44)ジュリアという少女
保護したのは小柄な女の子だった。特徴的なのは尖った耳と、ワシのような羽。魔族か?
「怪我の様子、どうだ?」
「怪我はヒールで全く問題ありませんが、先ほど落ちてきた段階で気絶していたみたいです、起きるまでそっとしておいてあげましょう」
アメリアは皮袋の中から敷物を出して子供を寝かせる。
明らかに袋に見合わない大きな敷物が出てきてブックが驚いていたが、説明も面倒なので宝具だとだけ言っておいた。
「全員縛り終わった! クロト、最初にぶっ飛ばしたやつ、飛ばしすぎだ。変なところに引っかかっていて見つけづらかったぞ!」シーラが全員を引きずりながらやってくる。
クロトは軽く手をあげて謝罪。
「さて、どうするか?」ヒゲモジャとスキンヘッドは白目を剝いている。パーマは痛みでギャーギャー騒いでるし、話を聞けそうなのは、、、ピアスか。
「素直に聞いたことに答えたら、足、治してやるが?」
クロトがピアスの前にしゃがみ言うが、ピアスは目を合わそうともしない。するとシーラが、「こう言う時は、先に心を折っといたほうがいい」といい、ピアス男の前に立った。
そうしてアメリアを呼び、ピアスの足にヒール。みるみる治っていくピアスの足。
ピアス自身も訝しげにシーラとアメリアを交互に見る。
「アメリア、だいたいで大丈夫だ。どうせ、、、」治したばかりの足に、鞘に入れた剣を振り下ろす。ベキっと嫌な音がし、声にならない悲鳴をあげるピアス。
だが、シーラは顔色一つ変えずにアメリアに再度の治療を促す。繰り返すこと5度目。
「もっ、もうやめてくれ! 話す! なんでも話す!」
ついに音を上げるピアス。しかし、「嘘をつかないと言う保証は?」と聞き、一瞬の逡巡があったのを見ると、即座に膝破壊。
さらに3回の膝の破壊と再生を経て、ついにピアスが泣き出した。
「もう、許して、、、許してください、、、嘘つきません、、、許して、、、、」
そこで初めて手を止めて、「さ、聞きたいことを聞くといい」と、まぁまぁいい笑顔で振り返るシーラ。
「俺、絶対にシーラ、、、シーラさんには逆らわないようにしよう」とブックドン引き。
アメリアは見慣れているのかと聞けば、「実際に尋問を見る機会はあまりありませんが、必要なことですので」と涼しい顔。そうですか。強えな、王族。
ところで、横でギャーギャー騒いでいたパーマはその”ごうも”、、、もとい”尋問”を見て失禁して失神していた。静かになって大変良い。
と言うわけで結構かわいそうなピアスくんの話を要約。
なお、一応最後は膝をちゃんと治してあげていた。もちろん縛ったまま衛兵に突き出すけど。
こいつらは闇奴隷商で、この娘は商品の一人だった。空を飛べる珍しい種だったので、今回の取引の目玉にするつもりだったが休憩中に隙をついて逃げられたので必死に追いかけていたところを俺たちに出くわしたとのこと。
ちなみに奴隷商は、30年以上前の戦争が激化していた頃はなし崩し的に跋扈していたが、現在はどの種族、国においても禁止されている。
クロトは質問を続ける「それじゃあ、まだ捕まっている子供達がいるのか?」
「あ、ああ、向こうの森の奥、小さな泉がある場所で仲間が待っているはずだ」
「仲間は何人だ?」
「逃げた3人と、、、あと見張りの2人」
「逃げた奴が見張りに伝えて、移動を始めているかもしれん。急ぎ追おう」
クロトが馬に乗ろうとすると、ブックが「ちょっといいっすか」と手をあげる。
「その、残党ども、自分が追いかけますよ。土地勘あるから、泉の場所も大体分かるし、逃げる方向も予想がつくんで」
「私かクロトも同行しようか?」シーラが問う。
「いやー、流石に自分の国の犯罪者ですから、まぁ、一応自分も騎士なんでちょろっと行ってきますよ」
と、あっという間に駆け去って行った。
「大丈夫でしょうか?」眠る少女に膝枕してあげながら、ブックの走って行った方を見つめるアメリア。
「まぁ、パールも実力は確かと言っていたし、こいつらの実力を見る限り、あの雰囲気だと多分余裕じゃないか」
「ああ、腕は立ちそうだし、万が一奴隷商どもがこちらに逃げてきた場合に、対応できるようにしておいたほうが効率が良さそうだ」
2人がブックのフォローをすると、「そうですか」とおとなしく引き下がる。
チーピピピと、森から一羽の小鳥が飛んだ。シーラがそれを眺めながら腕を組む。
「ふむ。ブックに任せると決めた以上、今特にやれることはないな。紅茶でも淹れよう」
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「任せろとは言いましたが、、、随分とリラックスしてやがりますね」
1時間ほど経ったのち、ブックが馬車を手繰りながら戻ってきた。
中には捕まっていた子供達と、殺さない程度に痛めつけて縛ってある奴隷商。
ブック曰く「状況をちゃんと把握できずワタワタしてまだ泉の近くにいたので、探す手間もなく楽勝」だったとのこと。
こちらで捕えた奴隷商も馬車にぶち込んでおく。もちろん子供達が怯えないように簀巻きにして端に積み上げてある。
とりあえず予定通り、アルルに向かい、子供達の保護と奴隷商の引き渡しを行おうと言う話でまとまった頃、アメリアの膝で寝ていた少女が目を醒ます。
「、、、ここは?」
「心配はいらない。君たちを追っていた者たちは全て倒した」シーラが手を握りながら伝える。
状況を思い出し、ハッとしたように起き上がる少女。
「他にも捕まっている子供がいるの!」
シーラが優しく頭を撫でながら「大丈夫だ。全員助けた」と、馬車を指差すとようやく安堵の色を見せた。
まじさっきまで奴隷商の膝をかち割り続けたのと同一人物とは思えんな。
羽のある少女はジュリアと名乗った。馬車の中にいるのは全て魔族領ハナムから拐われた子供達だそうだ。
ジュリアはハナムで拐われたわけではなく、旅先で道に迷っていたところ、案内すると騙されて捕まってしまったとのこと。
自分だけなら逃げることもできたが、残された子供のことを考え、助けを求められそうな都市に近づくまで待っていたそうだ。
そして、休憩中の奴隷商たちがアルルという街が近くにあると話していたため逃げたが、誤算だったのはアルルは目視ができる距離にはなく、方向もわからず逃げ回っていたところだったのだ。
「運が良かった。このままアルルで身元の確認だけさせてもらうけど、我々ファウザの騎士団が責任を持って故郷に送り返してあげるからね」
ブックが胸を叩くが、ジュリアの表情が曇る。
「ボクは魔族領の出身じゃないから、、、」
「へえ? 特に魔族領でなくても、故郷がわかれば問題ないよ?」首をかしげるブック。
ジュリアは首を振り下を向く。帰れない理由、、、ね。家出とかじゃあなさそうだし、そうするとちょっと心当たりがあるなぁ。
「あのさ、ジュリア。言いたくなかったら言わなくてもいいんだけど、ジュリアってもしかして亜人か?」
クロトが口にすると、びくりと体を震わせるジュリア。
「ああ、悪い。聞き方が悪かった。実は俺も亜人なんだわ。だから君に危害を加えることはない。安心してくれ」
大きな瞳をさらに大きく開いてクロトを見つめるジュリア。その眦には徐々に涙が溜まり始め、ついに頬を伝った。
「心細かったんだな。安心しろ。アメリアとシーラも亜人の差別とかしないから」
そっと近づいて抱きしめたアメリアの胸の中、ジュリアの泣き声だけがしばらく響くのだった。




