96)クロト達、王に絡まれる
ヴァーミリアンの居城の前、たてがみが特徴的なシルエットが松明に照らされ浮かび上がる。
クロト達が野次馬に行くとすでに人だかりができている。人々の視線の先には中央で腕を組み仁王立ち絵しているライネル族の男。
さらにその背後には、屈強な戦士達が居並び微動だにせずに立ち尽くす姿。
「クロト」声をかけられ振り向くと、サリナ達がこちらに近寄って来た。
「おっサリナ達も見に来たのか?」
「いや、私たちはお爺と話していて、いま戻って来たらこの人混みに巻き込まれた」
困惑するサリナに野次馬全開なクロトはなんか申し訳ない気持ちになる
「まぁせっかくだから野次馬していこうぜ!」
人混みの端の方で元気よくサリナを誘っていると、中央の仁王立ちの男がグルンとこちらを見た。
しばらくじーっと目を凝らしていると思ったら、ズカズカと近づいてくる。
「ああ? 人族とムーンウルフか? おかしな組み合わせの奴らがいるなあ?」
やたらに圧をかけながら距離を詰めるライネル族の男。
こう言う時に頼りになるのはクロト! 、、、ではなくアメリアだ!
クロトじゃ喧嘩になるからね。
すすっとたてがみの男の前に出ると、王女スマイルを炸裂させる。
凄んだのに笑顔で返されて若干ひるんだたてがみ男に、感発入れずに畳み掛ける。
「失礼ですが、獅子王様でいらっしゃいますか? ご挨拶が遅れました。私はロッセン王国の第二王女、ロッセン=バルデ=アメリアと申します。こちらは私が所属しておりますパーティ、エル・ポーロの方々と誇り高きムーンウルフ族は族長のお孫様です。此度の騒動で微力ながら皆様と共に島の奪還作戦に参加させていただきました」
と言って、優雅にお辞儀。完全に飲まれた獅子王と呼ばれた男は
「お、おお」
と気勢を削がれてしどろもどろしている。ちょろいな。獅子王。
しどろもどろする獅子王を面白く見ていたら、「ビクトル!」とヴァーミリアンの怒気を含んだ声が飛ぶ。
「ヴァーミリアン」ビクトルが少しホッとしたようにヴァーミリアンの方を向くが
「貴様、我が国を救った恩人に何を絡んでいるのか!」と怒られた。
「おいおい、せっかく助けに来たのにそれはないだろ?」へこみながらも反論するビクトル。
「それとこれとは別じゃ。そちらのパーティとムーンウルフへの非礼は誰であれ許さん」とヴァーミリアンはにべもない。
「まぁまぁ」とアメリアが取り持ち、ようやく怒気を引っ込めるヴァーミリアン。
「まったく、、、しかしビクトル、助けに来てくれたことは感謝する。しかし救援の船を出したのは昨日。早すぎぬか?」
「ああ、来たのは軍船じゃねえ。この島から逃げて来た商人だ。そいつから”朝っぱらから白虎王が逃げろと言った。ロック島で何かとんでもないことが起きている”ってウチの島に逃げ込んで来たからな。お前が”逃げろ”なんて叫ぶとはただ事じゃねえなと思ってな。最速で来れる俺の船だけ、可能な限りの速度で来た! 部下達がめちゃめちゃ漕いだんだぜ! だが、ロックに着いてみればこのお祭り騒ぎだ。こりゃあ、一体どうなってんだ?」
「そう言うことか、、、そこまで迅速に対応してくれようとしてくれたことはありがたい。だが、おかげで問題は解決した。詳しい話は中でしよう。歓迎する。今、ちょうど宴の準備をしているところだビクトル達も参席すると良い」
ヴァーミリアンはクロト達に向き直り
「騒がせてすまんな。また宴の席で」と言ってビクトルを連れて城内へ入って行った。
「はー、あれが獅子王か。中々の迫力だったな」シーラが感心するように後ろ姿を見送る。
「ちょっと面白いおじさん」と言うジュリアのコメントは結構的を射ているように思う。
好き勝手に獅子王に対する感想を述べていると、ポロンポ達が声をかけてくる。
「びっくりしましたよ! 獅子王様が急に動いたと思ったら、クロトさん達が絡まれているように見えました。声は聞こえませんでしたが、一体何を話していたんですか?」
そうだな、、、一言でいうと絡まれていました。
獅子王が去ったことで、見物していた者も三三五五に散ってゆく。
クロト達もサリナやポロンポ達と連れ立って部屋へと戻った。
「宴の準備が整いました。皆さま、こちらへどうぞ」
しばらくして案内係に連れて行かれたのは、いくつもの部屋をぶち抜いた大広間だ。
板の間に敷物が用意され、それぞれ胡座など楽な体勢で座っている。
一番奥にヴァーミリアンとビクトルが並んでおり、クロト達はそのすぐ近くに席が用意されていた。
慌ただしく配膳や飲み物が手配が行われ、全員が席に着いたところでヴァーミリアンが立ち上がり、全員を見渡す。
「皆の者! 今日はご苦労であった! また石化されておったものは助けが遅れ済まなんだ! 皆の無事を心より嬉しく思う! 明日からは街の被害の洗い出しや民達の不安の払拭、参加の近隣諸島への配慮、人造魔獣の処分と検証、他にもやらねばならぬことが山積しておるが、まずは無事に我らが島を取り戻したことを祝おうぞ!」
「おおおおお!!」
「さて、乾杯の前に謝辞を述べる! まずは無関係でありながら助力してくれたムーンウルフ。族長の名代として孫のサリナ殿がこの席に参加していただいた、サリナ殿」
ヴァーミリアンに促され、立ち上がるサリナ。
「月のない日に悪しきものを討つ。まさに伝説の通りの活躍であった。ムーンウルフへの恩は、代々語り継がせていただく。何かあったときは今度は我らが助力しよう!」
ヴァーミリアンが頭を下げると、配下達も着座のまま一斉に頭を下げる。このような場に慣れていないであろうサリナは
「いや、多少でも力になれたのなら良かった、、です」とたどたどしく挨拶。
「次に、偶然同じ島に立ち寄っただけの縁にもかかわらす、石化した私の左腕を奇跡のような治癒で治し、ムーンウルフへの助力を取り付け、上陸作戦では城内の人造魔獣の大半を引き受け、さらにはゴルゴンの首討伐にも多大な貢献をしてくれたエル・ポーロ達!!」
こちらはアメリアに促されて、クロトが立ち上がる。
「お主らはこの難事に際し、歴代の白虎王の御霊が呼び寄せてくれたとすら思う、救世主であった! しかも礼はいらぬという。噂にたがわぬ勇者達よ! ロックに住まう者共よ! この恩決して忘れるでない! 我らはエル・ポーロが求めればいつ何時でも可能な限り力を貸すことをここに宣言する!」
「ははーーーーーー!!!!」
今度はクロトに向けて一斉に頭を垂れる。
「えーっと。特に気の利いたこと言えないんだが、まぁまた遊びにくることがあったら歓迎してくれ」
あっさりとした挨拶でクロトは着席。
「最後に、作戦には参加してはおらぬが、凄まじき速度で救援にきてくれたビクトル。主にも感謝を。これは借りじゃ。必ず返す!」
ビクトルは「俺は間に合わなかったから挨拶は勘弁してくれ」と座ったまま答えた。
「無論、今紹介した者以外の上陸作戦に参加してくれた者達、近隣の島からも集ってくれた戦士も含め、全員がこの度の勇者である! 今日は勝利の美酒に酔いしれるが良い!! 乾杯!!」
「「「「「乾杯!!!!!!!」」」」
島の隅々にまで届くのではなかろうかというほどの掛け声で宴は始まった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
皆ほどよく酒が入った頃、ビクトルが酒樽を抱えてパーティの前にどかりと座った。
「さっきはすまんな!! 単純に珍しかっただけなのだが、いらん誤解を生んだか!?」
赤ら顔で先ほどよりも声がでかい。喋っているのか吠えているのか。とにかく大声で喋りながら杯を前に出す。
「いや、別に気にしてないから、気にすんな」
クロトが代表してその杯に自身の杯を当てる。かちゃんという音を聞いてからお互いに中身を飲み干す。
「おおっ! 貴様いける口か。今日は愉快である! もっと飲め!」
零れる事も厭わず杯に酒を注ぐと、自身の杯にも酒をつぎぐっと飲み「ブハァ!!」と息を吐き出す。
ジュリアが「お酒臭い!」と両手で鼻をガード。
「おお! すまんすまん! 少女にはまだ早い香りよな!!」とガッハッハと笑う。
ジュリアがシーラに目で「射かけて良いか」と確認していたが、シーラは「一応やめとけ」と返していた。
「いやしかし、噂に聞いていたパーティが白虎王を救うとはな。人族の眉唾な話かと思っていたが驚いたわ! そうだ、ロック島の次は我が島にこい! 歓迎してやる!」
「いや、俺たちエルフの里を探しにきたんだよ。だからエルフの里の島が優先な」
そう言うと、ビクトルは笑いを止め、ギラリとした目でクロトを睨め付ける。
「エルフの里に、何の用だ?」
「お、エルフの里のこと知ってんのか?」全く動じることなく事情を説明し始めるクロト。
話を黙って聞いていたビクトルは、未だしかめ面でビクトルから距離をとっているジュリアに目を向ける。
フードは被っていないので、エルフ特有の尖った耳が目に入る。
「ふむ、、、、、どうするか、、、まぁいい。それではやはりお前達は一度ザウベルに来るべきだな」
「どう言うことだ。ザウベルの近くに里があるのか」
「いや。今は里の場所は教えられん。しかしワシの助けがなければエルフの里にはたどり着けぬのよ」
そういってビクトルはニヤリと不敵に笑った。




