83)アーヴァント、憤る。
クロト達と対峙する獣人達の間に、馴れ合うでも睨み合うでもない微妙な時間が過ぎる。
しばらくして戻って来た男は、
「先に、非戦闘員を連れて行く。身なりのいいお前とその横の黒毛のウールール、お前らがついてこい。言っていることが真実であるか確認する。話はその後だ」
指名されたのはポロンポとペリント。
「大丈夫か? 嫌なら断ってもいいぞ」
クロトが聞くが、
「いえ、行ってきます。クロトさんが信じてくれた『勘』ってやつを頼るなら、今回は嫌な予感はしませんので」
結構顔が青いが、ポロンポはぐっと腹に力を入れて一歩踏み出す。
「お前ら、もしポロンポ達に何かあったら全員無事では済まさないからよろしく」
クロトが笑顔でまぁまぁの殺気を放つと、なぜかポロンポがビクッとした。
それからまた、微妙な時間が続く。
暇なので、船で待機しているコック長が作ってくれた弁当を広げることにする。
無限の皮袋から取り出された敷物を広げ、お茶を沸かす準備。がっつりとランチ態勢だ。
ピエール達も一緒にどうかと聞いたが、「こんな状況で、よく飯食えますね。。。」とやんわり拒否された。
様子を伺っている獣人達も怪訝な顔をしていたが、食べられるときに食べておくのは旅人の基本だ。
用意されたのはハムたっぷりのハムサンド。付け合わせのピクルスもいい感じの漬かり具合。
しっかり食べて、お茶まで飲んで、少し眠くなってきたところで、漸くポロンポ達が戻ってきた。
「。。。なにしてるんです?」
「飯食ってた」
ははは、と乾いた笑いを返すポロンポ。
「それよりも、ちょっと大変なんです。急いで片付けてついて来てください」
ポロンポに急かされて敷物をしまいついて行く。その後ろから遠巻きにしていた獣人の戦士達も付いてきた。
あまり人が立ち入っていないのであろう藪の中を、急ごしらえと思われる道が続いている。
しばらく歩くと、こちらもとりあえず体裁を整えたと言った広場と、天幕が現れた。
天幕の前にはとりわけ屈強そうなトラ型の獣人が2人。その一人が黙って入口を広げる。
天幕の中央には白虎、もとい白虎の女獣人が座っている。
その白虎が重々しく「楽にせよ」と言った。
「白虎の獣人? まさか貴方は白虎王では?」アメリアが信じられないという表情。
「然り。儂が白虎王、ヴァーミリアンである」
威風堂々と言った風格のヴァーミリアンにアメリアが貴族の礼をする。
「初めてお目にかかります。私はロッセン王国が第二王女、ロッセン=バルデ=アメリアです」
「であるか。存じている。我が国からの使者を歓待して頂いたこともあったはずだな。その節は世話になった。それと、先ほどは部下のものが失礼した。私を守るための行動だ。許してやってくれ」
こちらも失礼をと返し、アメリア主導でエル・ポーロの面々を紹介する。
「それで、何が起きているのか知りたいとのことだったな」
「何が起きているかもだが、ウサギのおっさんの割符も気になるな」とクロト。
「くくっ。お主は儂を前にしても動じぬな」
クロトの不遜な言い方にヴァーミリアンの側近が牙を剥きかけたが、ヴァーミリアンが機先を制した形だ。
主が笑って許している以上、側近は矛を収めるしかない。
「だが、コームターランドに関しては、諸々落ち着いたときに話してやろう。まずは、現状の方が重要だ」
「何があったのですか?」
アメリアの問いにヴァーミリアンはマントに隠れていた左腕を晒す。
肩からだらりと垂れ下がったその腕は、石化していた。
「見ての通り、石化しておる。動きはせん。今朝のことじゃ」
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いつもと変わらない朝になるはずだったこの日、ヴァーミリアンは城内が妙な静けさに包まれていることに気が付いた。
感じた違和感を確認するため、秘書官の姿を探すが、今日に限って見当たらない。
玉座の部屋へと足を向けると側近の一人が駆け寄って来て「何か様子がおかしい」と言って来た。
玉座の間の扉を開けると、部屋の中央あたりに数名の黒いローブを被った不審者が立っていた。背格好からすると獣人以外に人間か魔族も混ざっているようだった。
そしてその周りには石像になったヴァーミリアンの部下達。
こちらに気づいたローブの一人が、何やら箱のようなものをこちらに向け、その中のものが光る。
瞬間危険を感じたヴァーミリアンは咄嗟に扉から外へと飛び出るが、左腕が動かずバランスを崩した。
この時にはすでに腕は石化しており、一緒に部屋に入った側近が出てくることはなかった。
ヴァーミリアンは、即、逃走を選択。
城を出るまでに見かけた全ての戦士に港へ走るように指示する。
城を抜け、街に出るとすでに朝から活動していた住民は石像と化していた。それでも声の限り「この声を聞いた者は海に逃げろ!」と叫びながら港へ向かい、後から追いかけて来た30名程度の部下とともに、体制を立て直すために近くの無人島へ身を潜めたのだった。
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「不甲斐ない話だが、何もできず、逃げるしかなかった。何が白虎王か、笑わせるわ」
「いや、話を聞く限りじゃ最善手だろ。残っていたらそれこそアウトだ」
自嘲するヴァーミリアンだったが、クロトがそのように返すと、少しだけ微笑んだ。
「しかし、、石化ですか、、、メドゥーサという魔族が石化を使えると聞いたことはありますが」
「いや、メドゥーサではない」
アメリアの言葉を即座に否定するアーヴァントは、言葉を続ける
「確かにメドゥーサは石化が使えるという風聞があるが、実際には相手の筋肉を硬直させて、一時的に体の自由を奪う魔法を使うだけだ。白虎王の腕のようなことにはならん」
「その口ぶりだと心当たりがあるのか」クロトが聞く。
「ある。ほぼ間違いなく、白虎王が受けたのは”ゴルゴンの首”という宝具だ。いや、宝具というより呪具だな」
ちょっと待てと言って、無限の皮袋から黒い革製の表紙の本を取り出す。
この本は本来全て白紙のページで製本されている。そこにアーヴァントが調べた宝具の情報をまとめ、確定項目のみ書き記しているのだ。
クロト達にはおなじみの一冊で、通称「アーヴァント辞典」と読んでいる。
そのアーヴァント辞典を広げると、ゴルゴンの首のページで手を止める。
「ゴルゴンの首は呪具の中でも記録が多く、有名な物の一つだ。大陸が多数の国に分かれていた時代に生み出された。発動条件は所有者の生気とも言われる危険な代物で、人の頭部をかたどった石像の中に2つの宝玉が埋め込まれている。宝玉の片方が石化を、もう片方が範囲の制御を行っていると伝えられる」
「確かに、我の状況と似通っておるな」ヴァーミリアンが左の腕を見る。
「しかし、ゴルゴンの首はその危険性の高さから、国乱れた時代に破壊されている。ゴルゴンの首には弱点があり、光を目に入れなければ石化を発動できない。また、生き物にしか通用しないようだ。つまり水や植物、鉄などは石にはできないらしい。当時は盲目の天才剣士が、使い手ごと一刀両断にしたという記録がある」
「それじゃあ、もうゴルゴンの首はないのでは?」
「シーラの疑問はもっともだ。だが、ある書物に気になる記録が残っている。半分にされたゴルゴンの首の両目は光を失ったが、その後別々の国が持ち去ったと、そしてその後の行方は分かっていないと」
「つまり、断たれた両方の部位を、だれかが再びつなぎ合わせたということか?」
「ああ。宝具の中には目覚めさせてはいけないものがあるのだ。それをこのように悪用するとは、憤慨やるかたないな」
アーヴァントにしては珍しくかなり怒っている。
「クロト、そのような呪具放ってはおけん。破壊するぞ」
「いいぞ。ぶっ壊そう」
いつものノリの軽さでゴルゴンの首破壊を決めるクロト達に、ヴァーミリアンが待て待てと止める。
「これはわしの国の問題である。もし助力してくれるのであればありがたいが、何れにせよ勝手に踏み込まれるのもいささか困る。それにまずは、おお、そうじゃ。アメリアはヒールが得意らしいの、ちょっと手伝ってくれんか?」
「何でしょう? 流石に石化の解除は難しいかもしれませんが、、、」
「何、ちょうど今、左腕を切り落とすところだったのよ」




