159)エル・ポーロの強さ
「なんで、、こ「危ない!!! 前!!」」
なんでこんな所にと言おうとしたクロトの言葉を遮り、クィッチが叫ぶ。
反射的に飛び退くも、足元が凍り動きを封じられる。
「おっと」
クロトが足元に気を取られた瞬間
「上!!」再びクィッチの指示。
両腕をクロスしてガードするも、人造魔獣の狒々のような太い腕が上空から振り下ろされる!
ドゴン! 鈍い音と共に腕が地面まで到達する。完全に潰された、クロトのそばにいたエルトラの戦士は思わず眼を逸らした。
砂煙の中、ゆっくりと腕を上げる人造魔獣。すると、その腕をがっしりと掴んで地面から伸びてくるものが。
「びっくりしたー。下、砂になってんのな。これ、地面どうなってるんだ?」
などとのんきな事を言いながらクロトが地面から現れた。金剛によって強化されたクロトは、この程度のダメージではビクともしない。そうして、自分を持ち上げている人造魔獣を見たクロトは、興味深そうに
「お、なんだお前、どうなってるんだ?」と言いながら、相手をまじまじと見る。
クロトの目の前にいるのは、人造魔獣とその背中に乗るフードの男。
いや、乗っているのではなく、下半身が人造魔獣に溶け込んでいる。人造魔獣の背中にフードの男が生えていると言う表現が適切に思える。
「、、、、、、」
クロトの疑問に答える事なく、右手をクロトへ向けて広げるフード。手のひらには砂漠の中だと言うのに、冷気が集約されてゆく。
「さっきのはこれか」
クロトに掴まれた人造魔獣は腕を振り回して引き剥がそうとする。
人造魔獣の腕が上がりクロトも上にも持ち上げられたタイミングを見計らい、思い切りフードを蹴りつけると蹴られたフードは大きく体を逸らして、氷結魔法をあらぬ方向に打ち出した。
「貴様!」
初めてフードが喋ったところで、クロトは人造魔獣の腕を離して一旦距離を取る。
そうして、ぽかんと眺めているクィッチに向かって
「クィッチ! こいつらの弱点とかわかるか!」と仰ぐ。
「わからないですぅ〜! そいつら硬くて早くて、法術も使うので、とにかく守るので精一杯ですよぅ!」
と言う情けない声を聞きながら、気絶したままのフード男を背中に繋げたまま、人造魔獣が襲いかかかってきたのでその体を思い切り蹴り上げた。
結構な勢いで空中に跳ね上がる人造魔獣。
「ジュリア!!」
クロトが叫ぶと、姿こそ見えないが、待ってましたとばかりに穴の淵から多数の矢が一直線に人造魔獣につき刺さる!
右半分だけまるでハリネズミのようになった人造魔獣とフードの男は、声もなくクロトより遥か向こうに落下していった。
「矢は通るみたいだな。あとは任せる!」
クロトの声に呼応するように、穴から飛び出す複数の影。
それぞれが人造魔獣と融合したフードの敵に襲いかかる!
対する人造魔獣に乗ったフード達が法術を放つと、すかさず青い盾が現れ、法術を弾き返す。それを逃れた術も、自分たちよりも強力な威力の術で相殺されて、相手に届くことはない。
動揺するフード達の目の前には、いつの間に現れたのか、白銀の毛並みが美しい狼の獣人が、独り。
それがフード達が見た最期の景色となる。
返しのついたダガーが、正確にフードの男達の眼球を貫き、脳まで届くと姿が消え、フード達にとって一方的な虐殺が繰り返される。
乗り手を失った人造魔獣は闇雲に暴れようとするが、ある者は矢にて地面に縫い付けられ、またある者は頭部を一撃のもとに射抜かれて動きを止めていた。
また、その周辺にいた歩く死体は的確に首を跳ね飛ばす騎士風の男が笑顔で処理していった。
クロトは自分の周辺の歩く死体をフレアを使ってあらかた焼き尽くすと、
「坑道の中の救出を!」
と、クィッチや先ほどのエルトラの戦士に伝えた。
唖然として見ていたエルトラの騎士が、ハッとして慌てて坑道へ向かおうとするが、中からのそりと顔を出す騎士の姿が。
現れたのは曲刀を両手に構え、顔を布で覆った大男。窮屈そうに身を屈めながら坑道を出る。
「ザーバル様! 中の様子は!?」
その姿を確認したエルトラの戦士が、大柄な男に駆け寄って聞いた。
「ザーバル?」
クロトがそちらを見やると、ザーバルもクロトに気付いたようでその目が大きく見開かれる。
「まさか、、クロト殿か? なぜ?」
ザーバルの質問は無視してクロトは確認。
「クートも一緒か? 無事か?」
「もちろん。クート様、とんでもない援軍が来ましたぞ」
ザーバルが坑道の方へ声をかけると、ザーバルの影からひょっこりとクートが顔を出した。
疲労の色は見えるが、元気そうだ。
「!? なんと! クロトか!?」
「おっ、やっと会えたな。ザーバル、坑道の中は大丈夫なのか?」
「ああ。我らと、彼らで中に入って来た者は片付けた」と、クィッチ達を見て、小さく礼をする。
「そうか、じゃあもうしばらくその中にいてくれ。この辺の片付けるから」
「クロト、其奴らはまずい! 法術と強力な打撃の両方で攻撃してくる! 油断しておると、、、、」
そこまで叫んだクートは、目の前で行われる一方的な虐殺に言葉を失う。
無論、一方的に攻撃しているのはエル・ポーロであり、クートが危険視した人造魔獣とフードのキメラの数は半分を切っている。
そこでクロトの目が、戦闘の端からこそこそと逃げようとするフードを捉えた。
「ジュリア! あれ!」
未だ穴の淵から人造魔獣を叩いていたジュリアに指示を出すと、事も無げに逃げようとするフードを痛い方の矢で射抜いてその場で昏倒させた。
「そうか、一匹俺が踏み潰したから一人余ったのか」と、一人で納得しながら倒れたフードを見ていると、
「クロトさん、遊んでないで手伝ってくださいよ! 数が多くて大変なんっすから!」
とパオロに叱られて、再びフレアを走らせるのだった。
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それから四半時程度で勝負は決する。というか、全て倒し尽くした。
穴の淵にいたジュリア、アメリア、ムジュアも穴の中に降りてくる。
「怪我された方がいれば、私たちが治しますのでこちらへ!」坑道の中には思った以上の人々がいて、アメリアとムジュアが手をあげると、該当する人々がそちらへと進んでゆく。
「ジュ、ジュリア殿!」
ジュリアの姿を確認して、クートがザーバルの前に飛び出す!
「あ、クート君だ。元気」
「もももっももちろん元気じゃ!」
そんな微笑ましいシーンを見ていると、クロトの後ろから
「これはこれは、、、」という声が。
振り返ると、コムタの姿が。
「お、久しぶり!」
クロトが気軽に手をあげると
「お久しぶりでございます」と慇懃に頭を下げるので
「ヴァーミリアンから話、聞いたから普通でいいぞ」と声をかける。するとコムタの雰囲気が一変。
「なんだ、人が悪い。しかしあの女虎が俺のことも話すなんてなぁ、あんたも随分と気に入られたようだな」
とふてぶてしくのたまう。
「まぁ、あ、ヴァーミリアンがコムタにあったら宜しくって言っておいてくれってさ」
と、この場にそぐわぬのほほんとしたクロトの言葉に、コムタは思わず苦笑するのだった。
この回ちょっと手直しするかもですが、ストーリーの修正はありません。