72)王太子と皇子
ジュリアが若干の難色を示したものの、
「切り捨てるにせよ対話は大切ってアーヴァントさんが言っていたので」
と、エルトラの晩餐のご招待を受けることになった。
と言うか、切り捨てるの前提か? 何教えてんだアーヴァント。。。
「、、、ともあれ、晩餐までの時間は特に用事がないようでしたら、私とシーラは他国の駐在大使の方々にご挨拶してきたいのですが、同行されますか?」
そんなアメリアの提案に対してアーヴァントが
「いや、必ず同席する必要がないのであれば、私はこの城にある図書館を見に行きたい」と言った。
なんでも戦争などによる紛失を防ぐため、各国の貴重な書物や資料の複写を一堂に集めた施設があるらしい。各国の書庫と一線を画しているので「図書館」と呼ぶのだそう。
「あー、俺もかた苦しい挨拶とかは遠慮したいな。図書館の方が興味ある。本好きだし」
と言うわけでアメリアとシーラは挨拶回り。アーヴァントとクロト、ジュリアは図書館へ向かうと言う話で落ち着く。
なおフレアは炎のネコ? なので、万が一を考え、シーラが抱っこしてアメリア組に同行。
アメリア達と別れ、城内を進む。アメリアから聞いた図書館の場所は、中庭の横の通路を抜けた、城の裏手にある別棟。別棟のほぼ全てが図書館とのことだ。
中庭と名前はついているが、お茶を楽しむことのできるテーブルや、若年の要人を遊ばせることができるようなスペースなども設けられていて、ちょっとした規模の公園ほどの広さがある。
「あれ? ザーバルじゃないか?」
中庭の隅、一際目立つガタイに青いエルトラの衣装を纏った男の姿が見える。
その横ではクートが何度も木刀を振るっていた。ザーバルは腕を組んで、その様を見つめている。
「日々欠かさない稽古の時間ってところか」
「そのようだな」
稽古の様を見ながら歩いていると、ジュリアが脇の通路から出てきた者とぶつかってしまい「きゃっ」と、短い悲鳴とともに弾かれた。
「大丈夫か!?」
クロトがジュリアを抱き起す。羽織っていただけのマントがはらりと地面に落ち、ジュリアの羽が露わになる。
「ああん? 貴様。魔族か!? なぜこんな所にいる!?」
ぶつかって来たのは年若いおかっぱの男。いかにも貴族然とした服装が鼻につく感じだった。
「ダスク様! ぶつかったのは我々の方です! まずはお詫びを!」
取り巻きの一人がダスクと呼ばれた貴族に諫言する。
「は? お前、誰に口を聞いているのだ、マルメの王族たる私に不敬だぞ!」
諫言した男を怒鳴りつけると、返す刀でクロト達を睨む。
「おい、王族たる私の前で何を突っ立ている! 控えよ!」
その程度の恫喝で動じるクロト達ではないので、めんどくさいなと突っ立ったまま。
「ジュリア殿に何をしておる!」
騒動を聞きつけたクート達も駆けつけて来た。
「ああ? このダスク様に偉そうな口を聞くでない!」
しかしクートも負けてはいない。
「ダスク? ああ、マルメの五男だな。ワシはエルトラ王の長子ルパ=クートじゃ! 身分で物を語るのであれば、まずは貴様がワシに平頭せよ!」
「エルトラだ? はっ、あんな砂漠の小国が、メーリーアーナがお造りになられたわが国と同等と思っているのか!」
「何だと!」
木刀を掲げようとするクートをザーバルが止める。
「ザーバル、邪魔をするな!」
「お待ちを、クート様。まずは状況判断こそ肝要ですぞ」
口では穏便なことを言っているが、ダダ漏れの殺気にダスクの取り巻きが仰け反る。気づいていないのはダスクのみ。
「ああ、なんか聞いたことある名前だと思ったら、あのダメ王子か!」
クロトがポンと掌を叩く。ジュリアやアーヴァントも「そういえば」と納得顔。
「おい! 貴様、名を名乗れ。二度と王国の土を踏めなくしてやろうか?」
ダスクがクロトに詰め寄らんとした時、
「クロトさん!」と後方からアメリアが走って来た。
「アメリア? 挨拶回りはどうした?」
問いかけるクロトの前まで走って来て、「ちょっと失礼します」とクロトの胸元を弄る。
取り出したのは2つの貴金属がついている首輪。
そうして漸く一息ついたと言った感じに胸をなでおろす。
「マルメの駐在大使に聞いたら、第五皇子が来ていると聞いて、嫌な予感がしたので追いかけて来たのです」
「おお? お前は、ロッセンのアメリアか? はんっ私の妻になるのを断って、王国を追い出されたと聞いていたが、なんだ? こんなさえない男に色目を使って生き残っているのか」
「おい?」
クロトが初めて怒気を込めた声を出す。ダスクの後ろの何人かは尻餅をつく。
「クロトさん、大丈夫です。それよりもダスクさん、これ以上の発言は気をつけたほうが宜しいと忠告いたします」
対峙するアメリアとダスクの背後にそっと回ったシーラが、取り巻きの一人の耳元で何か伝える。
囁かれた男は驚嘆の表情で、慌てて走り去って言った。
「忠告だぁ? 偉そうに。高貴な血の価値もわからん愚か者が。ああ、そういえば貴様はエル何とかいうパーティとして連合議会に出るんだったな、こいつらがそうか? 魔族も混ざっているのによくもまぁ、この場所に顔を出せたものだな。連合の面汚しが。此度の連合議会で小国のエルトラと合わせて、我々マルメが統治してやると進言してやる。ありがたく思え」
高笑いするダスク。その後ろから一人の女性が走ってくる、後ろには先ほどシーラの言を聞いて、慌てて何処かに向かった男もいる。
女性はダスクのすぐ後ろまで来て立ち止まると、そのままダスクの頭を思い切りぶん殴った。
「ふはははは、っいてえ! 誰だ! 私の高貴な頭を叩いたのは!」
振り向いたダスクだったが、そこで初めて動揺の色が走る。
「イ、イグナシア姉上、、、なぜ、ここに?」
イグナシアと呼ばれた女性は、ダスクには目をくれずに
「おい、誰か紐を持ってこい。このバカを捕らえろ」
そうダスクの取り巻きに命ずる。
「紐ならある。縛ってしまっていいのか?」
そう、シーラさんはいつだって悪党を縛るための紐を常備しているのだ!
「用意がいいな? すまんが頼む」
離せと騒ぐダスクを容赦なく、かなりキツめに縛って転がす。ついでに猿轡もしておく。うるさいから。
そこまで確認してからクロト達の方を見た。
「アメリア姫とエル・ポーロの方々ですな? そちらはザーバル様がご一緒ということは、エルトラのクート王太子であられるか? 私はマルメ王国の第一皇女、イグナシアと申す。この度は我が国の愚か者が皆様に多大なご迷惑をかけ、誠に申し訳ない」
イグナシアは深々と頭を下げた。
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「どういうことか説明していただけますか?」
代表してアメリアがイグナシアに問う。
「もちろんだ。以前アメリア姫への無礼な態度をとった件を持って、ダスクは謹慎となっていた。しかし、心を入れ替え、マルメの為に働きたい。この度の連合議会に出席させてほしいと、我が母、マルメの女王に直訴したのだ」
女王でも母、駄目な子には甘いのは世の常なのか、とイグナシアは嘆息する。
「私がその話を聞いたのは今朝のことだ。あのバカは昨日のうちに出立したという。私の目から見ても、弟が反省しているようには見えなかった。最近はメーリーアーナ派なる胡散臭い教義のような物にもますます傾倒していたしな。大ごとになる前に連れ戻そうと、慌てて追いかけて来たのだが、、、」
「イグナシア様、今回の件、あの者は王証の御前での発言となります。寛大な処置は認められませんが、宜しいですか?」
アメリアの言葉は厳しい。忠告までしてあの体たらくだったからなぁ。
「無論だ。このバカ一人の問題ではない。賠償という形で誠意を見せることを約束する。その前に、いまの段階ではっきりと決定したことがある。この地に来るにあたって、女王より1つ書面を預かって来ている。万が一バカが他国の要人に迷惑をかけたり暴言を履いた場合は」
そこまで言って言葉を切り、腰から羊皮紙を取り出すと、ダスクの髪を掴んで眼前に突き出す。
「いいか、愚かな弟よ。よく見ろ、女王よりの勅命だ。本日いま持って貴様は王族の資格を失効する。貴様の持つ立場、財産、人材はすべて没収。今後は王都マーロウの城内奥深くで幽閉。私の目が黒いうちは恩赦はない。死ぬまで反省していろ」
ダスクの「ンンンンンンンンンンンンーーーーー!!!!」という声にならぬ叫びが響いた。




