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ミスティック ナイツ  作者: ミナミ ミツル
第三章 ワンダフル・ライフ
22/40

正体


 調査団はさらに、エミールが見つけた巨大な羽と同種と思われる羽を五枚発見した。

 これが遺跡に対する違ったアプローチを提供してくれると感じたエミールは、遺跡の調査と並行して早速羽の正体を突き止めるようにと指示を出した。

 すぐに分かったのは、この羽はゴルド―地方に住む鳥や、この地方を縦断する渡り鳥のものではいということだった。

 手応えを感じたエミールは、俄かに活力を取り戻し、電送手帳を使って取り急ぎアーサー卿に連絡した。

 そして羽の詳細なスケッチと共に、ペガーナ城の方でもこの羽の正体を調べて欲しいと依頼すると、自分でも羽の正体を突き止めることに奔走した。


「その羽がそんなに重要なの?」

 少し疑った様子でタラリスはエミールに尋ねた。

「勿論ですよ」

 エミールは取り急ぎ入手とした鳥類図鑑に目を落としながら答えた。

「この辺に居ない鳥だってことは、空に浮かんでいた遺跡に棲んでたってことになります。それも、ごく最近にね。この鳥の元々の生息地が分れば、遺跡を見つける手掛かりになるかも知れないでしょ? 少なくとも過去にその場所を通ったってことは分かります」

「かーっ! 随分頼りない手掛かりだなぁ。なんていうかじれったくて、私はこういうのは苦手だ」

「僕もですよ。でもこれが僕の仕事ですから。それに、辛い仕事であればあるほどやりがいがありますし、報われた時は楽しいですよ」

「そんなもんかね。よくやってるよお前は」

「タラリスさんだって命懸けの任務の方が楽しいっていうじゃないですか。僕も似たようなもんです」

「ほう……なるほどな。これがエミール君の戦いか」

 一見軟弱そうに見える青年が見せた男らしさに、タラリスは少し驚いた。


「はい! ただ、今回は流石にビクビクしています。一刻も早く残りの遺跡を見つけないと非常にまずいことになる……」

「え、なんで?」

「ここに落ちた遺跡の総重量は、ざっとですが、およそ三百トンってトコでしょう。これだけでも大した量で、被害が出なかったことは幸いでしたが……こんなものは遺跡の本体に比べたら、微々たる量に過ぎません」

「マジかよ。本体はどれくらいなんだ?」

「それは……分かりません。ただここに落ちたのは、外壁とほんの端っこの部分だということは確信を持って言えます。もしも遺跡の本体が崩落したら、その被害は……考えたくないくらい酷いものになります」

「あー……そりゃまずいな。でも、何で本体がまだ浮いてるって分かるんだ? もう残ってない可能性だってあるんじゃないの」

「それはまずないでしょう。いま見つかってる遺跡は構造的に建物の端っぽい感じですし、なにより遺跡を浮かべていたはずの動力機関が見つかっていませんから。だから早く何とかしないといけないんです!」

「ほう。エミール、空が落ちないように支えようとするなんて、どっかの巨人みたいでちょっとカッコイイじゃん」

 エミールの頬がほんの僅かに紅潮した。

 図鑑から目を上げタラリスの方を向く。

「僕がかっこいいかはともかく、できるだけのことはやるつもりです」

「そっか。じゃあ邪魔しちゃ悪いな」

 といってタラリスは天幕から出ていった。


 エルフが出て行くと、エミールは大きな溜息をついた。

「ふ~緊張した……けど見つからないなあ」

 近隣の町で何冊か図鑑を買い目を通したが、この程度ではやはり目当ての鳥は見つからない。

 ペガーナ城の蔵書を当たった方が良さそうだ。

 

 ふとそのとき、机の上に置いてあった件の鳥の羽が目に入った。

 偉大な発見(ヘウレーカ)の瞬間。それはしばしば偶然によってもたらされる。

 エミールは目に留まった鳥の羽に手に取ると、それを鼻に近づけて深く息を吸い込んだ。

 なにか考えがあって羽の匂いを嗅いだわけではない。

 ほんの気紛れだった。

 しかし、その匂いを嗅いだ瞬間、失くなってパズルのピースが見つかり、あるべき場所にハマった。

 全てを説明する明快な答えが浮かんだ気がした。


「へあっ!?」

 思わずエミールは変な声を出し、椅子から転がり落ちそうになった。

 直感的にエミールは羽の持ち主の正体を見破ったのだ。

 急いで天幕から出ると、エミールはタラリスの姿を探した。

「た、タラリスさん!? どこ?」

 キョロキョロと辺りを見渡してもタラリスの姿は既にない。

 突然もたらされた答えに衝撃を受けたエミールは、その場で右往左往した。

「えっと、えっと、タラリスさんとローズのテントは……」

 と右へ足を向けたかと思うと、今度はアーサー卿への報告が先だと引き返して自分の天幕へと向かう。

「いや、やっぱり早く電送しないと……ってダメだ、まだ証拠がないじゃん! えーと、えーと……確認、確認……」


 エミールがぶつぶつ独り言を言いながら落ち着きなくウロウロしているところに、騎士のダルシーが通りがかった。

「よぉ。なにしてんだお前。具合悪いのか?」

「違いますよダルシーさん! 実は羽の正体が分ったんです! いや、分かったかどうか分からないんですけど……」

「何言ってるんだよ、落ち着いて話せ。例の羽は、なんていう鳥の羽なんだ?」

「ダルシーさん、実はですね、あの羽は鳥なんかじゃなくて――」


 エミールが言いかけたときだった。

 つんざくような大声が二人に向って浴びせられ、キャンプ地は俄かに騒然とした。

「貴様ァァァァァァァァ!!」

 声の主はゴーシュだった。

 逞しいヴィーカの戦士は血走った目をギラつかせながら剣を抜く。

 ゴーシュの剣炎剣(ペレドゥーレ)はAAを解析して生まれた武器であり、使用者の体力を熱に変換するという特殊な刃を持っていた。

 持ち主の怒りに呼応するかのように、その剣は赤い光と共に空気を焦がす熱を放つ。


 エミールとダルシーはびっくりして顔を見合わせた。

「えっえっ? なに?」

「兄弟? どうしたんだ?」

 ゴーシュは聞く耳持たず、鰐のような顔をさらに怒りで歪ませながら、二人に向って斬りかかった。

「エミール、下がってろ!」

 ダルシーは咄嗟にはエミールを守るように進み出ると、ゴーシュの剣と対となる愛剣を抜き、袈裟懸けに振り下ろされた一撃を受け止める。

 炎剣(ペレドゥーレ)を受けたのは氷の刃を持つ剣、氷剣(ポリアルジャン)である。

 刃と刃がぶつかると、熱と冷気が絡み合いジュウジュウと音を立てる。

「何やってんだ、兄弟。冗談にしちゃ笑えないぜ」

「ぬかせェェェェェ!!」


 ゴーシュは叫び声を上げながら強引に間合いを詰めようと、グイグイと押し込んでくる。

 対するダルシーは距離を置き、間合いを取るため詰められる分だけするすると後ろに後退した。

 氷剣(ポリアルジャン)の強みは鋼と同等の強度を持ちながら、空気中の水分を取り込んで自在に形状を変えることにある。

「シィッ!」

 鋭い声を上げながらダルシーが突きを放つと、つららが成長するように一瞬のうちに氷剣(ポリアルジャン)の切っ先が目に見えて伸びた。

 ゴーシュはそれを躱したが、さらに翻った氷剣(ポリアルジャン)はさらに形状を変えマチェーテのような分厚い刃の剣となっていた。

 ありったけの膂力と重量を合わせて、ダルシーは氷の鉈を振り下ろす。

 しかしゴーシュの炎剣(ペレドゥーレ)は、ダルシーを上回る気迫と剣気でただの一振りで氷刃を叩き折った。

「くっ……」

 氷刃の刃はいくらでも元通り再生するとはいえ、ダルシーは形勢は自分に不利だと感じた。

 バディを組むゴーシュとダルシー、お互いの技量はほぼ互角。

 だが、武器の相性でいえば氷剣(ポリアルジャン)炎剣(ペレドゥーレ)の相手はいささか辛い。


「おい! お前ら何やってんだよ!?」

「タラリスさん!」

 エミールが安堵の声を上げる。

 騒ぎを聞きつけて、タラリスとローズが到着したのだ。

 ダルシーもほっと一息をつく。

「タラリス、助けてくれ、兄弟の様子がおかしい。俺はエミールを保護する。兄弟の相手を頼んだ!」

 ざっと様子を見たタラリスは軽く頷く。

「分かった」

「逃がすかぁ! そこをどけ、タラリス!」

「そりゃ無理だ。ここを通りたいなら窓口で許可証を貰ってきな」

「タラリス、私も!」

「ローズとマロは周囲を警戒しろ! ゴーシュは私が止める!」



 タラリスが立ち塞がった隙に、ダルシーはエミールを連れて急いでその場を離れ、開いていた天幕の一つに腰を落ち着けた。

 はぁはぁと肩で息をしながらエミールが呟く。

「ゴ、ゴーシュさんは一体どうしちゃったんですか?」

「俺が知るかよ」

「ぼ、僕はもう大丈夫です。ここに隠れてますから。ダルシーさんはタラリスさんを助けに行ってください」

「それより自分の心配をしろ、ありゃーお前が狙われてるぜ、エミール」

「でも!」

「タラリスなら平気だ。あいつは騎士の中でもクソ強えから。それより、さっきなにを言いかけてた? 羽の正体が分かったってのは本当か?」

「いまそんなことどうでもいいですよ! それよりタラリスさんを!」

 必死に懇願するエミールを見て、ダルシーは溜息をついた。

「お前も分からねえ奴だな……自分の心配をしろって」


 エミールの懐で、ひゅっと風を切る音がした。

 妖しい輝きをした白刃が、エミールの腹に滑るように差し込まれる。

「えっ?」

 冷たい声でダルシーが言った。

「ま、もう言わなくていいぞ」

 ダルシーの手の中にあったのは氷剣(ポリアルジャン)ではなく、全く別の剣であった。

 その剣にエミールの血が滴ると、その剣の刃はまるで綿が水を吸うかのようにエミールの血を吸い取っていく。

 激痛を堪えながらエミールは声を振り絞った。

「ダルシーさんじゃない……お、お前は……だ、誰だ?」

「へへっ。俺はなあ、お前だよ。エミール」

 謎の人物は嘲るようにそう言うと、その顔は鰐顔をしたヴィーカの戦士から、エミールそっくりの顔へと変わっていく。

「俺の正体を気付かなかったこと自分を責めるなよ? この剣――エグゼキューターが貰うのは外見だけじゃない、記憶(なかみ)もすっかり頂くからよ……ああ、もう聞こえてないか」


 本物のエミールが血の海に倒れると、エミールの姿を盗んだ侵入者は何食わぬ顔で天幕を出た。

「さあて、帰る前にもう一人二人、ペガーナの騎士の人生(ライフ)を頂いておくかな」

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