46)奴隷商人の黒幕
「へえ、じゃあジュリアちゃんはクロトさんたちと一緒に行くのか。分かった、じゃあ入国手続き、ジュリアちゃんの分もするね」
合流してすぐに、ジュリアをパーティに迎えたい旨をブックに伝えると、えらい軽い答えが返ってきた。
つーか、そういうのって一応上の指示とか仰がないとダメじゃないの?
「ちゃんとするならねぇ。でも、本人が戻りたくないってんなら、クロトさんの知り合いってことにして、引き取ったってことにしておけば万事OKでしょ? こっちも手続き楽だし。というわけで、ジュリアちゃん、君は前からクロトさんの知り合いってことでよろしく。遠い親戚とかでいいんじゃん?」
なるほど、皆が楽できる合理的な解決方法ということか。
「あ、ただし。今回の一件で一応クロトさん達も、ジュリアちゃんも一度兵舎で話を聞く必要があるんで、それだけはよろしく」
入国手続きは簡単だった。まぁ、主にブックがやってくれたので、俺たちは座っているだけだったが。
入国審査が終わると、ジュリアの服を買うのに付き合う。
もっぱらクロトとブックは荷物持ちと3人を眺める担当。
時折聞かれる「これ可愛いですよね!?」という声に「可愛いよ」と答えるのが主なお仕事だ!
服屋の店員は羽のある少女にびっくりしていたが、ブックが自身の騎士証を見せながら「ロッセンの要人です」というと、営業スマイルで対応していた。
金額に糸目をつけないので気に入った服を羽が出せるように裁縫し直して欲しいと、本当に値札を見ずに何枚も買うという上客だ。店員もホクホク。
羽はマントでごまかすことにした。こちらも白やピンクの可愛らしいものをジュリアのサイズに仕立て直してもらう。
仕立て直しをしている間に、みんなで遅めの昼食をとった。
アルルの名物はじっくりと煮込んだ牛のテールスープ。スプーンを当てるだけでホロリとほぐれる絶品だ。
「しっかし、ジュリアちゃんは見た目でわかりますけど、クロトさんも亜人だったのはびっくりしたなぁ」
ブックがまじまじとクロトを眺める。
「やっぱりファウザでも亜人は珍しいのか?」
「そうだねぇ、少なくとも自分はあまり見たことがないなぁ。流れの傭兵の中にたまにいるくらいかな」
「亜人だと、、、いじめられる?」
ジュリアが悲しそうな顔をすると、ブックが慌て手を左右にふって弁解。
「いやいや、昔はそういうのひどかったけど、戦争のひどい時を知っている人じゃないと、あんまり気にしないと思うよ! むしろ物珍しさが先に立つ人が多いんじゃないかな? 魔族の商人を見る感覚と近いと思うよ。やっぱり見た目が違うからね」
アメリアも前に同じようなことを言っていたな。やっぱりここ10年くらいの平和で、人の見方も随分と変わってきているということか。
「まぁ、嫌だと思う人はどうしてもいるから、そういう人には近づかなければいいよ。その方がお互いにストレスがないからね」
おどけたような仕草でウィンクするブック。それを見てジュリアも笑う。
ジュリアのパーティー入りの件といい、ブックってすげー合理的な考え方するよな。俺も見習おっと。
服屋に戻ってきて、ジュリアの服を受け取る。
「わぁ!」動きやすいながらも可愛らしい、フードの付いたパーカーとショートパンツに羽を隠すためのマント。
愛らしさは伝説上のエルフみたいだな。エルフだけど。ちなみにフードは耳を隠す時用ね。
子供用にサイズを合わせてくれたベルトに腰守護を通して、ジュリアは嬉しそうにくるくる回っていた。
「そんじゃあ、そろそろこちらの仕事も手伝ってください」と、さっき言っていた奴隷商人の事情聴取のため兵舎へと向かう。
とは言っても捕まっている奴隷商人達が嘘をついていないか、発言の裏付けの確認程度とのこと。
兵舎に着くと、兵士たちが何やらざわついている。
「何かあったのか?」ブックが割って入っていくと、年長の兵士が助かったとばかりに「ブック様!」と呼び寄せる。
「実は、昨日捕縛していただいた奴隷商どもから、意外な人物の名前が挙がっていまして」
「意外な人物? 誰だ?」
「ハンベット卿です。ハンベット卿の指示で動いていたとピアスの男が」
ピアスの男はなんでも正直に話すから、昨日の女騎士だけは絶対に呼ばないで欲しいと、聞いてもいないことまでペラペラと喋ってくれたとのこと。ちょっとお灸が効き過ぎたかな?
そうして出てきたのが件の「ハンベット卿」なる貴族。ハンベット卿の指示で魔族領から子供をさらってきたと。
上手くいけば、今度は自国の子供を魔族領へ連れて行く算段だったそうだ。
「ってことは、今回拐われてきた子供達以外はまだ被害はないってことか?」
「いえ、証言後急ぎ調べたところ、実はアルルも含め近隣の町で子供の行方不明事件がいくつか、、、」
それならすぐにでもその、ハンベット卿とかいう貴族を拘束すればいいように思うが、相手は貴族。首都の上層部の命でもなければ相手にもされないという。
「しかし、向こうもそろそろ何かあったかと察し始める頃かもしれん。時間が経つほど子供達の身が危ない」
「はい、ですので、騎士様の権限でなんとか踏み込めませんか?」
「踏み込みたいのは山々だが、騎士団副長程度の肩書じゃあ劇的な変化は難しいな。。。」
下手に門前で騒いで警戒されれば、相手の疑念が確信に変わる。
そうなれば証拠隠滅や逃走の時間を与えかねない。
やはり一度首都へ誰か走らせるか、いやそれでは時間がかかりすぎる。
厳しい表情で喧々諤々の面々を見ていたアメリアが、すっと前に出る。
「あの、宜しいですか?」
「えっと、お嬢さんは確か昨日ブックさんと一緒にきた人か。すまないが見ての通り今は忙しいから、、、」
「ええ、ですので、要は相手が下手に逆らったらまずい権力をかざして踏み込めばいいのですよね? でしたら、あります」
「は?」
「ですので、首都の命令書級と言うか、それ以上の権力。ここに」
手のひらを横にして、すっとクロトへ。え? 俺?
「ああ、王証のことか!」クロトが手をポンと叩く。
「王証? 王証って、あの、、、」年配の兵が体をのけぞらせる。
ブックはもはや笑うしかないと言った感じで「マジであんたら、何者だよ」とお手上げのポーズをとった。
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ハンベット卿の館前。
おお、なんか悪さしてそうなデカさの館だな。先入観があっての見た感じだけど。
いかにもな鉄門の前には、私兵と思われるガタイのいい門番が2人。
クロト達や兵士が近寄ってくるのを見ると、「そこで止まれ!」と威嚇してくる。
「それじゃあ、予定通りで」アメリアがクロトと並んで、2人だけで門番に向かう。
話すのはクロト
「ハンベット卿が我がパーティ“エル・ポーロ”の縁者を拐かそうとした嫌疑がかかっている。卿に話を聞きたいのですぐに取り次いでもらいたい」
言いながら王証を出してみせる。
「ああん、誰だお前は? なんだその汚いものは? 貴様なぞ取り次げるわけなかろう。それよりもなんだあの兵は。誰の許可を得て集まっている」
下卑た笑いで答える門番。本当にこういうやつら、大体おんなじ笑い方してウケる。
「これはロッセンの王証だ。貴族の門番たる人間が王証を知らないとは言わせない。もう一度だけ言うぞ、とっとと主を連れてこい。犬」
瞬間、門番は無言でクロトに剣を振り下ろす。あっさりと止めて、腹に一撃。そのまま蹲る門番。
アメリアに「見たか?」と聞く。
「はい、ロッセン王国の王女、ロッセン=バルデ=アメリア。確かに当家の王証を掲げる者への敵意を確認しました。これよりファウザ国貴族、ハンベット卿はロッセンに弓を引いたものとみなします。私達と歩調を合わせたアルルの兵師団の皆様と協力し、ハンベット卿を確保いたしましょう」
アメリアが手を挙げると、ブックを先頭にアルルの兵士たちが門へ殺到してくる。
「なんだ貴様らは」もう一人の門番が慌てて剣を構えるが、クロトが身を低くして門番の片足を掴むと、回転させながら力任せに鉄門扉に投げつける。勢いよく開け放たれる門。なだれ込む兵達。
兵の後からやってきたシーラとジュリアが合流したのを確認すると、一度伸びをするクロト。
「さて、じゃあ、ちゃっちゃと片付けるぞ!」




