32)そして、鐘は鳴った
「ゴーン、リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン」
「オベリアの鐘が、鳴っている、、、、、」
徐々にアーミーアントが迫ってくるが、多くの兵士達は時計塔を見つめていた。
すると砦の中から、先ほどのアメリアの演説に負けぬほどの歓声が上がる。
「今度は何だ、、、?」
ふと、前方から馬群の足音が聞こえてきた。
アーミーアントの左右から騎馬隊が現れ、瞬く間に群れへと攻めかかっていく。
「援、、、、軍、、、、?」
「援軍だ、、、援軍が来た、援軍が来たぞ! 助かった! 助かったんだ!」
今まで戦っていた兵士、騎士達が口々に叫ぶ。
そうこうしているうちに、砦内からも多数の騎兵が駆け出してくる。砦の後方にある地域からの援軍が、最短距離で砦内を駆け抜けてきたのだ。
先頭に立っている騎士が声を張る「オベリアの勇者達よ! よく戦った! あとは任せるがいい! この後歩兵も続いてくる! もう大丈夫だ! 皆は下がって英気を養うが良い!」
言うなり、止まる事なくアーミーアントの群れに突撃していく。
こちらからはガーヴォが大声で返す。
「奴らの弱点はおそらく火じゃ! 上手く使えば分断、各個撃破できるはずじゃ!」
先頭の騎士に続いていた騎士の一人が「承った!」と駆け抜けながら応えていった。
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援軍を見届けたガーヴォ達は、急ぎ作戦本部となっている館まで戻ってきている。
クロトやシーラも一緒だが、「あとは休み休みやるっす」と言ってパオロは前線に残った。
ガーヴォは山場は越えたとみて、後方で指揮をとっていたライズと交代し、火を使ってアーミーアントを分断するため、燃料を準備させたり、火属性の法術師を中心としたグループ分けなどを矢継ぎ早に指示。
今度はライズを中心に援軍と合流して、アーミーアントの駆除に当たってゆく。
塀の上から状況を観測していた兵によるとアーミーアントの数は当初の3分の1以下になっているそうで、まだ続々と集まる援軍を考えれば、もはや駆除は時間の問題と言えそうだ。
「クロトさん! シーラ!」ドレス姿のアメリアが2人に飛び込んでくる。
「心配しました! 無事でよかった!」
「アメリアのおかげで、何とか助かったよ」とお互いの無事を喜ぶ。
「あの鐘もアメリアが?」時計塔を窓から見つめながらシーラが聞いた。
「ええ。外の状況がわかりにくかったので、とにかく戦闘中でも皆さんに援軍の到着がわかるように、援軍が来たら鐘を鳴らしてくださいとライズ将軍にお願いしていたのです」
「いや、格好良かったよ、姫さんは」アメリアと同行していたと言うムジュアが茶化す。
「アメリア、ムジュアには正体を?」シーラの問いにこくりと頷く。「着付けとか色々手伝ってもらいました」と、ムジュアを見る。
ムジュアは「いや、いい経験をさせてもらったよ」とだけ言った。
「そういえばバブとカブはこっちには来ずに、商団の仲間と合流するって言ってたぞ」
「そうかい。あいつらも少しは役に立ったかい?」すると一通り指示を終えたガーヴォが参加してくる。
「ほう、お主はあのオークの兄弟の仲間か! 奴らは素晴らしかったぞ! 今回の戦いの殊勲の一人じゃ!」
ガーヴォを見たムジュアは居住まいを正す。
「これは、オベリアの砦の守護騎士であらせられるガーヴォ将軍ですね。お初にお目にかかります。私は新緑商団の団長、ムジュアと申します。以後お見知り置きください。また、この度の奇禍、私どもの団員がわずかばかりでもお力になれたのでしたら光栄です」
胸に手を当て、堂に入った所作で礼をするムジュア。
「よいよい、アメリア姫が世話になったようじゃし、オーク兄弟の仲間なら戦友みたいなものじゃ。そういうかたっ苦しいのは無しで良い。すぐにとはいかんが、落ち着いたら貴殿らにはお礼の席を設けたい。良ければ受けてくれ」
「もったいなきお言葉。喜んでお受けいたします」
おお。何だか大人の会話だな。と感心して見ているクロトの服を引っ張るものがいる、アメリアだ。
「あの、、、クロトさん。これ、、どうですか」と、ドレスを広げてみせる。
「ああ、似合っている。とても可愛らしいぞ」ここで茶化すほどクロトも野暮ではない。実際白いドレスはアメリアにとても似合っていた。そういえば姫様だったなと思い直す。
「そうですか」と嬉しそうに微笑むアメリア。
そんなやりとりを微笑ましく見つめるシーラ。
ムジュアと話していたガーヴォがアメリアに声をかける。
「そうじゃ、姫よ、勝利の宣言の際は一緒に立ち会ってもらうという事で良いな?」
「はい。先ほどの流れで同席しないわけにはいきませんので。そのために着替えずにいましたから」
「ふむ。では頼むぞ」
そうして、勝利宣言の流れなどを打ち合わせていると、風に乗って三度の歓声が聞こえてきた。
「勝ったか」普段豪快で騒がしいガーヴォが、低く静かに口にした。
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時計塔の前の広場には、多くの騎士、兵士、傭兵、商人、住民らが集まっている。
広場を見渡せる建物のせり出しのバルコニーに、ガーヴォとドレス姿のアメリアが並ぶと、喜びの声が上がる。
クロトたちはバルコニーの奥の部屋でその声を聞いていた。
声が落ち着くのを待ってガーヴォが喋り出す。
「知っての通り、今日、オベリアは想像を超える災害に見舞われた! かのアーミーアントの群れの襲来である! かつてアーミーアントに襲われた街は、軒並み破壊され、甚大な被害が出たと語り伝えられている! だが見るが良い! このオベリアは一つの破壊も、一つの命も失う事なく、悪夢を退けた! これは奇跡である! 皆の隣にいる、悪夢に抗い打ち破ってみせた勇者たちを讃えよ! この勝利は全ての勇者たちの勝利だ! オベリアに、ロッセン王国に栄光あれ!!」
もはや本日何度目かわからない歓声が広場を包み、それぞれ隣にいた兵や傭兵たちと抱き合ったり、握手したり健闘を称えあった。
再び広場が落ち着くのを待って、今度はアメリアが一歩前に出た。
「ロッセン=バルデ=アメリアです。ガーヴォ将軍のおっしゃる通り、此度の勝利は未曾有の災害に勇敢に挑んだ全ての方が掴み取った勝利です。私はオベリアの皆様のことを誇りに思います。私だけではありません、アーミーアントの襲撃を受け、これほど軽微な損害で済んだことは過去に例を見ません。この奇跡、長く歴史に刻まれることになるでしょう。あなた方全てが、この国の新しい歴史を刻んだのです! ロッセン王に代わり、ここにお礼を申し上げます!」
深々と頭を下げるアメリアを見て、「恐れ多い!」「アメリア様の演説で戦えました!」などの声が上がり、中には涙を流す者も少なくなかった。
そして再び鐘が鳴る「リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン」、広場の喧騒が収まるまで、人々の耳にはずっとずうっと鐘の余韻が残っていた。
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こうしてアーミーアントの騒動は幕を下ろした。
翌朝、アメリアが「どうしてこうなった、、、」と一人頭を抱え、うずくまった以外は。
そんなアメリアの横に置いてある新聞の見出しには『アメリア姫と奇跡の鐘』の文字が躍っていた。
ロッセン王国編はここまで。




