31)暴発
砦内から戦線に復帰してくれた兵が増えたことで、ガーヴォ達主力メンバーも交代で前線から下がる余裕ができた。
さらに、ガーヴォの指示で場外でも多少の休息ができるように、シーラが断続的に広範囲の防御壁の法術を発動させスペースを確保する。
シーラが剣を下げた時が防御壁解除の合図で、休息する兵や怪我人はそのタイミングで内側へ入る。
広範囲になる分強度は下がるし、取りこぼしたアーミーアントが防御壁の中に入ることもあるが、1〜2匹であれば問題なく駆逐できた。
現在はガーヴォと副官ら数名が防御陣の内側で、僅かばかりの休息を得ているはずだ。
クロトは先ほどからパオロと近い場所でアリの駆除を行なっていた。
「パオロは休憩しなくて大丈夫か!?」
するとパオロは大げさに首をふり
「いやーカツカツっすよ。でも、ここは年配の方に先に休んでもらわないとっす」
ガーヴォが聞いたら、またしごかれそうな軽口を叩く。もっとも、表情はこわばっているので限界が近いのだろう。
かく言うクロトもかれこれ4時間近く戦いっぱなしである。正直キツイ。
するといいタイミングで背後から声がかかる「お前らも一旦休憩しろ! ここは俺たちが!」と、兵達が前に割り込んできた。
「すまない! 頼む!」素早く後方へ下がるクロトとパオロ。
シーラの剣が下がるのを待って、防御壁内に滑り込んだ。
どうやらガーヴォは前線に復帰したらしい。代わりにバブとカブのオーク兄弟の姿があった。
「バブ、カブ。お疲れ。怪我はないか」手をあげ声をかける。
「大丈夫ダ。しかし、数が多いナ」アリの群れを眺め、干し肉をかじりながら言った。
クロトたちも腰に縛り付けた皮袋から、干し肉と蜂蜜をたっぷり染み込ませた焼き菓子を取り出し、頬張る。干し肉からは通常であれば塩辛いと感じる塩味を。焼き菓子からはびっくりするほどの甘みを感じるが、汗を流し、疲労の残る体に染み込むのが分かる。
急ぎながらもしっかりと噛んで飲み込み、同じく腰に縛っておいた皮の水筒の水を豪快に飲み干す。休憩スペースには前線の兵をフォローするための人間も走り回っており、クロト達が水を飲み干すのを目ざとく見つけた一人が、新しい皮水筒を持ってきて、飲み干したものを回収していってくれた。
ようやく一息ついて大きく息を吐いていると、隣でオーク兄弟と喋っていたパオロがふと、クロトの腰の目をやった。
「あれ、その腰袋、なんっすか? 携帯食多めに持ってきたんっすか?」
「あ、忘れてた。これ、昨日マナを集める練習したときの玉だ。昨日手の空いている時に、ちょこちょこマナを集める練習していたんだが、シーラに渡したら防御法術を展開する助けになったりするかと、一応持ってきたんだった。せっかくだから今のうちにシーラに渡しとくか」
皮袋から取り出したのは昨日同様に真っ黒になった玉。
すると玉を手においた途端、蒼月の手甲が光り出す。
「うおっ、なんだこれ!?」クロトが驚いていると、それを見てみるみる引きつった笑いになるパオロ。
「それ、、、膨らんできてますよ、、、やばくないっすか、、、」と。
禍々しい色で膨らんでいく玉。法術に詳しくないクロトでも、本能的にヤバイとわかる!
「シーラ、防御壁はずせ! 早く!」ちょうどいいタイミングでシーラが剣を下ろすところだった。
「うおおおおおっっっっっ」
防御壁が解かれた瞬間、クロトは膨らみ続ける玉を、アーミーアントの群れへ思い切りぶん投げる!
前線の兵士達を飛び越え、アーミーアントの群れの3分の1辺りまで飛んだ玉は、空中でカッと輝くと
ドゴゴゴオオオオオオオオオオオオオオオオオooonnnnnn!!!!!!!!!!!
凄まじい音と共に爆発した。
真っ赤な炎が弾け飛び、アーミーアントの頭上へ降り注ぐ。さらに向かい風に乗り、群れの後方まで広く炎が広がってゆく。
爆風で吹き飛んだ個体はもちろん、炎の雨を喰らったアーミーアントはしばしのたうった後、動かなくなった。
誰もが予期しなかった爆発は、一瞬とはいえ防衛側のみならずアリ側の動きをも止めるほどだった。
あのガーヴォですら、何か起こったか分からずぽかんとしている。
何が起きたのか多少なりとも理解しているオーク兄弟は齧っていた干し肉を落とし、隣のパオロは「えぐっ」とつぶやいた。
思わぬアクシンデントが状況を防衛側に大きく傾かせる。燻っている炎にアーミーアントが進めず足踏みしているのだ。
結果的にアーミーアントの群れは前後に分断された形となり、兵士たちは活気づく。
「ちょっと、後でマジで説明してもらいますよ!」
パオロに何を聞かれても「いや、俺にもわからん」としか言いようのないクロトも休憩を終えて前線へと復帰。
その後しばらく戦っていると、手前に取り残されたアーミーアントが見るからに減ってきた。
「見えているやつらを一気に叩き潰せ!」ガーヴォが指示を飛ばす。
数的優位がなければアリは人の敵ではなかった。あっという間に見渡す範囲で動いているアーミーアントはいなくなった。
まだ、火の向こうに多くの群れが残っているとはいえ、全員が一旦一息つき、態勢を立て直すことができる。
ほんの僅かな平穏に、それぞれが肩の力を抜く。
「クロト!」声の方を見るとシーラが走ってくる。
心配してくれたのかと思いきや、「さっきのは何だ!? また、なんかやらかしたのか!」って酷くない?
ほら、パオロくんが「“また”って、やっぱり、、」って引いてるじゃん!
さっきのは俺のせいじゃないよ! 多分、、、、、多分。うん、きっと。
「いや、マジでわからん。俺が聞きたいくらいだ!」とシーラに弁明していると、「来るぞ!」という声がどこからか上がった。
火の勢いが弱まり、徐々にアーミーアントが進軍を再開したようだ。
全員がもう一度気を引き締めて、この終わりのない戦いに挑まんとしたその瞬間。
「ゴーン、リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン、リンゴーン」
時計塔の鐘が鳴った。




