9)事態の真相
王妃は魔族が化けていた。
「正体を現しましたね。しかし、アラクネとは」
目が笑っていない笑顔のバーンも、少し驚いているようだ。
アラクネ、下半身が蜘蛛、上半身が人の魔族。魔族の中でも希少種とされ、その実力は様々な種のいる魔族の中でも上位に位置する。
かつて魔族と連合王国が戦いに明け暮れていた時代、アラクネが王国側に甚大な被害をもたらしたことから、魔族の象徴的な種の一つとして、よく物語にも登場するので人の認知度も高い。
「ふふ、もっと絶望してくれても良いのですよ。擬態を解いたわたくし相手では、あなた達の勝ち目はありませんから」
木の上から余裕の笑みで見下すアラクネ。
「本物のプライア様は、どうした」
シーラの声が、一段低くなる。
「食べました」
「貴様っ」
シーラが腰に差していたショートソードを投げつけるが、アラクネは事もなげに跳ねて避ける。
「繰り返しになりますが、もう勝負はついているのですよ。あなた方はここで死にます。せっかく残された時間、おしゃべりを楽しみましょうよ。短気は損気、で、す、よ」
「ふざけたことを!」
怒りで顔を真っ赤にしたシーラをバーンが手で制した。
「おしゃべり、な。では聞こう。貴様の目的はなんだ」
「それはもう、この国を頂戴することですよ。そのために王や適当な近衛兵、無能な第二王子をこう、私の糸で操って邪魔者を排除してるのですから」
バーンが問いを続ける。もう顔は笑ってはいない。静かな怒りがクロトの方まで伝わってきた。
「操る? 確かに様子はおかしかったが、洗脳されているというほどでもなかったが」
「あからさまだと、あなたみたいな勘のいい人に気づかれてしまいますからねぇ。あくまで本人が考えたと、本人達さえもそう思える程度に思考誘導をしたのですよ。難点は意志の強い方には通用しなくて、困ったものです」
両手を頬に当て、クネクネするアラクネ。完全に舐めてるな。
「なるほど、だから近衛兵も実力が伴わない者達が重用され始めたわけか。大臣達も何人かは貴様の手駒か」
「もちろんよぉ、ほんとはもう少しゆっくりの計画だったから、ゆくゆくは貴方も近衛団長からも外すつもりだったのだけどねぇ」
「それで、王国を乗っ取ったら魔王に献上するのか?」
すると、先ほどまでふざけた態度で対応していたアラクネが突然豹変する。
「魔王? あの腰抜けのこと? 笑わせないでほしいわね! なぜ! わたくしが! このわたくしがあのような者の下につかなければならない! わたくしが忠誠を誓うのはただおひとり! あのような者ではないわ!」
アラクネは突然の豹変に驚く騎士二人を睨めつけると、飛び上がり、眼前に着地する。
「もうおしゃべりも充分。死になさい!」
前足を凄まじい速さで振り抜くと、シーラがガードしたままに身体が押し崩される。
弾かれた音からもアラクネの足の硬さがうかがい知れた。
それでも態勢を整えるが、間髪を容れずもう一方の足が飛ぶ、シーラも素早く防護壁を張るものの、防御壁ごと跳ね飛ばしにかかる。
その隙をついてバーンが後ろから斬りかかるが、後ろ足が剣を弾き、さらにバーンの胸を蹴り上げた。かろうじて直撃はさけたものの、蹴りの勢いで木にぶつかるバーン。
すぐに立ち上がったが、苦痛に顔を歪め膝をつく。
「弱い弱い。脆い脆い」
笑いながらシーラの防護壁をいたぶるように削っていくアラクネ。
完全に防御壁を破壊せずにほころんだ場所からシーラを傷つけてゆく。あと一撃で防御壁を破壊し尽くすところで、前足を高く上げシーラの体を貫く! その瞬間!
「ばギャァ」
クロトの蹴りがアラクネの顔面を捉え、アラクネの巨体が吹き飛ぶ。
木を何本もなぎ倒し、ようやく止まるアラクネ。
想定以上のダメージで動きが緩慢なアラクネに、クロトはゆっくりと近づいた。
「はい、そこまで。ここからは俺が相手な」




