45)エル・ポーロ
拐われた子供達を乗せた馬車は、子供達にあまり負担をかけぬようにゆっくりと街道を進む。
アルルに着いたのは、もう街が眠りにつこうかという時間だった。
本来であれば街に入ることはできない時間だったが、ブックが事情を説明。
奴隷商達はそのまま牢屋に放り込んでおくとして、時間が時間なため、子供達は火急的措置として兵士の宿舎へ。
クロト達に関してはアメリアの正体を明かしてはいないが、流石に宿舎は芳しくないと判断したブックにより、騎士団御用達の宿に無理やり部屋を確保してくれた。
なお、ジュリアは亜人差別がないとは言い切れないことと、ジュリアがアメリアから離れようとしないため、ひとまずはクロト達と行動を共にすることになった。
「そんじゃ、自分は宿舎で詳しい事情を話さないといけないので、明日の昼頃にまた来ます。落ち合ったら入国手続きに行きましょう」
夜の街へと消えていくブック。大変だな。頑張れ。
夜分にも関わらず宿の主人が気を利かせて用意してくれた簡単なスープとパンで小腹を満たし、その日はすぐに眠りについた。
翌朝、食堂で朝食をとっていると、アメリア達が部屋から降りて来た。
ジュリアも昨日よりずいぶん落ち着いたようだ。
テーブルについて早々に、ジュリアが「昨日はありがとう」とぺこりと頭を下げる。
朝食を終えたら、ブックが来るまで午前中いっぱい時間がある。一旦部屋に集まり、ジュリアの事情を聞くことになった。
なお、午後は入国審査の後は「服屋に行きます!」とアメリアが高らかに宣言。
ボロボロだったジュリアの服を買いに行くのだそうだ。その娘のこと、ずいぶん気に入ったみたいだな。
念のため今は羽を隠すように、皮袋の中にあった大き目のマントを羽織らせている。
部屋に戻り改めてクロトから自己紹介。
「エドラック=クロトだ。クロトでいい。昨日も言ったが亜人だ。父方のじいちゃんが魔族でばあちゃんが人間。母方のばあちゃんが獣人でじいちゃんが人間だ。まあ色々あって世界を見て回るために旅をしている」
「ロッセン=バルデ=アメリアです。アメリアと呼んでください。ここだけのお話ですが、隣の国の王族です。内緒ですよ。クロトさんとご縁があって一緒に旅しています」
ビックリまなこで「お姫様?」とジュリア。そりゃビックリするよな。
「モリエト=シーラ。ロッセンの騎士だ。アメリアの警護も兼ねて一緒に旅している」
「亜人のお兄さんに、お姫様に、お姫様を守る騎士様? すごい。本の中のお話みたいだね」
クロトはなるほどと頷く。
「そうか、あまり気にしていなかったが、言われてみれば改めて面白いパーティーだな。最も、物語のような大した事件は起きないぞ」
が、すかさず2人が突っ込む。
「物語だってもう少し自重してますよ?」
「ここまで事件しか起きていないが?」
おおう、マジで? だって俺、初めての旅だからこんなもんだと思うぞ。普通ですー、普通!
そんなやりとりをクスクスと笑いながら見ていたジュリア。
「ボクはジュリアンリリ。みんながジュリアって呼ぶから、ジュリア。お父さんが魔族のガルーダで、お母さんがエルフ」
ああ、だから空飛べるのかーと、クロトが感心しているとアメリアとシーラが驚いた表情でジュリアを見る。
「ジュリアちゃん、、、お母様がエルフというのは本当ですか?」
こくりと頷くジュリア。
「まさか、、、すごいな」シーラも心底驚いたと言った風。
すみません、ちょっと俺にも説明してもらえませんか。アメリアさん?
「エルフは、、、そうですね。人間・魔族・獣人のいずれにも属さない、精霊種と呼ばれる種族で、表に出ることはほとんどなく、幻と言って過言ではありません。どこに住んでいるかも分かっていませんし、そもそもエルフの住まう地には近づくことさえ叶わないという伝説もあります。ジュリアは亜人とはいえエルフに類する方、初めて見ました。それこそ物語の中にしか登場しないような存在ですよ」
「そうなの? ボクがいたエルフの村なら西の大きな森の中にあるよ」
「西の大きな森? ああ、ハナムとファウザの緩衝地帯の森か。クロトが最初に行こうとしていたキロル鉱山の南に広がる大森林だな」
シーラが補足説明してくれる。ジュリア、後で場所を俺の地図に書き込んでくれないかな。頼んでみよっと。
「あ、でも帰れないってことは、何かあったんですか?」
途端にシュンとしてしまうジュリア。
「実は、お母さんがいる北の島に行きたいんだ。面倒を見てくれていた村長さんが、息子さんに変わって、もうここに亜人は置いておけないって、、、」
「お母さん、一緒に住んでないの?」眉根を寄せるアメリア。
「うん。もともと亜人はエルフの里にいちゃいけないんだ。というか、エルフの亜人なんてほとんど前例がないらしくて。それで、最初は北の島にお母さんと一緒にいたんだけど、お前は居てはいけないから追い出せって。。。本当はお母さんと里を出るつもりだったんだけど、でも、お母さんは特別な巫女だったから、他のエルフたちに捕まえられて。ボクの生活を保証する代わりに、巫女を続けるようにって。ただし、歴史あるエルフの里にはおけないから、南の森にあるエルフの村で暮らすようにって送られたんだ」
なんだそれ胸糞悪いな。ダメじゃんエルフ。ダメエルフだ。
「それじゃあ、北の島のそのエルフの里に行っても追い出されるのがオチなんじゃないか?」シーラの目が鋭い。怒ってるな。
「うん、、でもとにかく一度お母さんに会えたらなって思って。でも小さい頃に連れてこられたから、道もよくわからなくて迷っていたら捕まっちゃって」
アメリアが俺をじっと見ている。うん、分かってる。俺も聞こうと思ってた。
「あのさ、ジュリア。良かったら俺たちと一緒にいかないか? ちょっとファウザでやることあるから、すぐにとはいかないが、元々諸島連合も立ち寄る予定だったんだ。それなら道中も多分安全だし、旅費なんかも心配しなくていいからな」
「ええ、それに、、、もしもエルフの里で揉めるようでしたら、ロッセンで暮らしましょう。大丈夫。そのくらいなんとでもなります。私これでも姫ですので」
アメリアがえっへんと胸を張る。
そんなクロトとアメリアを交互に見やり、困惑するジュリア。
「でも、、ボク、特に何にもあげられないけど、、、」
シーラがジュリアの肩を優しく叩く
「何にもいらないさ。なにせアメリアは姫だぞ? だいたい持ってる」
再びアメリアがえっへんと胸を張る。
「本当に、いいの?」それでも不安そうなジュリア。
「もちろんだ。ただし、さっき言ったみたいにエルフの里に行くまで、ちょっと時間かかるかもしれないぞ」
「それはいいの。本当は行くの、ちょっと怖かったから。気持ちの整理がついてから、ずっと後でもいい」
少しずつジュリアの表情が和らぐ。
「そうか、なら、こういう時は何ていうのかな? パーティにようこそで、いいのか?」
「そうか、こういう時締まらないから、パーティ名とかあった方がいいかもしれんな。ムジュアの”新緑商団”みたいな」とはシーラ。
いいこと思いついた、というアメリアが
「それじゃあ、こうしましょう。さっきジュリアが何も出せないって言ってましたが、私たちのパーティー名を決めてもらいましょう!」
「ええっ! ボクが!?」
「なんでもいいぞ。素敵なやつなら」シーラが笑いながらプレッシャーをかける。
しばらくウンウンと唸っていたジュリアだったが、ふと
「エル・ポーロ」と呟いた。
「どういう意味です?」アメリアが小首をかしげる。
「お母さんから昔聞いた言葉。古い言葉で”導く者”とか、”導かれた人”だったと思う」
へぇ。なんか随分大層な名前だけど。いいじゃん。クロトはこほん、と手を口にやってから、両手を広げる。
「それじゃあ改めて、”エル・ポーロ”へようこそ!」
その日一番のジュリアの笑顔が弾けた。




