124)古代竜①
ロック島が見えて来たものの、風雨が酷く、接岸も困難な状況だった。
多くの船が停泊している主要な港、カッサーノへの着岸は諦め、島の周囲を探りなんとか泊める事ができる場所を探す。
「南の方、僅かですけど風が弱いです。なんとか泊まれるかも知れません!」
ポロンポ商会のクルー、パックが叫ぶ。パックはクルーの中でも潮や風の読みに長けているそうだ。
パックの指示により南の小さな港に船を寄せる。
「ポロンポ、俺が先に跳んで降りて係留ロープを引くから、慎重に寄せてくれ!」
「クロトさん!? この風雨で!?」
クロトはウィレットに教わったばかりの強化ブースト、金剛を使って港へと飛び降りる。と、それに併せて飛び降りる影が。
「サリナ!?」
「私も手伝います!」
「頼む!!」
2人で陽炎、金剛を使い、身体強化を駆使して船をゆっくりと手繰り寄せる。
ポロンポたちも持てる技術を総動員してそれに併せて岸へと寄せてゆき錨を下ろす。
こうして時間をかけてなんとか上陸。
「いやあ! クロトさん! 助かりました!」
風に負けないように大声て礼を伝えるポロンポ。
「とにかく! 城へ!!」
クロトがフレアを懐に入れ、風に飛ばされそうになるジュリアをシーラが抱きしめながら急ぎ城を目指すのだった。
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びしょ濡れになりながら門番をしている顔見知りの獣人の元に、同じく濡れ鼠のクロト達が走って来る。
「!! 開門!」
「ありがとう!」叫びながら門から滑るように城へと入る、パーティとポロンポ達。
場内に入ると、ヴァーミリアンの部下がすぐにタオルを持って来てくれる。その中にはヘイタの姿もあった。
「大丈夫でしたか!? とにかく着替えを!」
「白虎王に手紙は!?」アメリアが聞くと
「嵐で時間がかかったようですが、昨日届きました。なのでみなさんをお待ちしていました。獅子王も先ほど到着しております。さ、風邪を引いてはいけない。まずはこちらへ」
ヘイタが着替えを準備してある部屋へと誘う。
諸島特有の袖口が広くゆったりとした服装に着替え、早々に玉座の間へ向かう。
「お、似合っとるではないか。よく来たの」
玉座の間にはヴァーミリアンやビクトルに、ロクタやヘクト、ルルルさんと言った主要なメンバーに加え、ウィルック、スォードのムーンウルフコンビの姿もあった。
「サリナ!」ウィルックがサリナを見つけ駆け寄って来る。
「ウィルック、島はどうなっているの? やっぱり厄災が!?」
「俺たちにも分からない。俺たちは”お隠れ”の時、ロック島にいた。島に戻ろうとしたのだが、島のあたりは風雨が特に酷く、下手な船では遭難しかねない状態なんだ」
「それじゃあ、やっぱりこの天候の中心部は私たちの島、、、っ!」
「おいおい、落ち着け。今からムーンウルフの島に向かうための話し合いじゃ、話すならこちらで皆と話すがよかろう」
ヴァーミリアンに声をかけられて、玉座の間の中央へと足を進める。
「さて、まずはアメリア、手紙は助かった。一応、ウィルックからも聞いてはいたが、状況が整理できた。それにビクトルも手早く来れたのはでかいの。本人はともかく、風雨に負けぬ旗艦船が2隻になった」
「おいおい、本人はともかくとはなんだ! それに、旗艦船は”3隻”だ」
ヴァーミリアンの言葉を受けて、ビクトルが抗議と訂正。
「3隻?」
「クロト達が乗って来たポロンポの船、あれは俺がこの間まで乗っていた旗艦船だ。ポロンポに払い下げたのよ」
ふはは、俺の先見の明よ! と笑うビクトルは無視してヴァーミリアンは話を進める。
「そうか、それならば僥倖じゃな。ポロンポ、主の船も出してもらうぞ」
「もちろんです」と返すポロンポ。
「よし。では、ムーンウルフの島へ向かう船は3隻とする。それぞれに乗り込んで嵐を突っ切る」
「ロック島に入るだけでも一苦労でしたが、上陸できるのですか?」シーラが疑問を呈すると、答えたのはルルルさん。
「これがもし私達の知る嵐であれば、中央は凪いでいるはずです。嵐とはそういうものなのです。逆に中心部も荒れているようなら、一度戻って対策を立て直したほうがよろしいです」
「ルルルの言う通りだ。だが、撤退は2隻にしておこう。一隻は無理やりにでも島まで行く方向でどうだ? もちろん残る船は俺が請け負う」ビクトルが胸を叩く。
「いや、それならばワシの船が」とヴァーミリアンが言いかけるが、ビクトルが途中で止める
「別にいい格好をしたいわけではない。俺の船はできたばかりで新しい機能も備えている。その中に遠くからでも上陸できるような設備もあるのよ。今日もそれを使ってロックに降りた。他の船ではそうはいかん」
「、、、分かった。ではその場合は頼む」ここはヴァーミリアンが折れる。
「では、次に乗組員だが、ビクトルのところはそのままとして、ポロンポ、そちらにはうちの戦士を搭乗させて貰う。それからーーー」
順調に話し合いは終わり、一旦の休憩の後、出発と決まる。
主だった面々を残し、ヴァーミリアン、ビクトル双方の部下達が準備のため走る。
残った者達は車座になり、配られたお茶で一息。
「しかし、こんなに早く再会することになるとはのう、、、」
ヴァーミリアンがクロト達を見る
「しかも、ビクトルの阿呆のせいでえらい目を見たようじゃし、主らはつくづく、、、、」
つくづく何? そこで止められると気になるんですけど。
「誰が阿呆だ、誰が。まぁ、しかしお前らはつくづく、、、」
おい、ビクトル。お前までそこで止めるんじゃない。
「あ、そういえばヴァーミリアンもビクトルも、封印されていたのは古代竜だって知ってたか?」
「ワシはスォードから”お隠れ”なるものが起きた後に聞いた。流石に驚いたわ」
「俺はアメリアの手紙で、だな。あれって実在してんのか?」
「さぁ、サリナ達はそう言い伝えられて来たらしいが、あながちその言い伝えが間違っていたとは思えないな」
クロトの言葉に2人の王も頷く。
「ただ、相手が誰であれ、ワシらの縄張りで好き勝手させるわけにはいかん」
ヴァーミリアンがニヤリと笑うと、ビクトルもそうだなと相槌をうった。
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降りしきる雨と風の中、苦労しながら離岸、エル・ポーロ号は一路ムーンウルフの島へと向かう。
船にはクロト達やヴァーミリアン傘下の戦士以外に、ムーンウルフのウィルックも同乗している。
ちなみに同じくムーンウルフのスォードはビクトルの船で島へ向かっていた。
最悪島の中心も嵐だった場合は、スォードが現地のムーンウルフ達とビクトルのつなぎ役になる予定だ。
ウィルックはサリナに話しかけたそうだが、サリナとクロトは船の中でも訓練の最中。
2人とも胡座をかいて目を閉じ集中している。
これはクロトの祖母、ウィレットが欠かさずやっておくようにと言っていたルーティーン。
体内で気を練り、一度全身ブーストに近い状態にしてから、腹のあたりで種火の様な小さな力を維持する。
これをやっておくとやっておかないとで、瞬間的に陽炎や金剛が使えるかどうかに大きな影響が出るのだそうだ。
最初に陽炎を練習すると聞いたウィルックはかなり驚いていたが、真剣なサリナの様子に口は出さないことにした様だ。
「そろそろですよ!!」
ポロンポ商会の副船長、ペリントが呼びに来てくれた。
ペリントは本来、海上では夜間担当だが、今回は例外。ポロンポ商会もできる全ての力を動員して、クロト達を助ける心算だ。新参のクルー達は腰が引けるかと思ったが
「やっぱり噂は本当だったんだ!」
と、ルルルさんが適当にでっち上げたポロンポの噂の信憑性が増すことで、やたらとテンションが高い。
急に船の揺れが静かになる。
甲板に出たクロト達が目にしたのは、島を中心に広がる青空。周辺には円筒状に黒い雲が渦巻いている。
そしてその島の中央、ピラミッドのあった場所、、、、、、いまは瓦礫となっている場所で
巨大な竜がクロト達を睨みつけていた。