40)クロト、探索する
幼い頃のことだ。クロトの村では子供の背より高い麦の収穫時に、麦畑の迷路を作り、子供達を楽しませてくれた。
そのとき父から教わったものだ「迷路は右手を添えていれば、必ず出口にたどり着くよ」と。
今クロトたちは、最初に落ちてきたドーム状の部屋に戻ってきていた。3度目の到着である。
「パール、、、お前、、、もしかして方向音痴か?」
「はうっ」っと言いながら、膝から崩れ落ちるパール。
遺跡探索で先頭を買って出たのはパールだった。
遺跡の通路は人が3人ほど並んでも問題ない程度の幅があるが、安全確保のため前後に分かれて進む。
「一応我が国で見つかった遺跡だからな。客人を先に進ませるのは矜恃に反する」
と、颯爽と歩き出したのはよかったが、十字路で左に向かって何もない部屋を確認したと思えば、同じ十字路に戻って右へ。
おかしいなと首を傾げたと思えば、今度は同じ十字路で右の通路へ入って戻りは左折。
冗談かと思ったが、こいつ筋金入りの方向音痴だな。
「いや、まぁ人間誰しも、苦手なものはあるよ。。。」と慰め、今度はクロトが先を歩く。
先ほど覗いた2つの部屋は、落ちてきた祭壇のような場所と違い四角く簡素な作りだった。
広さもそれほどではない。
特徴的な所としては左の部屋は壁にベンチのようなせり出しがあり、何か待合室のような雰囲気があった。
右の部屋には特に何もなし。
ということで今度は、十字路をまっすぐ進む。
すると下層に降りる階段が現れた。
「本来なら上に進みたいところだが、どうする? 戻るか?」クロトが後ろに問いかける。
「いや、せっかくだ水の問題もあるし、このまま進んでみよう」
階段を慎重に進むと銀色の扉が見えた。
先ほどの2つの部屋に扉はなかった(風化した?)ので、何か特別な部屋なのか。
グッと扉を押し開くと、突然明るい空間が目に飛び込んでくる。
「これは? なぜここだけこんなに明るいのだ?」パールも部屋を覗いて目を丸くする。
部屋の中央には噴水があり、その真上に大きな水晶が逆さに張り付いている。
光の発生源はその水晶だ。
「他のところもこのくらい明るければ助かるのにな。それよりも水だ。飲めるかどうか」
噴水は勢いこそないものの、見た目澄んだ水がコンコンと湧き出ている。クロトは手にとって、匂いを確認してからペロリと舐めてみる。
「うん、大丈夫そうだ。よく冷えているし、地下水がそのまま湧き出ているみたいだな」
「どれ」とパールも同じように確認し「助かったな。これで多少脱出に時間がかかっても水は確保できた」と、予備の腰の皮袋に水を補給する。
喉を潤し、ついでに顔を洗う。
そうして改めて噴水の周囲を見渡す。噴水以外は特段目だったものはない。先にもう一つ扉があるのみ。
「しかし、この光っている水晶も不思議だが、この噴水も、、、最初の部屋の台座と同じ黒い石か? 古代の物のはずなのに、苔の一つも付いていない。ずっとここで澄んだ水を吐き出していたのだろうか」
しばし2人で遥か古代へ想いを馳せるが、あまりのんびりとしてもいられない。
「さて、水も確保できたし、今度は逆方向へ進んでみるか? それともその扉の先へ行ってみるか。どうする」
「せっかくここまで来たのだ。もう少しこの先の様子を見てみよう。あまり長いようなら戻ればいい。さぁ、行こう」
と、歩き出すパール。
おい、どこへ行く? そっちは今来た扉だぞ。
噴水の間の先の扉を開けると、その先は一本道だった。
ここの通路にも先ほどの水晶のような明かりはなかったので、やはりあの部屋が特殊なのだろう。
そうして歩くこと数分。再びの扉。パールと目配せをしてから扉を開ける。
中は真っ暗だったが、雰囲気からして明らかに広い空間であることが感じ取れる。
「とにかく暗くて何も見えんな。また壁沿いに照明があるだろう、まずはそこに、「バターン!」、、っ!?」
2人が足を踏み入れた寸間、扉が閉まり、手持ちの明かり以外は漆黒が部屋を包む。
急ぎパールが扉を押すが「開かん!」との声。
同時に何か部屋の中心で大きなものが蠢めき始めた。
ソレはこちらの気配に気づくと、ゆっくりと近づいて来ているように感じられた。
「はっ」反射的にパールが杖から火の玉を飛ばす、威力はさほどでもなかったが、ソレに着弾。体を照らす。
一瞬、ゴツゴツした岩で出来た人型の人形が浮かび上がった。
「ゴーレム!?」即座に戦闘体制に入る2人。
「パール、このままじゃ視界がなくてジリ貧だ! 俺が引きつけるから明かりを!」
「分かった!」
パールが駆け出す音を聞きながら「石くれ野郎! こっちだ!」と先ほど見えたあたりに向かって駆けようとした瞬間、右側に嫌な予感がして身を翻す。
その瞬間、ゴーレムの腕がクロトの脇をかすめた。
「うおっ。その見た目で早いのかよ!」
体制を立て直し、見えた腕めがけてぶん殴る。いい手応えを感じ、ゴーレムの腕が破壊される。
強度はそんなでもなさそうだ、一気に畳み掛けようとしたところで「くっ、しまった!」という声。
振り向くとパールが照明のそばに倒れている。
「しまった! 一匹じゃないのか!」
今度は最初にゴーレムを見かけた方からのパンチが飛ぶ。
つまり少なくとも3匹はいるということか!
2匹目のゴーレムを大体の予想でぶん殴り、手応えと音で遠くに転がって行ったのを確認してからパールの元へ駆け寄る。
パールの向こうから緩慢な動きで拳を振り上げる3匹目のゴーレム。
「ブースト!」足にブーストを掛け、そのままの勢いでゴーレムの腹の部分を殴る。
ゴーレムはバキバキバキという音を立て、中央からひび割れたのち、ボロボロに崩れ落ちた。
「パール、大丈夫か!?」
「すまん、油断した。一応避けたが足が、、、」
パールの足がおかしな方向に曲がっている。折れているのは間違いなさそうだ。
「ひとまず、向かっているゴーレムを片付けたら、扉を破壊してでも脱出する。幸いゴーレムの耐久力はそれほどでもなさそうだ、少し待ってろ!」
グッと拳に力を入れると、蒼月の手甲が淡く光った。
前回みたいに玉は持ってないぞ? なんでだ? と思ったら、手に持っていた照明具の炎が強くなっているような、、、、?
これ、また、爆発とかしないよな? 一か八か、やってみるか。
とりあえず自分たちに向けると危なそうなので、反対を向けて軽く振ってみる。
すると、「ボウン」という音とともに、照明具を向けた前方へ大きな炎が撒き散らされた。暗がりから近寄って来ていた四体のゴーレムが炎に包まれ、しばらくすると煙を吐きながら動かなくなった。
なお、照明具の先は弾け飛んでいた。
「おい、クロト殿、、、なんだ今のは、、、?」
さて、なんだろうね?
この隙にパールを抱え、入口へと走る。すると、先ほどまで硬く閉まっていた扉が開き、通路の光が見えている。
クロトは転がるようにゴーレムの部屋を出て、ようやく一息ついたのだった。




