170)円卓の王達
ファウザ王と共にやってきたのは、まさかのエルトラの戦士、ザーバルだった。
「ザーバル!? どうやってここまで!?」
思わず出た大きな声を聞きつけたクートが、エル・ポーロ達の控室からひょっこりと顔を出し、驚きの表情で駆けて来る。
慌てて走ったため、途中で躓き転がりそうになるところをザーバルが抱き寄せる。
すると、そのままクートは大声をあげて泣き出した。
ザーバルは黙ってクートを抱きしめたまま、クロト達に目配せ。アメリアが空いている部屋に案内するように執事に声をかけて、クートを抱きながら立ち去って行った。
「ファウザ王、説明してくれるか?」そこでようやくファウザ王を見たクロト達。
「うむ。実はな、我らは他国よりかなり早い段階で出発の準備を済ませていたのだ。具体的には、クロト達がファウザの山裾で眠った翌日にはな」と言ってニヤリと笑う。
「あ、もしかしてソレンソか?」
クロトがすぐにピンと来ると、フォウザ王は「なんだつまらん」と鼻白んでから認める。
「あの魔王の”使者”は、エルトラの状況と来るべき円卓会議の可能性を伝えて来おった。我々が把握しているよりもずっと詳細で驚いたが、お陰で早く動くことができた。連合が成れば、ファウザの”持ち場”はエルトラであろうからな。ちょっとイエロードラゴンで様子を見に行って来たのだ」
「ハイネ様自らですか!?」
アメリアが驚いた声を上げる
「おいおい、アメリアよ。私はこれでもかつての魔族との戦争で前線にも立っていたのだぞ。偵察などわけ無いわ」
「あ、すみません。少し意外だったもので、、、」
「まあ良い。それでな、イエロードラゴンで海からエルトラを見に行ったのだが、そこで、軍船に追われている船団を見つけたのだ」
「ザーバルとコムタ達か、、、」
「ああ、あの獣人達も知り合いか。追っている軍船は3隻と少なかったので我らの部隊で蹴散らした。その後安否確認のために先頭の船に降り立ったところ、あの者が乗っていた。もう船団は逃げ切れたと判断したのであろう。「私をマルメまで連れて行ってくれ!」と懇願して来たのだ。話を聞けば、音に聞くエルトラの勇将ザーバル殿であったので、一緒に連れて来たと言うわけよ」
「、、、、なんか、ありがとな」
「クロトに礼を言われる話では無いが?」
「いや、ザーバルもさっき出て来たクートも友達だからさ、クートは小さいのにずっと無理して頑張っていたし。ザーバルがきてくれたら凄く心強いと思うんだ。だから、ありがとう」
そんな風に言葉にするクロトをファウザ王ハイネは興味深そうに見つめ、しばしの沈黙の後、
「ふむ。クロトは良い旅をしてきたようだな。これなら、、、、」
「?」
「いや、なんでも無い。まぁ、そのような背景があったのであれば、無理して連れてきてよかったわ」
と、アメリアがそこで会話に割って入る。
「あの、ザーバルさん以外の皆様も無事でしたか?」
「ああ、無論だ。まだ集合時期までは時間があったからな、安全圏までしっかり送り届けてきた」
それを聞いてアメリアもほっと胸をなでおろす。
「さ、ずいぶん寄り道してしまったからな、入口で聞いたが、我々が最後なのだろう? 他の王達をこれ以上待たせるのも悪い。さあ、始めようではないか、有史以来初となる、全ての王権が集う円卓会議を!!」
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丸い卓に着くそれぞれの顔ぶれを見れば、今ここに世界が集約されていると言って過言ではなかった。
全員が席に着くと、先鞭を打つのはフォニア。
「さて、会議の前に謝辞を伝えさせていただこう。妾はハナムが王、フォニアである。火急の事態とはいえ此度は我が魔族の軍が各国を通過することを許可してもらったことに感謝を申し上げる」
そのように述べると、マルメの皇女イグナシアが立ち上がり言葉を返す。
「いえ、むしろ今回の騒動で最も遠方にあるハナムからも援軍を出していただいたことに、こちらこそ感謝を」
それに同意するように頷く各国の王を見て、フォニアは目礼をして席に座る。
そのまま立っていたイグナシアが、そのまま言葉を続ける。
「各国の王が揃っている中で、我がマルメは私が代理として参列していることを説明させていただきます。我が国の女王は自国の民が引き起こした騒動にひどく心を痛め、それが元で床に付しております。そのため、私が全権を持って話し合いに参加させていただくことをご理解いただきたい」
どこからも異議はなく、そのままイグナシアが続ける。
「私が全権を持った王代理として、その上で宣言いたします。本日ここにおわす、エルトラ皇太子のルパ=クート殿を臨時の仮王としてマルメが認めます。異議ある方はあろうや?」
こちらも異議はない。それを確認してからクートが立ち上がる。
「ルパ=クートである。マルメに仮王と認められた故、ここからはエルトラの王として参加させていただく。現在我が国は滅亡の、、、滅亡の危機に瀕しておる。心苦しいばかりではあるが、我らの国への援助を願いたい!」
深く頭を下げると2人して着席する。
なお、ゲラントも戴冠式待ちの身ではあるが、実質の王である事は周知の事実のため割愛された。
クートの着席を待ち、発起人の一人であるアメリアが
「では、円卓会議を、、、」
と言いかけたところで「待った」と手をあげるものが、アメリアの兄、ゲラントだ。
「ロッセン王、、、何か?」公的な場なのでアメリアも怪訝な顔をしながらも発言を促す。
「ここは各国の王が集う”円卓会議”と聞いた。もうひとかた、事情を説明する必要のある御仁がおられるのでは?」
と、ゲラントの視線の先には鳳王の代理、鳥人のファラウィルの姿。
ファラウィルは相変わらずヘラヘラしたまま「あ、私のことですか?」などと言いながらノンビリと立ち上がる。
「ええ、あなたの事です。今回、クロト殿とアメリア殿から各国には”王”の円卓会議と聞いておりましたが、鳳王様は何かありましたか?」
ゲラントがにこやかに問う。
「あーはいはい。そのように聞いておりますが、我々シャピニは”関せず”と是としておりますので」
「というと?」
「端的に申し上げれば、島に影響がなければ決定項に従うという事です。ただ、兵は出しません。他の支援はできる限りしますので、私に申し伝えていただければ、鳳王に確かにお伝えいたします」
「ほう、ファラウィル殿は決定権を持たぬのですか?」
「ええ、私は賛成票を投じて対応できることを我が王にお伝えするだけです」
となかなか喰えない返事をするファラウィル。
しばしの沈黙の後、ゲラントが大仰にため息を吐きファラウィルへ言葉を投げる。
「なるほど、残念です」
「なにがです?」
「シャビニは少なくとも我がロッセンを愚弄しました。そこにいる発起人のアメリアは我が実妹。王をと伝え、事情があるならともかく、このような三下を送ってくるとは、愚弄以外の何物でもないでしょうな」
「なんですと!! 私を三下呼ばわりするか!」
ここで初めてヘラヘラとした顔を納め、激昂するファラウィル。しかしゲラントは意に介さず続ける。
「それに、貴殿らはなんでもハイハイと従うのであれば、我々が劣勢となれば平気で裏切りかねない。今、ここではっきりと申し上げておきましょう。この件が片付いたら、我々は貴国と断絶、ないし、宣戦布告も視野に入れねばなりません」
厳しい言葉を投げかけられたファラウィルは
「若輩がなにを!」と言い返そうとするが、それを塞ぐようにフォニアが発言する。
「我がハナムもロッセンと同意じゃ。そこにおるクロトは我が甥にあたる。そこの三下の対応は無礼であるな」
さらりと明かされるクロトとフォニアの関係に、一瞬座がざわつくも、フォウザ王が畳み掛ける。
「我らも同じ気持ちだ。この後に及んで保身のみを考える国は信用できん」といえば
「理はゲラント殿にあるな。シャビニと交戦となれば我が国もロッセンを支持しよう」とイグナシア。
「わしらは今は兵を持たんが、エルトラが復興されれば当然、味方してくれたものに助力する」とクート。
魔族と王国に攻められて、諸島の2王に助けを期待するファラウィルだったが、2人はつれない反応である。
ヴァーミリアンは見下した目で見つめるばかり。ビクトルは哀れなものを見るような目で見つめている。
「おい、三下」ゲラントが再びファラウィルへ声をかける。びくりとしながら怯えた目線でゲラントを見るファラウィル。
「いいか、お前は今すぐに島に戻り、家に閉じこもっている鳳王とやらに出兵を進言してこい。お前らの持ち場はランカータの国境から先だ。遅れをとるか、万が一にも出兵を渋れば、お前らの島の未来はないと思え!」
普段にこやかなゲラントの裂帛の気迫に椅子を転げ落ちるファラウィルは、羽をばたつかせながら議場から立ち去っていった。
そこでようやく圧を消したゲラント。
「開会前に騒がして申し訳ない。さ、クロト、会議を始めようじゃないか」
にこやかに言って席に着く。
やるなあ、ゲラント。
「ではーーーー」と、今度こそアメリアが話を進めようとすると、
「おや? 主役不在でなにを始めようと言うのかね?」
鼻につく声とともに、会場に突然ローブ姿の3人が現れた。