71)アーヴァント、考察する
ゲラント達との晩餐中、話題は今日浜辺で会ったエルトラの面々の話になった。
「ああ、エルトラは君たちより先に到着して、挨拶にきてくれたな。今回の連合議会は、王族としての立場では私とエルトラの王太子のみの参加かな?」
「他の国の王族は参加してもしなくてもいいのか?」と、クロト。
「うん。強制じゃないよ。さっきも言ったみたいに私は当事国だから来たけど、各国、駐在大使に一定の裁量を持たせているからね。エルトラは王太子がそろそろ成人を迎えるから、政治の場を経験させるために来たんじゃない?」
エルトラは他の国よりも成人年齢が早く、14歳で成人とみなされるそう。
「ランカータは大使に任せるって、大使本人から聞いた。ファウザも王族は来ないのだよね?」
視線を向けられたアーヴァントは、立ち上がってぺこりとお辞儀してから答える。
「本来であれば我々も当事国として行動すべきでしたが、国内事情もございましたため、申し訳ありません」
謝罪されたゲラントが慌てて手を振る。
「いや、こちらこそおかしな聞き方になってすまない。事情は聞いているから、そんなつもりで振った訳じゃないんだ。気にしないでくれ」
「は」と短く返事して、席に座る。
それを見たクロトが
「ゲラントはあんまり礼儀とか気にしないから、あんまり堅っ苦しくしないほうがいいぞ」
とアーヴァントに伝える。
「その通りですが、クロト殿が言う事ではありませんね」
バーンが突っ込む。
「うん。クロト殿の言う通りだが、公の場ではむしろ少しはアーヴァント殿を見習ってほしいものだな」
ゲラントが笑いながら混ぜっ返して晩餐は幕を閉じた。
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翌日、パーティー皆でくつろぎながら、エルフの里への情報集めの方法について相談。
ジュリアはこの港へ入港したことは覚えているものの、何分幼い頃の記憶で、どの港から出発したのか、里がある島はどれなのか覚えていない。
「実際に島の風景を見れば分かるんだけど。。。」
少々申し訳なさそうなので、気にするなと慰めようとすると、フレアが空気を読んでジュリアの膝に飛び乗り丸くなる。
ナイスフレア。
「エルフ自体が王国内では幻と呼ばれている以上、現実問題としてバルゲドで有力な情報が手に入る可能性は低くないか?」
シーラの言にアーヴァントも賛同を示し、言葉をつなぐ。
「やはり諸島連合側の主だった港をあたってみる方が、何か分かる期待度は高いだろう」
「諸島連合の主な港ですか、、、クロトさん、地図をお借りしてもいいですか」
アメリアが皮袋から取り出した地図を広げる。
「まずは、獅子王が統治するザウベル島」
諸島の中央にある一番大きな島を指す。
「次に、白虎王が統治するロック島」
ザウベル島よりも東にある島を指す。
ロック島の後は続けて2島よりも北西にある島へ指を動かし
「最後に、鳳王が統治するシャピニ島。以上が諸島連合でも代表的な港を持つ島ですね」
それを見てアーヴァントが
「まずロック島周辺を探すべきだ」と即断。
「どうして? アーヴァントさん」ジュリアが首をかしげる。
「いくつかの理由があるが、最も重要なところはジュリアが寄港したのが『バルゲド』であると言う点だな。エルフの村はファウザの西の大森林にあるのだろう? ならばロッセンの港から南下するのが最短だ。単純な話、バルゲドよりも西にある島なら、ロッセン国内の港に向かうだろう。わざわざ遠い港へ向かってから、マルメとロッセンの国境を越え、大森林に向かう意味がない」
「それは、確かに。。。」クロトも納得。
「さらに、バルゲドに入港できたと言うことは身元がはっきりしていたと言うことだ。なにせ、各港でも最も審査の厳しい街なのでな」
一度紅茶で喉を潤して続ける。
「しかし、王国内では幻と呼ばれている点からしても、エルフが港で入港審査時にエルフと明かす可能性は低いだろう。エルフが入国したとなれば、少なからず話題になるだろうからな。この点から、いずれかの獣人の種族に身分を保証してもらい、入国審査を通過している可能性が高い。」
「身分偽装による、密入国ですか。。。」アメリアが眉根を寄せる。
「いや、エルフと名乗っていないだけで、案外ちゃんとした身分証があるのかもしれない。例えば王公認の船団所属とかな」
「確かに、それなら所属さえはっきりすれば、問題なさそうですね。。。」
「待った、それだとジュリアはどうやって入国したんだ?」
「シーラ、良い質問だ。だから『王公認』と考えた。船団の団員の親族と証し立てする書類か何かを、例えば白虎王の名前で発行していたらどうだ?」
「なるほど」シーラが引き下がる。
「他には何かあるか? では、ザウベル島よりもロック島を優先する意図だが、これも単純に定期便の数だな。確実ではないが、中央にあるザウベル島からはロッセン、マルメ、ランカータへの船便は大きな差はないだろう。ロック島からなら最も遠いロッセンへの便は少ないはずだ」
「もし、あまり外界に出たがらないエルフが、ジュリアを連れ出た日にロッセンの船便がなかったとすれば、そして大森林に一番近付ける便がバルゲド行きだったとすれば、、、」アメリアが呟く。
「そう、全てがたらればであるが、3つの港のどれかを選べと言う話ならば、勝算の低い賭けではないだろうと思う」
アーヴァントの意見に反対はなかったので、連合議会後の当面の目的はロック島と決まる。
「無論、この港でなんらかの情報を得られる可能性も全くゼロではない。一案として考えておこう」
そんなアーヴァントの言葉でこの話は一旦終了。シーラがお茶を入れ直そうと席を立つ。
するとシーラが立ち上がったタイミングでドアがノックされた。
「どなたかな」
そのまま扉へと近づくシーラ。
「歓談中に失礼する。先日浜辺でお会いしたエルトラの使節団の者でザーバルと申す。少々お時間を頂きたい」
警戒を解かぬまでも、扉を開けるシーラ。立っていたのはよく日に焼け、精悍そうな顔をした壮年男性。
体格からして、浜辺で王太子から何か言葉を投げかけられていた大柄の男のようだ。
その姿を見たアメリアが率先してザーバルの元へ寄ってゆく。
「昨日はお顔が見えませんでしたので確信が持てませんでしたが、やっぱりザーバル様でしたか。ご無沙汰しております」
「ああ、そういえば我々、全員顔を隠したままでしたな。これは失礼を。アメリア姫におかれましてはご機嫌麗しゅう。ますます美しくなられましたな」
ニッカリと笑うザーバル。お礼を返して、アメリアがザーバルを皆に紹介する。
「ザーバル様はバルケドの駐在大使を歴任されたこともある、エルトラ王の信任厚い名臣です。駐在大使就任のお祝いなどで私とは面識があります。最後にお会いしたのは、、、もう5、6年前になりますか」
「名臣は過分ですが、そうですな。初めてのご遊学のためクート様がいらした時でもあります。最も本人は緊張でその時のことはあまり覚えていないようでしたが。アメリア様には失礼を」
「ああ、浜辺でも覚えていないとおっしゃってましたね。まだ幼かったですもの。あんな場所に初めて連れ出されたら誰だってそうなりますよ」
そんな会話をしながら、今度はアメリアの主導でクロト達の紹介。
「噂に聞くエル・ポーロの皆様ですから、どのような方々かと思っておりましたが、思いの外若く昨日も驚きました。どうぞよろしくお願いいたします」
多分、アメリアを除けば最も身分の高いザーバルだが、クロト達に向かって深々と礼をする。
「それで、どのような御用でしたか?」
雑談がひと段落したところでアメリアが聞く。
「そうでした。昨日も改めてご挨拶をとお伝え致しましたが、正式にエル・ポーロの皆様を晩餐にご招待させて頂きたく馳せ参じました。クート様も熱望されておりますので、どうかお受けいただけますでしょうか?」
ジュリアが一瞬だけ「いー」という顔をした。




