48)ヘカトンケイル
「よし! 行くぞ!」
気合いを入れる俺たちの前に立ちふさがるヘカトンケイル。
その後ろでずっと笑いを続けていたハンベットが、突然「ふぎゃっ!!」というおかしな声を出して床に叩きつけられる。
俺たちどころかヘカトンケイルもキョトンとハンベットを見、しばしの間抜けな時間が流れる。
「よしっ当たりっ!」ガッツポーズをしたのはジュリアだ。
シーラについて来て、皆がヘカトンケイルに注目している間に、ハンベットをヘッドショットしたらしい。
ピクピクと動いているので、死んでは無さそうだ。ナイスジュリア。
ヘカトンケイルがハンベットに注目した一瞬の隙を見逃さなかったのはブック、ブックの戦いかたを初めて見るが、マントの内側に何本ものナイフを取り出し、それをヘカトンケイルの腕めがけて投げつける。
一応刺さるものの、見た感じ大きなダメージはない、と思った瞬間、ブックの「爆!」の掛け声とともに、突き刺さったナイフが爆発する。思わずのけぞるヘカトンケイル。
ブック、法術も使える術剣士かよ! すげえな。
のけぞったヘカトンケイルの足元に向かって、2人の術師が水と氷の術で攻める。滑って足を取られ豪快に転倒するヘカトンケイル。
転倒したヘカトンケイルめがけ、援軍の騎士が槍を構えて飛びかかる。「もらった!」騎士の槍が喉元を貫かんとした瞬間、ヘカトンケイルの右腕のうち3本が凄まじい速度で騎士を襲う。
真横から鉄板のような腕に叩かれ、教会の壁に叩きつけられる騎士。
「ちっ、やっぱ相当強いな! ブック、ちょっとあの騎士助けてくるから、あいつ引きつけておいてくれ!」
「了解!」
加速ブーストで倒れた騎士の元へ走る。意識なくぐったりしている騎士を抱えるとシーラの元へ急ぐ。
ブックはヘカトンケイルの腕を器用に避けながらナイフを眼前に投げ、爆発で視界を遮り、後方から放たれる術者の援護で足止め。やるなあ。
「シーラ、防護壁! アメリア、治療頼む!」「ああ!」「はい!」
投げるように騎士を渡すと、ブックに意識が向いているヘカトンケイルの背中へ回り込む。
「後ろからなら手の多さは関係ないだろ!!」と、後頭部を狙いに飛び上がるが、瞬間、クロトに嫌な予感が過ぎり、本能的に空中で防御姿勢をとる。
すると、一番上から生えている両腕が、真後ろのクロトめがけて拳を突き出して来た。拳がクロトに当たり後方へ飛ばされ床を転がるクロト。
「クロトさん!」アメリアの悲鳴が聞こえる。
だが、ヘカトンケイルの拳が当たる瞬間、足で拳を蹴り上げて直撃を避けたのでそれほどのダメージではない。
「大丈夫だ!」アメリアに応え!体制を立て直す。
後方からの攻撃は一旦諦め、ブックと合流。
「ブック、あいつに触りたい。隙を作ってもらえるか?」
「触る? ああ、なんか隠してる技があるってこと?」
「そんなところだ」
ブックは術師を向いて「もう一度転がせられるか!?」と指示する。
「やってみます!!」と、2人の術師が再度ヘカトンケイルの足元を集中して攻め始める。
だが、ヘカトンケイルも狙いはわかっているので、術師を先に潰そうと動く。そこへクロトとブックが牽制。
残ってヘカトンケイルと対峙した兵士たちは、戦いのレベルが違うことと、先ほど騎士がやられた場面で足がすくんで動けない。
ブックはそれらの兵士に「お前たちはハンベット卿の確保に回れ!」と指示を飛ばす。
クロトは隙を見てヘカトンケイルの腕をつかもうとするが、他の腕が次々と襲ってくるためそう簡単ではない。
襲ってくる腕を拳で跳ね上げ、蹴り飛ばすのが精一杯の状況である。
「しまった!」ブックがヘカトンケイルを転がすための法術に足を取られ、バランスを崩す。
すかさず4本の腕をブックへ叩きつけんとするヘカトンケイル。クロトも加速しブック救出へ向かうが、ヘカトンケイルの腕の方が早い。
クロトが間に合わない! と思った刹那、ヘカトンケイルの3つの目を、空気の矢が射抜く!
「ぐがぁぁあああ」ほぼ3本同時に突き刺さった矢に、ブックに向けた腕を引っ込め顔を覆うヘカトンケイル。
「クロトお兄ちゃん! 今!」矢を放ったジュリアが叫ぶ!
ジュリア、マジでいい仕事した! 負けてられんわ! クロトはヘカトンケイルの腕の一本を掴み、祖父から引き継いだ能力を発動する。
「エナジードレイン!」
文字通り相手の力を吸い取り、一時的に自身の力に変換する、野良ドラゴンにも使用したクロトの必殺技である。
「うおおおお」
掴んだ腕を起点に、吸い取った力を使って、ヘカトンケイルを顔から大理石の床に叩きつける。
ズドンという音ともに床に大穴が空く。立て続けに反対側へ、今度は背中から叩きつけられ、耐えきれず口から血を吐き出すヘカトンケイル。
「まだだ!」
2度、3度と床に叩きつけられるヘカトンケイルは、徐々に10の腕も力なく垂れ下がるのみとなってくる。
「とどめ!」
一旦ヘカトンケイルから手を離し、両手を組んで、吸い取ったエネルギーを倒れているヘカトンケイルの腹へと叩きつけた!
大理石の床は完全に粉砕され、ヘカトンケイルの体の全てを地面にめり込ませて止まる。
ヘカトンケイルはもうピクリとも動かなかった。
「ふー、ブック、無事か?」
体勢を崩したまま、唖然として見つめているブックが、何度目かの言葉をポツリとつぶやく。
「えぐっ」
「アメリア、シーラも無事か? ジュリアはよくやったな」
歩いてくるクロトに真っ先に駆け寄ったのはアメリアだ。「まずはヒールを!」急ぎ法術をかけ始める。
「いや、無事というか、なんださっきの?」ここまでの旅路で、そう簡単に驚くことないシーラも流石に驚いた顔をしている。
「エナジードレインのことか? 野良ドラゴンの時も使っていたが、気づかなかったか? あ、そういやあの時は見てなかったか。デカい相手をぶん投げる時とかに便利なんだわ。アラクネは早くて掴めなかったから使いどころが無かったけどな」
シーラはおなじみの嘆息をしながら「まったくお前は、規格外にもほどがあるな」と笑う。
「クロトお兄ちゃん! すごかった!」興奮しているのはジュリア。お兄ちゃんって、新鮮な響きでいいな。
「ジュリアもよく頑張った。というか、一番活躍したのジュリアじゃないか?」
「えへへ」と照れるが、実際あの矢の援護がなければどうなるか分からなかった。ジュリアの弓の腕、その辺の兵士よりはるかに上だわ。
そんな風にパーティで和やかに談笑していると、奥の方から悲鳴に似た叫び声が聞こえる。
「ばばばばば馬鹿なっ! シーザー様から下賜されたヘカトンケイルが! 私の使命が!! ありえん!! あり得てなるものか!!」
声の主は意識を取り戻したハンベットである。半狂乱とも取れる叫び声は続く。
「貴様ら! ふざけるな! シーザー様の、我らドラグロアの道をじゃまっ、、、、、」
そこまで言ったところで、ハンベットの首がコロンと落ちた。なんのアクションもなく、自然と落ちたように。
「天井!」凄まじい気配に、反射的に両手を広げてアメリアたちを守ろうとするクロトとシーラ。
天井の梁に何かが立っている。異常に禍々しい何か。
「あら、安心してください、な。私は戦う気、ありません、から。ちょっとお喋りさんのお口を塞いだ、だけ。できればこのまま見逃していただけると、お互いに無駄な命を散らさずに、済む。と思いません、か?」
声は女のそれ、だが、天井の闇に隠されて姿ははっきりと見えない。
「聞きたいことがあるが、質問してもいいか?」シーラがその存在に声をかける。その声は震えていた。
「い、や。お喋りは良くない、ですよ。それで、は」
カタンという音が鳴り、一瞬天窓が開く、直後に禍々しい気配が消えた。
見渡せば、アメリアやジュリアは恐怖で震えながらその体を掻き抱いているし、兵士はへたり込んで何人かは気絶している。
震えているだけの2人はむしろ大したものだ。
まともに立てているのはクロトとシーラ、ブックだけ。回復した騎士も膝をついて驚愕の表情を貼り付けていた。
残ったのは静寂と、ハンベットの首。ひどく後味の悪い勝利で、館の騒動は幕を閉じた。




