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178)太陽の王(前編)

マルメの国境で魔王軍と合流する予定だったクート達は、急遽マルメの国境を離れ、フォニアの背に乗り、エルトラ国内の上空にあった。


同行しているのはザーバルにクィッチ。それにフォニアの側近ジレンとグリルの5名。


クートは必死にフォニアの背にしがみ付いてエルトラのとある街を目指していた。


エル・ポーロが一緒だった時はシーラがシールドで風から守ってくれていたので比較的快適だったが、現在はひたすら飛ばされないように耐えながら空を切り裂いて進んでいる。


それでもザーバルが隣でクートの身体をがっしりと抱きしめてくれているだけで、クートは弱音を吐く事もなく黙って耐えきることができていた。目的の街、サランシアまでは後少しである。





なぜか。きっかけはクィッチだ。


当初は予定通り、フォニアの背に乗り魔族軍と合流。そこからエルトラへ進軍する方向で進められていた。


しかし、マルメ南部に集まりつつあった魔族軍ではあるが、進行速度の遅い兵などは未だファウザ国境あたりを通行したばかりとのこと。全軍揃っての出陣には急いでももう1日2日はかかりそうな状況ということが判明。


少々弛緩した雰囲気の魔族軍の中を、クィッチがコムタ達を見なかったかと聞いて回る。


すると意外な人物から情報が届けられた。


新緑商団のアモンドである。


ムジュアを追って部隊に先行するような形で国境付近に到着していた新緑商団が野営の準備をしていると、人当たりは柔らかいが経験上明らかにカタギではない獣人のグループに声をかけられたという。


その獣人達はアモンドが商人であると見た上で、地図を見せて欲しいと声をかけてきたのだ。


当然警戒はしたものの、コムタ達の切実そうな雰囲気と、何より借り賃は払うというので、商売人として地図を貸した。


コムタ達は膝付き合わせて何やら相談していたが、話がまとまると、アモンドへ礼と借り賃を残してエルトラの国境へと向かっていったそうだ。



ところで、アモンドは商人である。


自身の職業に忠実であり、商機の可能性があれば見逃すことのないように常にアンテナを張っている。


つまり、有り体に言えばアモンドは少しはなれた場所に居ながら、コムタ達の会話を盗み聞きしていたのである。その結果耳にしたのがサランシアという街の名であった。


アモンドがこれらの情報をクィッチに教えた理由は単純。クィッチの背後に魔王フォニアが立っていたからだ。


有力な情報を得たクィッチは、その街の情報を得るためクートの元へと走っていった。



それを見送ったフォニアとアモンド。しばしの沈黙ののち、フォニアが口を開く。


「商人、、、、のう」


声をかけられたアモンドは相手が魔王というのに臆するでもなく無視する。


「アモンド、お主”アレ”をムジュアに預けおったろ? 申し開きはあるかの?」



そのように聞かれて初めてピクリと眉を動かすアモンドは、小さくため息をついて反論する。


「軍部に所属していない彼女に”アレ”を貸与したことに関しては謝罪いたしますが、、、私の判断は間違っておりましたか?」


今度はフォニアがため息をつく番だ


「ソレンソと言い、出来すぎる部下というのも考えものじゃのぅ。。。」


「ソレンソ様が何か?」


初めて表情が変わったアモンドに、フォニアが畳み掛ける。


「なんじゃ、知らんのか。お主が共に旅したエル・ポーロのジュリアは、ソレンソの娘ぞ」


そこで思わず「まさか!?」と声を出すアモンドを見て、フォニアは愉快そうに笑うのだった。



クィッチがクートに聞いてきたサランシアとは、エルトラの海岸線の中でも最も西にある街である。


エルトラ国内では比較的南からの乾いた風にさらされる事もなく、逆にマルメとの国境にそびえ立つ山脈から冷たい風が降りてくるので、暑いエルトラの夏においては避暑地として非常に人気の高い街だ。


人が集まれば金が流れてくる。


サランシアは年を追うごとに拡充を続け、近年では「エルトラ第三の都市」と呼ばれるほどの繁栄を見せている。


国内を支えるのが他国への資源の輸出であるこの国において、避暑地がここまで幅をきかせるというのは、ひいては国、そして民に余裕が出てきたということにほかならず、この街の繁栄はそのままエルトラの繁栄を象徴しているといっても過言ではなかった。


クィッチは、コムタが闇雲にこの街を目的地にしたとは考えられないので、この街には何か有るのではないかと、街の特徴をクートに聞きたかっただけだ。


だが、クートにとってはこれは衝撃的な質問だった。

首都が襲われた際に西の退路は断たれており、首都脱出以降は怒涛の日々だったがゆえに思い至らなかったが、あるいはサランシアにはまだ民が生き残っていてくれているのかもしれないという考えに初めて至ったのだ。


クートに寄り添っていたザーバルも同様で、己の不明を恥じるようにクートに静かに頭を下げる。



暫定的とは言え、クートは王だ。


自国の民が塗炭の苦しみの中残っているのであれば、それは救わねばならない。


救えぬようであれば、自分に王の資格はない。まだ子供と言っても良い若き王は盲目的に、そのように考えた。


それは若き王にだけ許された美徳であり、同時に暴挙でもある。


クートはザーバルに言った。


「サランシアに向かう。我が民が未だそこにいるのなら、ワシは行く」


王がその様に宣言するのであれば、ザーバルはただ、付き従うだけだ。


「私も一緒に行きますぅ! 連れて行ってください!」


コムタとの合流を目指すクィッチを連れ、サランシアへ向かう旨フォニアに伝えに向かうと、少々考えたフォニアから帰ってきた答えは意外なものだった。



「妾も行こう。というか、妾が連れて行こう」


しかし、フォニアは魔王であり、魔王軍を率いる立場で有ることは、クート達も十分にわかっているので、気持ちだけいただいて断ったのだが、フォニアは頑として譲らなかった。


「理由は幾つか有るが、まず、全ての軍が集まるまでの時間で、街の上空から様子を見ることができる。生き残りがいるのであれば妾達にとっても戦力の増強になるからの、その時はクート達が率いるがよい。もし、、、手遅れであればそのまま戻ってくる。特にクートは我が甥や、、、、、或いは我が部下にとっても大切な御仁であるかもしれんからの。それと、我が軍は優秀じゃ。指示さえ出しておけば妾がおらずとも軍は動く」


部下の大切な御仁の意味はクートには良く分からなかったが、その様に言ってくれるならと、好意を甘んじて受け入れることとした。





そうして今、フォニアの背に乗り上空にいる。



徐々に近づいて来るサランシアは、今まさに交戦中であることが見て取れた。


それを見てクートは少しほっと息をつく。交戦中であるということは、まだ民が生き残っていると言うことだ。







フォニアは翼を大きくはためかせ、サランシアの街中へと速度を速めて行くのだった。








いつも読んでいただき有難うございます。

実は本作で初めてクロト達が一切登場しない一話となりました。


一応自分の中で、一行もエル・ポーロが出ない話は完結後に外伝として掲載するつもりだったのですが、話の流れとはいえ、クートには少々可哀想なことをしてしまったので、ここで活躍の場を授けたいと思った次第です。


何も考えずに前編としましたが、本話を書いた現時点では、次回どうなるのか正直作者も分かっておりません。

179話の結果をご覧いただければ幸いでございます。

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