64)野営の夜に
クィッチ達に見送られ河沿いを進む。
だが次の街までは時間的に厳しそうだと言うことで、久々の野営と決まった。
遺跡の調査にも駆り出されていたアーヴァントはともかく、ジュリアも野営慣れしていたのは意外だった。
「狩で村に帰れない時もあるし、クロトお兄ちゃん達と会うまでは普通に野宿してたよ」
なるほど。それは俺より慣れてますな。
さらに意外だったのはジュリア、アーヴァント共に料理が得意ということだった。
百歩譲ってジュリアは狩が仕事だったから分からないでもないが、アーヴァントは料理なんぞしないと思っていた。
「ふむ? 料理は好きだが? 決まった分量を決まった手順で調理すれば美味いものができる。これは素晴らしいことだ」
マイエプロンを取り出しながら語るモノクルのおじさん。心なしかモノクルも輝いてやがる。
野営の準備をしながら、そろそろ虫が多く出そうな季節だなと話していると、アーヴァントが無限の皮袋から香炉の様な物を取り出してきた。
「それならこれを使うといい。虫集めーるくん1号だ」
なんでも近くに置いておくとその香炉から発する匂いで、香炉だけに虫が集まり、食べ物や人にはよって来なくなるのだとか。
それはすげー便利だな。ところで、アーヴァントのネーミングセンスって、、、いや、なんでもない。
そんなわけで本日の夕食。
一品目はさっき釣った川魚とその辺に生えていた香草、それに昨日の街で購入したバターがたっぷりの、アーヴァント作、川魚の香草焼。
もう1つはジュリアが自ら採ってきた鳥の料理。
塩を揉み込んで、根菜とともにその辺で見つけてきた大きな葉っぱに包む。
それを土中で蒸し焼きにすれば、ジュリア作、渡り鳥のふっくら蒸し焼きの完成である。
「うまっ!」
思わず声に出る美味さ。
川魚の香草焼、皮はパリッと、中はふわっと。先に香草の清涼な香りが鼻に抜け、後から来るバターの塩気。
渡り鳥の蒸し焼きは、味付けは塩のみにもかかわらず、素朴な中に力強い野鳥の旨味が凝縮されている。
鳥肉から滲み出た脂は一緒に蒸した根菜にしっかり染み込んで、まるで根菜がメインディッシュのようにさえ感じる。
「シェフを呼べ!」
クロトがいつか見た物語のセリフをそのまま声に出すと
「ここにいるが?」
と、アーヴァントに冷静に突っ込まれた。
「本当に美味しいです。王宮でも出せるレベルですよ」
アメリア久々の王族発言。
「くっ、負けられん」
アメリアの絶賛ぶりを見て、なぜか対抗心を燃やすシーラ。
野営の夕食とは思えない充実ぶりで腹を満たすのだった。
食後はアーヴァントがガラクタ、、、もとい宝具かもしれない古道具を検分するというので皆で眺める。
「しかし、改めて見ても、、、こう、、、ただの古道具にしか見えないが、アーヴァントにはどう見えているのだ」
シーラが皆の気持ちを代弁するように聞く。
「そうだな。パッと見たのではその辺の古道具と変わらんかもしれんな。アメリアなら分かりそうだが?」
アメリアに1つの皿のような道具を手渡す。それを見てアメリアが「ああ」と声を漏らす。
「近くで見ると確かに。私なら分かるというのはこういうことですか」
「どういうことだ?」アメリアの手元をクロトが覗くと、アメリアは皿の裏に書かれている模様をなぞる。
「これ、古代文字の一種ですね。古代文字のことを知らないとただの模様にしか見えませんので、アーヴァントさんは古代文字を判断基準にしたのでは?」
「素晴らしい。正解だ。かつてこの大陸には50以上の小国が乱立していた時代があったとされる。そしてその乱立時代に多くの宝具が生まれ、またその国々が滅ぶことで、貴重な技術が失われた」
残念そうな表情をして、アーヴァントは続ける。
「ゆえに、当時の古代文字が記された物で、かつ現在も残っているということは、特殊な加工か大切に保管されたか。いずれにせよ宝具の期待ができるのだ」
「そんなにすごい技術なのに、小さな国で生まれたの?」ジュリアが聞くと、シーラが返す。
「逆に小国でも維持できるだけの武力や技術があったから、国が乱立したのではないか?」
「現在の研究ではシーラの考えが正しいとされている。まさにマルメにその名残があるな。正式名称『マーロウ・ルカ・メーリアーナ国』メーリアーナとルカの民の国、いかにも地方の小国のような名前だろう」
焚き火に反射して輝くモノクルで、古道具を透かし眺めながらアーヴァントの話は続く。
「そもそも、クロトやジュリアが持っているような、由縁がはっきりしている宝具は非常に珍しい。アメリアの腕にある癒しの腕輪のように、長年放置されていたにもかかわらず状態が良いものに至っては、出会えれば僥倖というレベルだ」
「光も差し込まない場所だから、劣化しなかったのか」クロトが遺跡に落下した時を思い出す。
「それもある。あとは、ああ、クロトは腕輪があった部屋でいくつもの穴を見かけなかったか?」
「穴? あ、あったあった。パールとなんだろうって話したんだよな。結局なんだかわからなかったが」
「あれは空気孔だ。本来は地上に繋がって新鮮な空気を取り込めるようにしているのだが、長い年月を経て全て埋まっていた。1つだけかろうじて繋がっていたが、おそらく爆発の衝撃によるものだろう。また、爆発した今でははっきりとしたことは言えないが、入り口も埋もれていたと考えるのが妥当だ。つまりあの遺跡はずっと光が差すこともなく、空気が入れ替わることもなくあの場所で眠りについていた。という事だな」
「そう考えると、今この腕にあるのが不思議な感じがしますね」
アメリアが腕輪を触りながら感慨深げに呟く。ちなみに未だに外し方は分からず、本人も半ば諦めている。
「もちろん古代文字が記されている全てが宝具というわけではない。また、危険なものもあるかもしれない。まずは古代文字の解読をして、なるべく用途を絞る。その上でマナや魔術を流して見てみる」
「古代文字の解読でしたら私も手伝いましょうか?」その手のものが好きなアメリアは乗り気だ。
「ああ、助かる。それに魔術を送ってもらいたい時はジュリアに。実践的な実験が必要な場合はシーラにも手伝ってもらいたい」
「分かった。ボク頑張る!」
「任せておけ。もし私でも使いこなせるものがあれば、貸していただきたいものだな。皆が宝具を使っているのをみると、私も触ってみたくなる」
そんな会話の中、クロトが手を挙げる
「俺は?」
「クロトではマナで動いたか魔力で動いたか分からんからな。それに何が起こるか分からん実践ではシールドを使いこなすシーラが適任だ」
正論で断られたクロトがちょっと凹んでいると
「それだけクロトさんの能力は特殊ですごいって事ですよ」
とアメリアが慰める。
私が古代語を教えるので、一緒に解読しましょうと言われて、ちょっと機嫌を直したりしながら、その日の夜は更けていった。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
90、91話の書きだめ完了しました。 連続更新目標の100話までまであと9話! がんばろ。




