたとは思えぬが。なにせ裏切りはお主の得意とするところだからな」

「なんだと!?」


「やめろやめろ。命薄如紙、乾坤似虚……死んだ者のことはこの際どうでもいい」

 と咒慍天師が間に入り二人の応酬を止めた。

「それよりも重要なのはキャリバンが潜入して得た情報だ。なにか分かったことはないかストラス公」

「特別な情報はない」

「ふ、無駄死にってわけか」

「結論を急ぎ過ぎだ、アキレイア。新たな情報こそなかったが、わしのこれまでの予測を裏付けることはできた。すなわち、我々でもペガーナ騎士団でもない第三者が既に空中都市を発見し、占拠しているということがな」

「まさか古代ペガーナ人が生き残っているのか!?」

「その可能性は低い。もしも古代人なら、コソコソ隠れずとも空中都市の力をもって世界征服でも何でもすればよいではないか。いま空中都市にいるのはもっとずっと下等な連中よ。せっかく手に入れたAAの力を活かせぬ者たちだ」

「……と言っても、既に占拠者がいるのなら戦いとなるだろう。それに天空に浮かぶ都市となれば、乗り込む手段も限られる」

「天師、それについては心配いらぬ。次の戦はわしも動こう。なんとなれば、今までわしが動けなかったのは全てこの戦の準備のため」

「ほう。それは頼もしい。では私も一口乗ろう」

「ストラス。咒慍天師だけじゃなく私の分の席も用意しとけよ」

「貴様も来るのか、アキレイア?」

「当ったり前だ。テメーが自分で動くってことは、本当に重要なもんがそこにあるってことだろうが。抜け駆けさせるかよ」

「俺も行こう」

 咒慍天師、アキレイアに続いてバハラーンが唸るように言った。

「次は面白い戦いになりそうだな」




 さらに同刻。地下で蠢くものがあれば、天の上に座すものたちもいた。


 その王座は並の玉座の十倍は巨大だった。王座に君臨する女王もまたそれに見合う並外れた巨躯の持ち主だった。

 玉座の前で組んだ足には猛禽の如き爪。

 頭には宝石をふんだんにあしらった金細工の髪飾り。

 そして背には金細工以上に輝く見事な翼が折り畳まれていた。

「ついに来るときが来たわ!」

 巨躯の女王は空気が震わせながら口を開いた。

「先日の崩落事故のおかげで、地上の勢力が我々の存在を知ったことはもう疑いようもないわ。ここを見つけ出すのも時間の問題でしょう」


 やはり爪と翼を持っているものの、女王に比べるとずっと小さな家臣たちは固唾を飲んで女王の次の言葉を待つ。

「ならいっそ、こちらから彼らを迎えましょう。孤立主義はもうお終いよ!」

 おおっ……と感嘆の声が上がる中、一人の若い家臣が声を上げ、女王の意見に異議を唱えた。

「女王様! それには賛同しかねます。地上と関われば、再び我々は戦渦に巻き込まれるやもしれません」

「控えろシャイア!」

「出過ぎた発言だぞ!」

「しかし……」

 周囲に止められても、若輩の家臣はなおも食い下がる。

 自分を恐れぬ蛮勇に女王は懐かしさを覚え、僅かに目を細めた。

「あなたの心配はもっともだわ、シャイア。しかし我々だけではもう崩壊を止めることはできないの。先日の崩落事故はその前兆……ペガーナ文明の遺物に精通した者たちの手を借りなくては。勿論あなたの働きも期待しているわ」

「は、はっ!」

 若者が深々と跪くと女王は満足したように微笑んだ。

「フフ、地上との交流は一体いつぶりになるかしら」

2022/6/26 第三章完。

次章「天空の戦乱」乞うご期待。

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