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ミスティック ナイツ  作者: ミナミ ミツル
第三章 ワンダフル・ライフ
20/40

ゴルドーの遺跡へ


 カチッという音がしてローズの襟首にあるソケットにコネクタが差し込まれた。

「どうだ?」

 アーサー卿や他の研究者が心配そうに見てる中「んー」とローズは首をかしげる。

「OKですね。ちゃんと給電されているのです」

「よーし! 成功だ!」


 立ち会った技術部の面々が喜ぶ中、タラリスが念を押すように尋ねた。

「本当に大丈夫?」

「はい! もっとこのバッテリーが小さければ、いう事ないのですが」

 バッテリーを背負ったローズは、ヨタヨタと歩き出したかと思うと、いきなりその場でくるりとバク転をした。

 研究者たちは唖然として叫ぶ。

「危ない!」

 案の定着地の瞬間、ローズの足元がふらつく。

「おっとっと。このまま戦うのは無理ですね」

「んー確かにな。それ結構重いし」

「ローズ! いきなり危ないことをするな! タラリス卿もこういうときは止めてください!」

「分かった、分かったから。まあ落ち着いて。成功したんだから」

「その成功が台無しになるところだったんですよ!」

「はいはい」

 とタラリスは食って掛かる研究者たちを宥めた。


「これで私は寝てる間に給電できるのです! 明日からはもっと長い間訓練できるのです!」

「そうだな。それに天気が悪い日が続いても電力を保てるから、遠出もできる可能性も出てきたな」

「アーヴェイン団長が許してくれたら、ですけどね」

「まあ問題はそこだな」

「アーヴェイン団長の心配も分かるだけに、ワガママは言い辛いのです」

 そのときバチン、とアーサーが大きな手を叩いた。

 そして悪戯好きの少年のような笑顔を向ける

「二人とも領地外(そと)に出たいか?」

「なにか考えがあるの、アーサー」

「ああ。ちょうど良い口実があるぞ! これだ!」

 と、アーサーは手紙を差し出した。


 その手紙は『ペガーナ騎士団の頭脳にして我が師、敬愛するアーサー卿へ』という堅苦しい挨拶で始まっていたが、二行目からはすぐ砕けた調子になって綴られていた。


『ペガーナ騎士団の頭脳にして我が師、敬愛するアーサー卿へ。

 発掘の進捗について、あらかたのことは既に電送により報告しておりますが、いま一度申し上げるなら、発掘調査は順調とは言えません。単純に多すぎるんですよ、遺跡の量が!

 しかも、落下が原因と思われる衝撃で遺跡全体が壊れていて、復元作業が難航しております。当初は一か月の予定でしたが、ざっと目を通すだけでも三ヵ月近くかかるでしょう。

 至急追加の人員を派遣してください! 発掘作業やクリーニング作業をする人間が足りません! このままじゃ僕はいつまで経っても騎士団領に帰れません! 

 なお、出来ることならローズをここに派遣することを検討して下さい。

 これはゴルドー遺跡群から解読が困難な文章が発見されたこと、遺跡に施された装飾の模様が、ローズの着ているドレスの模様に似ていること、という二点を根拠とした、純粋に発掘作業上の必要からの進言です。

 一口に旧世界(ペガーナ)といっても時代は長く、面積は広大で、ローズがゴルドー遺跡群の文字を解読できるとは限りませんが、それでも僕の直感はローズならこの文字を読めると確信しています。

 いいですか? 決して僕がローズの研究をしたいとか、そういう個人的な思惑から言ってるんじゃないですよ。だから是非ローズを寄越してください。難解な古代文字の解読に時間を掛けたくないので。何卒何卒。


 その他、電送で伝えきれなかった発掘記録は同封した資料にまとめてあります。

 技術部の皆は元気でしょうか。

 発電所の建造は順調に進んでいるでしょうか。

 僕が帰る頃には、電灯の明かりがペガーナ城を照らしていることでしょうね。

 科学の明かりがこの先の世界を照らすことを願って。 ペガーナ騎士団の忠実なるしもべ、エミール・マレ』


 手紙を読み終えると、タラリスはわざとらしく肩を竦めた。

「……全くしょうがねえなあ。でもエミールが来いって言ってるんなら仕方ない。団長に聞いてみるかローズ?」

「そうですね。戦闘任務というわけでもないですし、私が行って古代文字の解読を手伝うのです!」


 すぐにタラリスとローズは騎士団長の執務室へと向かった。

 事情を話すと、予想通りアーヴェインはローズを領地の外へ出すことを渋ったが、戦いではなく調査が目的であること、ローズの電力問題が若干改善されたこと、現地のキャンプには既に十分な護衛がいることなどが決め手となり、最終的にはローズの発掘調査行きは許可された。

 それでもアーヴェインは何度も釘を刺す。

「調査団のトップはエミールだが、守備隊の責任者はゴーシュ卿だ。彼の言う事をよく聞くんだぞローズ。いいな。遊びに行くんじゃないぞ」

「了解なのです!」

「タラリス卿、今回のお前の任務は無事にローズをここに連れて帰ることだ。最優先でローズの安全を確保しろ」

「はいはい」

 いい加減な返事に、アーヴェインのこめかみがピクピクと動く。

「タラリス卿、ダラけているなら任務から外すが?」

「は・い! すみませんでした!」


 こうしてタラリスとローズは運よく追加の調査団に混じり、意気揚々と列車に乗り込んだ。

 ローズが初めて乗る列車は客室ではなく、藁とマロの獣臭が充満する貨物室ではあったものの、さしたるトラブルもなくゴルドーへの旅程は過ぎていく。



 ゴルドー山脈に身を寄せる様に築かれた古都ゴルドーは交通の要所、そして一種の要塞都市として千年もの歴史のある町だった。

 山の斜面に石造りの家屋が軒を連ね、遠くから見れば山と融合した町が、まるで巨大な城の如き威容を誇る。

 そこで列車から降りて隊列を組み、馬とオオカミに揺られながらおよそ二時間。

 太陽がゴルドーの山々の背に隠れて行く中、一行は調査キャンプへと到着した。


 キャンプ地を含む危険なAAが眠っているかもしれない現場一帯は、有刺鉄線の柵で覆われ、警備の兵が置かれていた。

 その検問所を抜けると、次第に暗くなっていく雄大な光景に、しばしタラリスは目を奪われて、マロの背から降りた。

 乾いた風。赤い山々。足の裏に感じる仄かに熱を帯びた砂。故郷とはまるで違う異境の光景だった。

 そのときである。

 感慨に浸っていると、ふとタラリスは何かの視線、気配とさえ呼べないような、ほんの微かな違和感を感じた。

 五感というよりも第六感で感じる、誰かが自分を観ているという感覚――それは少女時代に行った命懸けの訓練で培われたものだ。

 次第に暗くなっていく周囲に溶け込むようにタラリスの肌が褐色へと変わり、反射的に背と腰に吊るした弓矢に手が伸びる。

 しかし、不意にその感覚は消えた。

 弓に触れたままタラリスの手が止まる。

「……」

「タラリス? どうしたのですか?」

 マロの鐙から身を乗り出してローズが尋ねる。

「……いや、なんでもない」

 タラリスはそう言ってかぶりを振った。

 誰かに見られた気がしたが、自分でも確信がなかった。初めての土地で神経が昂っていただけという可能性もある。

 既に太陽は山の影に消え、遠くにキャンプの明かりがポツポツと灯っていた。


「タラリスさーん!」

 聞き覚えのある声が耳に届き、遠くで影法師が大きく手を振っている。

 走り寄ってきたのはエミールだった。その後ろには護衛役であるゴーシュとダルシーが続く。

「よお。焼けたなあエミール。チョコレートみたいだよ」

「ずっと外仕事ですから。それにしても、いやあ待ってましたよ! 遠路はるばる来てくれてありがとうございます!」

「待ってたのは私じゃなくてローズじゃないの?」

「そ、そんなことはないです。ささ、皆さん疲れたでしょう? 早くキャンプに来て休んでくださいよ。早速明日から仕事なので! 特にローズ期待してるよ!」

「任せるのです!」

「……やっぱりローズじゃん」


 張り切った青年が大股でキャンプ地を歩く後ろで、タラリスとゴーシュは軽く言葉を交わす。

「頼まれてた荷物も持ってきた。確認して」

「分った。物資は荷置き場に案内させよう。簡易倉庫を作ってある。誰か主計係と在庫管理を呼んで来い! 荷物を点検させろ!」

 ゴーシュが叫ぶとキャンプの調査員たちが慌ただしく走りだした。

 責任者はエミールとなっているが、実質的に調査キャンプを仕切っているのは、騎士であるゴーシュとダルシーであり、二人の中でも特にゴーシュの方であることは明かだった。

 さらにダーシュはタラリスとマロをジロジロ見てから言った。

「そう言えば貴様に一言言う事がある」

「なに?」

「ここではオオカミにリードを付けろ。そいつが貴重な遺跡が壊すかも知れん」


 一瞬、タラリスとゴーシュの間の空気が凍り付いた気がした。

 数週間前のやりとりを思い出したダルシーはぎょっと目を剥く。

「おい兄弟、蒸し返すなって!」

「蒸し返してなどない。これは当然の対応だ」

「だからタラリスが見てるなら大丈夫だろ!」

「いい! いいよ! ダルシー。ここのボスはエミールで、次点はお前たち二人だ。私はその下。従うよ、ここではね」

 ちらりとタラリスはマロの方を向いて両手で首をわしゃわしゃする。

「ねー、マロちゃん。いい子だもんねえ」

「そ、そうか」

「ところで……こっちでなんか問題起きてない?」

 と、タラリスが尋ねても二人はきっぱりと否定した。

「いや特にはなにも。なあ、兄弟」

「当然だ」

「ならいいけど……」


 そのとき、天幕から頭だけ出したエミールがタラリスとローズを呼んだ。

「タラリスさん、すみません! 僕のテントにちょっとローズを連れてきてください!」

「分かった。いま行く!」

 エミールのテントへ足を向けながら、タラリスは振り返ってヴィーカの騎士二人に警告した。

「二人ともちょっと気を付けた方がいい」

「何かあったのか?」

 タラリスは言葉に詰まった。

 何かがあったわけではない。さきほどの違和感のことは自分でも上手く説明できない。根拠として弱すぎる。

 結局、少し間をおいて曖昧な言葉を返した。

「なんか胸騒ぎがした」

「それだけか?」

「……それだけだよ」

「フン。気を付けろなど言われるまでもない。誰が相手でも向ってくるなら斬って捨てるまでだ」

 ゴーシュはタラリスとは目を合わさず、呟くようにそう言った。


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