108)宣託の真実
座敷牢でずっと、というのも何なので、ジュリア母娘を上階へ連れ、一室を確保して2人だけの時間を満喫してもらうことに。
すでに領主の館は制圧済みだ。中にいた者は全て追い出した。主に動いたのは獅子王の側近、ルルルさん達。
「流石に私たちも仕事をしませんとです」と言っていたルルルさんは秘書なのに意外と動ける人だった。
エレムとジュリアが再会を喜んでいる間、クロト達はラッソの一派が余計なことをしないように動く。
まず、エレムの友人だというフィルに、エルフ語で「私は王の資格を剥奪されました」という意味の言葉を板に書いてもらい、ラッソの首から下げて、ラッソを体の半分くらい出して中央の広場に埋めておいた。
ラッソに与していないエルフ達が遠巻きに見ていたが、その目には嬉々として穴を掘るクロト達はどのように映っただろうか。
あと、最初にジュリアが撃墜した自称親衛隊のエルフ達も徐々に戻ってくるだろうから、入り口に杭を打って、リーダー格であったディルカを磔にする。戻ってくるものには、武器を捨て即時降伏するように伝えろと命じておいた。
やらなければディルカの膝が逝くので必死で説得するだろう。
残ったラッソ派のやつは座敷牢にまとめて放り込んである。そちらもビクトルとルルルさん達が随分脅していたので大人しくている。
「、、、、、客観的に見たら賊みたいだな、俺たち」とクロトが言うと
「少なくとも館を占拠したのは完全に賊だよ?」とサリナが困った顔をした。
まあとにかく、ジュリア達が落ち着くまでは待機。
そんなこんなで占拠した館の、リビングと思われる部屋でそれぞれくつろいでいる。
と言っても、ポロンポ商会の面々で余裕がありそうなのはポロンポと副船長のペリント。あとはピエールくらい。
この3人はクロト達と同行する機会も多かったので、慣れていると言うよりも達観していると言った感じだ。
他のクルーはひどく落ち着かない様子。
「しっかし、ラッソの野郎、俺を騙しやがって」
お茶を口にしながら獅子王ビクトルがプリプリしている。まぁ、自業自得なので放っておこう。
「それよりも、フィル。エルフの里はこれからどうするんだ?」
「”どうする”といいますと、、、?」
「このままラッソが長ってことはないだろ? でも兄はラッソが殺してしまった。他に王はともかく、長になるようなやつはいるのか?」
「そうですね、、、パッと思い浮かぶのは巫女が代行することですが、、、エレムはこの島の出身ではありませんし、色々ありましたから、何かきっかけが無いと難色を示す者も少なく無いと思います。。。」
聞かれたフィルはどうしていいのか見当もつかない様子だ。
メンドくせえなと頭を書きながらビクトルが動く。
「とにかく、悪いがこのままエルフ達に任せて次のリーダーを決めるわけにはいかなくなった。仮王が承認した相手に牙をむいた。さらに、諸島に争いの火種を持ち込もうとした。獅子王として見逃せるものでは無い。フィル、夕方までに代表者をこの場所に集めてくれ。そこで次の長を決める。ラッソ達の処遇もだ。いいな」
ビクトルが威厳たっぷりにフィルへと伝え、フィルは分かりましたと部屋を出て言った。
「王様っぽいな」とクロトに揶揄われて渋面を作りながら、「獅子王だ」と返した。
「しかし、どうやって長を決めるべきか。。。」ビクトルは腕を組んで首をかしげる。
と、クロトとビクトルのやりとりを見ていたシーラはふと、アメリアが大人しいなと気づく。
普段こう言う場面では大活躍のアメリアだが、今は一点を見つめ何かを考えている。
シーラが声をかけるべきか迷っていると、アメリアの視線が動き、「あの、ちょっといいですか?」とビクトルに質問を投げる。
「確か白虎王の宴の席で、ビクトル様がラッソとあったのは、エルフの里の外でたまたま拾った。みたいな話でしたよね?」
「あ、ああ。そうだ。小船で遭難しかけていたのを助けてやったのだ」
「それだとおかしいのですよね」
「何がだ?」
「もし本当にエルフの巫女が未来を見ることが出来るのであれば、そしてディルカと言う者の証言が正しければですが、、」
全員がアメリアの発言に注目している。
「巫女はこう言っていたはずです「外から来た者が、エルフの王を決める」と。ラッソの場合は外から”来た”者では無く、ラッソが外に出たんですよね?」
「言われてみれば、、、そうだな」クロトもディルカの証言を思い返す。
「むしろ、今この状態の我々が、外から来た者でございますね」ルルルさんも追随する。
「じゃあ、俺たちが今日、王を決めるのを予言したってことか? だが、長は決められても王は決められんぞ。また中途半端に仮王を任ずるだけだ。この場に王は俺しかおらんからな」ビクトルはイマイチ納得していない顔。
「それなのですが、先ほども言いましたが、私は王位の承認について詳しく知りません。なので教えて欲しいのですが、、、」
「承認は”王証”でも有効ですか?」
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「王証、か。どうだ、いや、大丈夫なはずだ。ただ当然、勝手に王を承認する以上、王証を使った本人の保証はないぞ。王の意に添わぬ者であれば大罪となる」
「そこは問題ないと思います。説得できる自信があります」
アメリアの返答に、ビクトルは「なるほど」と納得する。
「つまり、アメリア姫は王証を一つ持っておるのだな。確かに、王族が持っていても何の疑問もなければ、ロッセン王から咎められる可能性も少ないか。だが残念ながら足りん。俺と含めてあと一人必要だ」
と、ビクトルの言葉に少し微笑んで「違います」と返す。ビクトルが訝しげに見やると、シーラやアーヴァントも苦笑と言った風にクロトを見ている。
「あー、ビクトル。これで足りるか?」
クロトは首からロッセンとファウザの王証を、腰から白虎王の王証を取り出して見せた。
ビクトルも、側近達も、ポロンポ商会も「ははは、、、」と乾いた笑いで眺めるしかなかった。
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フィルが帰って来る前に、ジュリア達が姿を表した。
ジュリアの母、エレムは入り口で深々とお辞儀をする。
「この度は本当に、、、、本当にありがとうございます、、、」
そんな母の手を引きながら、ジュリアが嬉しそうにクロト達を紹介する。
「あなた達が助けてくれなければ、ジュリアがここまで無事に来れたとは思えません。改めてありがとうございます」
それぞれに丁寧にお礼をするエレムと、全員恐縮しながら返すクロト達。
そんなやりとりを見ながら幸せそうなジュリア。ほっこりとした時間が流れる。
ひとしきりやりとりが終わったところで、アメリアからエレムに現状の説明が行われる。
「そうでしたか、、、ラッソが、、、」
エレムはジュリアが狙われていたことも初めて知らされる。
ジュリアに年の離れたお姉さんと紹介されても違和感のない、整った顔にシワがよる。
「それでな、エレムさん、すまないんだけどちょっと協力して欲しいんだが」
「もちろん、皆様のお願いなら可能な限り!」
クロトのお願いに両手を胸の前で組んで、力強く宣言。
「そう言ってくれると助かるよ。それじゃあ、ちょっと”精霊王”やってくれない?」
先ほどの体勢のまま、 へ? という顔で固まるエレム。
ジュリアは無邪気に「お母さんが王様! すごいね!」と喜んでいた。