47)陰謀の影
後ろ暗いことをしているやつは過剰に防衛を敷いていると言うが、ハンベットの館はまさにその通り、出てくる出てくる私兵たち。
とはいえ所詮、半分賊のような輩なので、クロト達どころかアルルの兵士でも十分に取り押さえることができるレベル。
これなら門番が一番強かった気がするな。と、ぼんやり考えながら歩いていると、物陰から不意を突こうとした私兵が「ぎゃっ」と言う悲鳴とともに、腕に矢を受けて倒れる。
矢を放ったのはジュリアだ。
ハンベット邸へ突入を決めた際、ジュリアは宿で待っていてもらうつもりだったが、本人が強く参加を希望した。
曰く、自分も弓で戦えるし、誘拐犯を許せないと。
クロトたちの近くにいる分には心配なかろうと言うことで同行することになったが、なかなかどうして、ジュリアの弓の腕は確か。
「村では獲物を取る仕事だけやらされていたから」
エルフ達はいずれジュリアを追い出すために、食料の確保だけは教えていたと考えるのは穿ち過ぎか。
さらにジュリアの持っている弓は、母からもらった特別な宝具とのこと。
何がすごいって、矢がなくても空気を圧縮して放つことができるのだ。これによって殺傷能力の有無をジュリア自身が調整することもできるのだとか。また、母親曰く、弓は持ち主の実力に合わせて成長していくのだとか。
「子供の頃より少し大きくなっている」とジュリア自身も言っていた。
ちなみに今は殺傷能力は抑えめの矢を放っている。失神程度のダメージは負うが。
しかし俺の手甲とか、アメリアの腕輪とか、宝具、全然珍しくなくない?
シーラが宝具がポンポン出てくるこの状況がおかしいのだ、と懇々と説明してくれた。絶叫が響く館の中で。
館は3階建てで、母屋以外に3つの建物と繋がっている。敷地は広いものの今の所ハンベットは見つかっていない。
各部屋の制圧を兵達に任せ、クロト達のところに寄ってきたブックが
「ハンベットの奥方と息子は確保した。昼すぎまでは間違いなく館にいたようだね。タイミングで考えると、逃げた可能性もないではないけど、、、」
と、話しながら通りがかりに開いていない扉があると扉を蹴り飛ばして中を確認する。
「だとすれば、この屋敷の警備が厳重すぎるんだよな」
クロトもブックの真似して、開いてない扉を蹴り開ける。ちょっと勢い余って扉が壊れて飛んでいった。
「そう言う事。こんな時の隠れ場所の相場は地下かな」めんどくさそうにブックは首を振る。
シーラはアメリアとジュリアを守りながら後に続く。あっこらジュリア! 悪人の家だからって、その辺に飾ってあるツボとかを弓で狙うなやめなさい!
「面倒だから、建物一回全部燃やしちゃうか? 入り口探しやすくなるし」
「物騒なこと言うな。ハンベット卿が蒸し焼きになるのは知ったことではないが、子供達がいたら大変だ」
不穏なことを言い始めるクロトにシーラが返す。貴族の命、軽い。
「ブック様! ありました! 地下通路です!」
兵の一人がかけてくる。入り口は庭の片隅にある物置小屋だった。
「通路の先は、さすがに手練れがいるだろうから、俺が先頭に立とう」
ブックと腕に覚えのある兵数名が隠し通路の奥に消える。それからしばらくして、一人の兵が戻ってくる。
「すみませんがアメリア様、皆様も来ていただけますか。子供達が見つかったのですが、怪我をしている子もおり、ブック様がアメリア様の助力を頼めと」
「わかりました。そんなにひどいのですか?」
「見せしめに腕を折られている少年がいまして。兵舎詰めの治癒師よりもアメリア様の方が確実だと」
何人かの私兵が伸びて転がっている隠し通路を急ぎ通り抜けると、簡素な牢屋がある部屋に出た。
子供達は一箇所にまとまられ、兵達が保護している。アメリアは治療のためそちらに駆け寄り、シーラもついていく。
クロトとジュリアは子供達がまとまっている場所の反対側。階段の前に立っているブックへ近づく。
「その先にハンベットがいるのか?」
「ああ、クロトさんか。子供達がさっきこの扉から男が出て行ったのを見たらしいが、随分と分厚い扉で開けるのに難儀してる」
「モタモタしているうちに逃げられるんじゃないか?」
「多分大丈夫だろ。ここに来る前に街の各門には多くの兵士を張り付かせておくように手配したから、もし強引に抜ける事があってもすぐに連絡がくるはずだな」
「そうか、じゃあとりあえずこの扉を開ければいいんだな? ちょっとどいてろ」
クロトは右腕にブーストをかけ、分厚い鉄の扉をぶん殴る。扉の周りの壁がその威力に耐えられず、ボコン! という音とともに、扉ごと向こうへ倒れこんだ。
「うっわ、エグ」思わず声を出すブック。
「クロトさんすごい!」シンプルにはしゃいでいるジュリア。
「シーラ、ちょっと行ってくるからアメリアとジュリアを任せる!」
「分かった。この地下まで影響するような破壊はするなよ!」
まぁまぁ失礼なこと言うな、君。
扉を出ると、大理石造りの広い空間。
「ここは、、、教会か? こんな場所に教会なんてあったか?」ついて来たブックが周囲を見渡し首をかしげる。
「その通り、ここは教会ですよ。ただし、あなた方下等な者が立ち入って良い場所ではない」
奥の暗がりから痩身の男が歩いてくる。背後の暗がりには巨躯の影。
「ハンベット卿、、、」ブックが剣を構える。
「あー念のため聞くが、俺はロッセンの王証を持っている。おとなしく投降しないとファウザとロッセンの両方から追われる身となるが、投降するつもりはないか?」クロトは王証を出して見せるが、ハンベットは動じるそぶりも見せない。
「ふん、王証だと? 最初から我々に王国への忠誠などないわ」
「ハンベット卿、アルルの出口は全て固めています。もう逃げられませんのでお覚悟を」
ブックの後ろから来た兵もハンベットを囲むように展開。
「ははっ、逃げられない? 馬鹿も休み休み言え。ここでお前らを殺し。城門も突破する。簡単なことだ。おい、やれ。」
後ろに控えていた巨躯がゆっくりと間合いを詰める。現れたのは三つ目の大男。手、多いな。8本、いや10本ある。魔族か?
「ブック、あれなんて魔族か分かるか?」
「多分、ヘカトンケイルじゃないか? 手、多いし。だとすればまじで最悪だ。おい! お前ら、少しでも勝てないと思ったやつは下がれ! 下がったやつは誰か助けを呼んでこい、戦闘術使える法術師も準備しろ! この建物の大体の位置もわかるな! 周囲を囲んでおけ!」
矢継ぎ早に兵達に指示を出すブック。なんかお前騎士っぽいな。
ブックの指示に数人の兵士が扉の奥へと戻る。こちらの今のところの戦力は俺とブックを入れて10人程度か。
ヘカトンケイルっていうのがどんな強さか分からんが、10人ではなんとなく厳しい気がするな。どうするか?
すると地下から先ほどの戻った兵達と入れ替わりでシーラたちと、3人の男が駆け上がってきた。1人は騎士の鎧を纏い、残りの2人は法術師に見える。
「ファウザ第三騎士団の者だ! 近くを巡回中だったが話を聞いて来た! 間に合ってよかった!」
熱い感じの騎士だが、身のこなしを見る限り腕は確かっぽいな。これで少しマシになった。
「子供たちの治療は終わった。もう通路を抜け始めている。法術士たちは私が守りながら援護射撃をかける。クロトたちは前だけ気にしていれば良いぞ!」シーラ、こういう時本当に頼りになるな。
さて、ヘカトンケイルとやら、一戦やろうじゃないか!




