56)アメリアの懸念
のびている馬泥棒を引き渡すため、急ぎアーヴァントが街の衛兵を呼びに行っている間、クロト達は一応賊を見張りながら待機。
その間にジュリアを中心に猫の名前を決めようという話になった。
ジュリアが候補として挙げたのは「フレア」と「フレにゃん」。
ジュリアを除く3人の厳選な多数決の結果、2対1で「フレア」に決まった。唯一「フレにゃん」に投票したシーラは地面を叩きながら悔しがっていた。
シーラさんのキャラが崩壊。
その姿はもはやシーラたん。
「シーラは可愛いもの、特に小動物系が好きすぎなのでこんな感じになりますよ」
と冷静なコメントをするアメリア。悲しげにフレアを撫でるシーラ。
「しかし、この子、法術、、、黒術でしたね。とにかくマナか魔力かで具現化してるということですよね?」
アメリアに再度聞かれるが、クロトとしては「多分な」としか言いようがない。
念のため同じ流れで黒術を発動させてみたが、ただの火球ができただけでフレアのような現象は起きなかった。
「考えられる原因は手甲ですが、、、」小首をかしげるアメリア。
そんなこんなしている内に、アーヴァントが衛兵を連れて戻ってきた。
見れば、この間街中で一味を引き渡した時の衛兵もいる。
「あっ、あなた方でしたか! 何度も有難うございます!」
とめちゃめちゃ感謝しながら残りの賊を捕獲して去って行った。
残された4人にアーヴァントが言う。
「今日はここまでだな。とにかく一旦戻ろう」
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クロトに提供されている貴賓室に集まりくつろいでいると、ノックとともにリヴィア姫が入ってきた。
後ろからロヴァ王子とアーヴァントもついてくる。
「おくつろぎ中すみません。アメリアに頼まれていた例のオベリアの件なのだけど、アメリア、別室に移った方が良いかしら?」
「ああ、有難うリヴィア。ここにいる人達なら問題ないわ。ロヴァ様も同じ理由で?」
ロヴァは首を振り、フレアをビシッと指差す
「俺たちはその猫を見にきたんだ、たまたまそこでリヴィアと会ったんだが、俺たちにも聞いて欲しいとのことだったんでな。残念ながら猫は後回しだ」
先日の晩餐と同じメンツと猫1匹が卓に集まる。
「これからお話しすることは、全て私の想像にすぎません。なので、ファウザ王にお話しするかはロヴァ様とリヴィアの判断にお任せします。また、ファウザ王にお話しするようでしたら、私も父に手紙で同じ内容を知らせようと思います」
アメリアの真剣な表情に全員が居住まいを正す。誰かがゴクリと喉を鳴らした。
「では、そうですね、、、何から話しましょうか。。。多少順番は前後しますが、私たちが見てきたものを説明しますね」
そう言って、ロッセンで起きた事件から話し出す。ロッセンの第一妃がアラクネに取って代わられていたこと。
さらにはアラクネの手引きで、キロル鉱山に向けた侵攻および、魔族との戦争状態に突入しかねない瀬戸際であったこと。
そしてアラクネが魔王ではない何かに仕えているような口ぶりだったことなどを話す。
「第一妃が急逝されたとは聞いていたが、それ以外は全て初耳だな、、、」ロヴァ王子が驚きの表情で言った。
「おそらくですが、捕えたアラクネからまだ有益な情報を引き出せていないのでしょう。アラクネが魔族である以上、曖昧な情報で動けば、やはり両国間の緊張度が上がりかねません」
「確かにそうだな。続けてくれ」
ロヴァに黙礼をして、次に話し始めたのはアルルでの奴隷商の騒ぎだ。
こちらはロヴァ王子、リヴィア姫ともに、顛末はアメリアよりも詳しく知っているはずなのであらすじのみ話す。
その上でアメリアが続ける
「アラクネとハンベット卿の件は2つの大きな共通点があります。それぞれの言葉を信用するのであれば、王国、魔族領いずれにも属さぬ勢力に傾倒していること。王国連合、魔族領の戦争を望んでいることです」
「そうね。目的が同じであれば、ハンベット卿が言っていた「ドラグロア」と言う組織に、アラクネも属していると考えたほうが自然かもしれないわね」と、リヴィアも同調。
「そしてもう一つ。アーミーアントの件に関して。発生源とされる遺跡では人為的にアーミーアントを発生させた可能性が見られます」
ちらりとアーヴァントを見ると、アーヴァントは黙って頷いた。
「それでずっと気になっていたのが、「アーミーアント襲撃をファウザに知らせたのは誰か」と言う点です。リヴィア、結果はどうでしたか?」
「そう言うことだったのね。結論からいえば差出人不明、ね。アーミーアントがオベリアを襲った翌日早朝、ファウザに王族宛のヤモチ鳥が届いてオベリアの状況が発覚したわ。手紙はご丁寧に蜜蝋の封がしてあったそうよ。ヤモチ鳥を送り出したのは実際にファウザに支店を持つある商家の名前が入っていたけれど、問い合わせても王族宛に手紙を出したものに心当たりはないし、入っていた名前も偽名だったわ」
「やっぱり。なんとなくだけど段取りが良すぎる感じがしたの。まるで少しでも早く、ファウザの騎士団をオベリアに向かわせようとするみたい、、、」
「ファウザの騎士をオベリアに向かわせる理由は、国内から戦力を減らすのが目的か?」ロヴァ王子が身を乗り出しアメリアに問う。
「私はそう思いました。アーミーアントの襲来は数十年に一度の奇禍。加えて魔族領ハナムとは10年ほど休戦状態。であれば、首都近郊の兵力の半分程度はオベリアに向かわせる予定ではありませんでしたか?」
「アメリア、君の予想通りだ。ガノーで動かせる兵力のほぼ半分を動かすつもりでいた」
「もしガノーの兵力が半分になったときに奇襲をかければ、条件次第ではガノーも無事では済まなかったでしょう。そして混乱の中で誘拐事件のような火種がファウザ、ハナム両国に降りかかれば、、、」
「ゾッとする話だな」ロヴァ王子の表情も厳しい。
「おそらくですが、今回の作戦の肝がガノーの兵を大きく減ずることだったとすれば、根本が頓挫したので一旦全ての計画が停止したのではないかと思います。そうでなければ闇奴隷商人のような戦争のきっかけとなりかねない細かな悪事がいくつもあったのではないかと」
「ふむ。アメリアの言うことは想像にしては現実味があるとこだと思うぞ、ロヴァ」アーヴァントが初めて口を開き、そのまま続ける。
「ついでにアメリアが言いにくかったことも言っておくべきだな。このガノーの中で、騎士団を動かせるか、動くように進言できる立場に裏切り者がいる可能性が高いだろう。差し当たっては手紙を最初に受け取ったものや、真偽を確認する前に出兵を強く促した者などいなかったか?」
「それは、、、」当時の状況を思う出すように天井を見つめるロヴァだったが、少しして首を振った。
「あの場にいた者たちも随分と混乱していたからな、なにせ実際に体感したことのある人間が少ない災害だ。様々な意見が飛び交っていたが、、、、いや、、待てよ、、、、そういえば、、、」
と、そこでアメリアがロヴァを止める。
「ロヴァ様、そこまででお願いします。今、特定の名前を出して視野を狭めるべきではありません。まずは密偵を出すなどして該当者全員の動きを探ってからの方が良いかと」
「あ、ああ。そうだな。あの時議会にいた者全ての動向を確認してみることにしよう」
「それともう一つ」とアメリアが口を開くと「まだあるのか」とうんざりした顔になるロヴァ。
「ガノーまで直線に主だった障害物がなく、人目につかない場所を探索するべきです」
「なぜだ?」
「私が一連の計画を立てた首謀者であれば、ファウザの兵力が減った段階でもう一度アーミーアントを”喚び出す”方法をとりますから。最初の”試験”よりも、もっと大規模な」




