50)アルルの休日
シーラたちのお土産に屋台で菓子を買って帰ると、宿にブックが居た。
「あれほど大人しくしていろと言ったのに、、、今度は何と出くわしたんです?」
詰め寄るブック。失礼な。何もないわい。
ブックを無視してジュリアたちにお土産を渡す。ブック、お前にはやらん。
まだブツブツ言っているブックだったが、シーラが話の続きを促すと、椅子に座り一口お茶を飲む。
「えっと、どこまで話しましたっけ? ああ、そうだ、今回の件、後処理はほぼ済んだんですが、ちょっと面倒なことがあって。。。」
「面倒ごと?」
「その、今回皆さんに手伝ってもらって、っつーか皆さんが主にヘカトンケイルを倒したわけじゃないですか。そんで、騎士団の騎士も援軍で来てた。で、「あの勇者たちは何者だ」ってなった訳です」
なんか嫌な予感がするぞ。
「アメリア姫が姫なのは、あの場にいた兵には昨日の門前でバッチリバレたわけなので、俺としてはガツンと言っときましたわ、「彼らは第二騎士団パール団長も一目置く、ロッセンの勇者パーティ、エル・ポーロだぞ」ってね」
ってね、じゃない。テヘペロみたいに言うな。
「ついでにパーティーはアーミアントを撃退した立役者で、クロトさんはパール団長の命を遺跡で救った人物だと話したらもう、大騒ぎで、ウケますね。そしたらお礼も兼ねて、街の主だった面々と是非に一席って言われてまして」
お前のせいで面倒臭くなってるんじゃねえか。やっぱコイツ一発殴ろう。
「本当に面倒なので、お断りしてください。お気持ちはありがたいのですが私たちはお忍びなので、と、ついでにあまり身分を明かすことを望んでいないとでも伝えておいていただければ」
ため息をつきながらアメリアが伝える。
「了解。じゃあ伝えておきます。それで、事後処理に関してはさっきシーラさんに伝えてますんで、後で聞いてもらえれば。と言っても、特に新しい情報があるわけでもないので、本当に事務処理だけですがね。それよりも、もういつでも出発できますがどうします?」
あまり注目を浴びるのは御免こうむりたいが、もう出発というのも慌ただしい気がするなと思っていると、アメリアが小さく手をあげる。
「腕輪の調査を心待ちにしているアーヴァントさんには申し訳ないですが、昨日の疲労を考えれば、明日いっぱいくらいはこの街に滞在したいと思います。念のため首都には手紙で、到着にはもう3、4日かかると伝えておきましたので」
視線でこれでいいですかと聞いてくるアメリア。クロトも頷き応える。
「お、じゃあ俺も明日は休みですね。じゃあそれで」
こういう時に上司に全く忖度しないのは素晴らしい。出発は明後日の朝に決まった。
「そうだ、明日、アルルの街を見て回るんなら、美術館がオススメですよ。なんせあの、ヴィゼットの過ごした街なんで。そんじゃまた明後日に」
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ジュリアは昨日お土産に買って帰ったチュロスという棒状の菓子がいたくお気に召した様子で、今日は両手に持ちながらご満悦。その様子を微笑ましく見ながら、俺たちは街の美術館へと足を向けていた。
「ヴィゼットは70年ほど前に活躍した画家で、魔族との戦争が激しかった当時、従軍しながら平和な風景を書き続けました。牧歌的な画風は故郷を思い出させ、兵の士気が下がりかねないと禁止されながらも、禁錮を覚悟の上で穏やかな田園風景や、たくましく遊ぶ子供達を描き続けたそうです。実際に一時期投獄されたこともあったそうですね。足の怪我で除隊してからは、ここ、アルルで晩年まで過ごし、多くの作品を残しています」
「へえ、名前くらいは知っていたが、どんな絵を描いた人かはあんまり知らなかったな」
「アルルって何か聞いたことがある気がしていたのですが、私もヴィゼットの街だって昨日ブックさんに言われてから気がつきました。そういえば”アルルの川辺”という三部作が有名ですね。近年の平和で改めて脚光を浴びつつあります」
屋台や出店を冷やかしながら石畳の道を進んでゆく。
「お、あれが美術館じゃないか?」シーラが指差す先に、白く大きな3階建の建物が見えて来た。
チケットを購入するにあたり、15歳までは半額だという。ジュリアの年を確認すると12歳とのこと。
指定された料金を払い、チケットと交換しているアメリアを眺めていると、シーラが「何か妙な視線を感じるな」と耳元で囁いた。
「危険な感じか?」
「いや、悪意のある気配ではないので問題ないとは思うが、念のため警戒はしておこう」
館内はヴィゼット以外の美術品も展示されていたが、やはりこの街にとってヴィゼットは特別な画家なのだろう。
最上階の3階が丸々ヴィゼットの常設展示室になっている。せっかくなのでヴィゼットの作品から拝見。
なるほど、あぜ道で佇む少年や川面に映る夕日など、故郷になくても、まるでそんな風景を見て育ったかのような気持ちにさせる絵だ。
中には敵国であるはずの魔族が水辺で涼を得ている絵などもあり、ヴィゼットという作家の本質の一端を垣間見ることができる。
「そういえば、昨日のヘカトンケイルって、結局魔族?それとも魔物? 魔獣? なんなんだろうな」
静かな館内になるべく響かないように小さな声で喋る。こういう時頼りになるのはやはりアメリア。
「うーん、実は明確な線引きってないのですが、、、ただ一般的には、多少の言葉の違いはあれど会話が成立するなら魔族。成立しない相手は魔物でしょうか。魔獣は魔族領にいなくても、人に害なす獣をさす総称ですし。なので会話が成ったアクラネは魔族、ヘカトンケイルはもしかすると通常時であれば会話できたかもしれませんが、少なくとも現段階では魔物に近いものと言ったところです」
魔族ならもう少し明確な区分けがあるのかも知れませんが、と続けながら作品を見て回る。
「あれ?」クロトの足が片隅にあった1枚の絵画の前で止まる。
作者に背を向け、夕日に向かって佇む真紅のマントを着た将軍のような男の絵。他の絵とは随分雰囲気が違う。
解説にはタイトル不明。ヴィゼット没後に自宅地下から発見された絵。
絵のタッチからヴィゼット作と思われるが、ヴィゼットのサインもなく他の作風とも随分違うため、真偽について今でも議論が交わされている。と書いてあった。
「どうかしたのか?」一番後ろからついて着たいたシーラが声をかける。
「なんかこの絵のマント、よく似たものを爺さんが持ってたような? っと、置いてかれるか」
先に行っているアメリアやジュリアを追い、足を進める。
後からその絵を見たシーラはその真紅のマントと縫い付けられた紋章を見て、何か見覚えがあるなと思うも、立ち止まってこちらを待っているアメリア達の元へと歩を進めるのだった。
美術館の後は共同浴場へ。
旅人にとって風呂に入れるチャンスというのは逃してはならないものである。とはシーラの弁。
宿にも簡単な浴室はあるが、足を伸ばして入ることができる浴場があるのなら利用しない手はない。
体をしっかり洗って十分に温まってから出てきたクロトだったが、3人が出てくるまでにはしばらく時間がかかりそうだ。
表に置いてあったベンチでのんびりと待つことにする。
しばしゆったりとした時間を堪能していると、目の前に影がさした。
顔を上げたところにいたのは、一人の衛兵だった。
「どうかしたか? ここ座ってちゃまずいとか?」
「あ、いえいえいえいえ! ご休憩中のところ申し訳ありません! あのぅ、エル・ポーロの勇者クロト様、、、ですか?」
「? 勇者ではないけど、そのパーティのクロトなら俺だよ」
「やはり! 一昨日のご活躍、同僚から聞きました! これを勇者と言わずなんというか! あ、あの、握手をお願いします」
「えっと、はあ」
と、出された手を握りかえすと、「あっずるい!」と何人もの人が衛兵の後ろに並ぶ。
え? 何? と戸惑っているクロトの前にあっという間に出来る人だかり。
皆口々に、一昨日の活躍に感動したなどと言いながら握手を求めてくる。これはあれだな、完全にブックのせいだな。
と、人ごみに困惑しているクロトの前にブック当人が「何してるんです?」とひょっこり顔を出す。
「どうしたも何も、、、あ、そういえばブック、ちょっと耳をかせ」と耳元で囁く。
「あんまり騒がしくしたくないって言ってたアメリア、この状況見たら怒るんじゃないか? シーラが意図を受けてブックの膝を狙いかねんぞ」
ブックは慌てて「皆さん! エル・ポーロの方々は貴重な休息の時間です! この街を救った英雄にどうかお気遣いを!」と言いながら、集まった人々に散会を促す。
多分、アメリアは何にも言わないだろうが、シーラの膝割の件は十分に効果を残しているようだ。
そうして人々が散った頃に、3人が浴場から出てきて「何かあったんですか?」と聞いてきた。
「全然何にもなかったですよ。ね、クロトさん」と同調を求めるブック。
さて、なんて答えてやろうかな。




