88)クロト達は、お茶をする
茶屋に着くと、主人に外に席を用意してもらえないか交渉。
室内で待っていてもいいのだが、この注目具合を考えると外からちょこちょこと窺われるよりは、もういっそ見えるところで開き直ってお茶をしていようという判断だ。
店主としても得体の知れない奴らを自分の城の中に置いておくよりは安心ということで、話はスムーズに決まる。
シーラとクロトでテーブルを、他の面々で椅子を運んで設営完了。
そうしてお茶を頼むと大陸で良く飲む紅茶ではなく、緑がかったお茶が出てきた。ポロンポ曰く”緑茶”というらしい。
紅茶よりも香りは薄いが、滋味深い味わいでこれはこれで美味い。
付け合わせに出てきた何かの果物を干したものを摘む。
しおしおになっているが、その分甘みが凝縮され、ほんのひとかじりでも口の中で甘みが爆発する。
クロトはあまり甘いものにこだわりはないが、パーティの女性陣はうっとりと目を細めながら干し果実をかじっている。
フレアも欲しがったので手でちぎって鼻先に突き出すと、はぐはぐと食べていた。
「しかし、変わった街だな、ここは」
周辺の視線など意に解することもなく、アーヴァントが建物を見渡しながら言った。
「あのピラミッド? とかいうの目立つよな」
クロトが返すと、アーヴァントは首を振る。
「いや、確かにかの建造物も気になるが、それよりもこの街並みだ。石造りの建物しかない」
「アーヴァントの住んでいたガノーも同じだったろ?」
「ガノーは火災に弱いという理由がある。それに山を削っているだけに、石材には事欠かん。だが、この街は周囲は森に囲まれている、見たことろ大きな山もない。にも関わらず、木材を使った建物は少なく、どこから持ってきたかわからない石材で作られた建物が大半を占めている」
アーヴァントに指摘され、全員が「言われてみれば」という表情で周囲を見渡す。
アーヴァントは「もっとも」と前置きをして続けた。
「やはり一番不思議なのはピラミッドであることは間違いないがな」
「アーヴァントが宝具以外に興味を示すのは珍しいな」とシーラが声をかけると、アーヴァントは頭を振る。
「あれ程の建造物、宝具が使用されずに建造されたとは思えん、どのような宝具が使われたのか興味は尽きんな」
さいですか。いつでもどこでも安定のアーヴァントさんである。
そんは会話をしていると、遠巻きにクロトたちを見つめていた人混みが割れ、サリナが姿を現した。
2人のムーンウルフを引き連れている。
「おっ、話は終わったか?」クロトが緑茶の入った杯を上げながら言う。
「ああ、族長サルートは好きにしろと言った。この2人は先ほどの場にいて、私と同じくあなた達と共に戦うことを選んでくれた者たちだ」
2人のムーンウフルフはそれぞれ「ウィルックだ」「スォードと言う、よろしく」とそれぞれに挨拶をした。
「この2人以外に、あの場にいた者の中であと3人が協力を申し出てくれている。そこで私たちは役割を分けることにした」
「役割を分けるとは?」干し果実を食べ終わり、お茶で口直しをしたアメリアの問いにサリナが答える。
「私たちはあなた方と同行して奪還作戦に参加し、作戦などを聞いておく係だ。後の3人は、あの場にいなかった戦士に経緯を伝えてもらい、私たちと志を同じくしてくれたものを連れて合流する。合流した者たちは作戦に沿って、私たち3人が先導する」
「なるほど、効率的だと思います。ですが、あまり時間はありません、、、」
「ああ、先ほど聞いた話では、これから白虎王の元に戻って作戦を練るのだろう? とすれば、決行は早くても明日の朝以降だと思ったが、違うか?」
「おそらくサリナさんの仰る通りになると思いますね。他の島に援軍を呼びかけに行った船もありますから、現実的な決行タイミングは明日の昼すぎ以降、と言ったところでしょう」
アメリアが頷く。
「それならよかった。残った3名は今日の夜までに参加してくれるものを集い、明日の朝には出発する手はずだ」
「そっか、なんにせよ手伝ってくれるならありがたいよ。さて、あんまりのんびりともしていられない、そろそろあの無人島に戻るぞ!」
クロトの音頭で、全員が立ち上がる。
茶屋の店主に声をかけるとテーブルの片付けはいいと言うので、お礼を言って港へと急いだ。
港ではゴリアテ族のパックが、大きな巨体をそわそわさせながら皆の帰りを待っていた。
「パック! 今戻った! すぐに出航できるか!?」
ポロンポの声に「もちろんです!」と返し、「船長たちが戻ったぞぅ! 出航準備だ!」と甲板に向かって声を張る。
クルーたちはクロトたちが連れてきたムーンウルフに若干怯え気味だったが、敵意がないと分かると、いつものように出航準備を進めて言った。
「出航!」ポロンポの一声で船は離岸する。
疾走する船の上で、サリナが改めてクロト達に頭を下げた。
「先ほどは本当にすまなかった。まさかお爺があの様な強硬な態度に出るとは、、、」
「いや、別にもういいよ。こうしてサリナは手伝ってくれるんだし」
「しかし、普段は島外の者がきたとて、あそこまで頑なになることは無いのだ、、、」
「あの、、」言いずらそうにアメリアが口を挟む。
「何か心当たりが?」サリナがアメリアに一歩近く。
「もしかすると、クロトさんのおばあ様と族長さんは昔何かあったのでは、、クロトさんとサリナさんの年を考えれば、おじい様とおばあ様のお年も同じくらいですよね?」
「あー、ありうる」とい一番納得したのはクロトだ。
サルートが言っていた様に、クロトの祖母ウィレットは歳を重ねても大変奔放な人物であった。
クロトがまだ幼い頃、山中へ連れて行かれて放置された経験は両の指では足りないほど。
最後は必ず迎えにきてくれるのだが、クロトの逞しさを磨いたのはウィレットと言っても過言ではなかった。
「そうか、しかしそれなら、何故理由を言ってくれなかったのか、、、」
「いや、歳をとってから話しにくいこともあるだろう。例えば若い頃の苦い思い出とかは特にな」
この中では最年長であるアーヴァントがその様にまとめたが、そもそもアーヴァントも一応ギリギリ20代である。まだその境地に達するには早すぎる。
しかし、見た目は人生の辛酸を舐めてきた様なモノクルの人なので、サリナも「そういうものか、、」と、納得するに至った。
その後話題はピラミッドへ移る。
「あんな巨大な物、どうやって作ったんだ?」シーラの問いにサリナは困った顔をする。
「実は私たちにも分かっていないのだ。はっきりしているのは、私たちは何があっても”アレ”を守らなければならない。代々その様に引き継がれてきたのだ」
「”アレ”とは? 中に宝具でも守られているのか?」宝具大好きモノクルさんのモノクルが光る。
「もしかしたら中には宝具もあるかもしれないが、私たちが守るべきは、ピラミッドそのものだ。あの下には恐ろしいものが眠っている」
「恐ろしいもの?」
クロトの言葉に、すっと目をそらして海を向いたサリナは、「厄災だ」と呟く。
その言葉は一度クロト達にまとわりついてから、潮風に押し流されて消えていった。




