11)全員が、忘れてた
アラクネから少し遅れて降り立った俺に、バーンが駆け寄ってくる。
「もう少し離れたところに落としてくれるとよかったのですが、私が巻き込まれそうでしたよ?」
そうなの? ごめんな。
「まぁ、ですが、あなたのおかげで決着がついたようです。助かりました。クロトさん」
言いながらバーンは右手を差し出す。
「いや、こちらも助かったよ。よくアラクネの足斬れたな、バーン」
「クロトさんが足を殴ってくれたおかげですね。よく見たら足の一部に亀裂があったので、そこを狙って振りました」
握手しながらバーンと言葉を交わす。ところで、いまも目が笑ってないのだけど、それ、素なの?
「クロトさーん」アメリアが駆け寄ってきたと思ったら、そのまま抱きついてきた。わぁ、柔らかい。
「すごいです! すごいですよクロトさん! あのアラクネをやっつけるなんて!」
こうやってはしゃいでいると、アメリアも年相応なんだな。と、ぼんやり眺めていると、アメリアは自分がクロトに抱きついていることに初めて気がついたようで、顔を真っ赤にしてその身を離した。
「すすす済みません。思わず!」
顔を覆ってブンブン振るアメリア。
「いやぁ、それより怪我はなかったか? シーラも?」
アメリアが恥ずかしがっているのを見て苦笑しながら近づいてきたシーラは、鎧や衣服に破れはあるが、見たところ大きな怪我はなさそうだ。
「傷は姫が回復の法術で治してくれたからな、おかげでほぼ万全だ。私も手伝えればよかったが。。。」
「いや、アメリアの守りに回ったのは賢明だったよ」
シーラとも握手を交わす。
「しかし、あのアラクネを倒すとは、どれだけの実力を秘めているのだ、君は」
「いやー、バーンが足を斬ってくれたから、なんとかなったんだ」
「いやいや、私の攻撃など、ほんの助力にすぎませんでしたよ」
それぞれに感想に花を咲かせる三人と、いまだ恥ずかしがってクネクネしているアメリア。
「さて、ここからどうするんだ? バーン?」
「ええ、アラクネを拘束して城に連れ帰らなければなりませんが、流石にこの人数ではきびしい。先ほどのダメージなら、早々目を覚ますこともないとは思いますが、とにかく騎士団を呼び寄せましょう。すいませんがそれまではここでアラクネの監視を手伝ってください」
バーンは懐から信号弾を取り出し、空に向かって引き放つ。赤い煙とともに信号弾が打ち上がった。
「それにしても、あなたが妃を疑っているとは思いませんでした。バーン」
ようやく気持ちを持ち直したアメリアが、なんで教えてくれなかったんですかといった雰囲気の非難めいた視線でバーンを攻める。
「そうですね。アメリア姫やゲラント様はおそらく反妃側だとは思っていましたが、そういう振りをして妃を探っているものをあぶり出そうとしている可能性もありましたから」
「そう言われると、お互い様ではありますが」
ゲラント様って誰?
「あれ? クロトさんには言ってませんでしたっけ? お兄様の、第一王子の名前です」
そうなんだ。
「そうだ、バーン! お兄様を見かけませんでしたか? 城で探したのですが見つからなくて」
「私も存じませんが、どこかに幽閉されているとすれば、戻ってお探ししなければなりませんね」
「もしかして、アラクネに食べられて。。。」
先ほどアラクネが言った、妃を「食べた」という発言が思い出されるのだろう。
アメリアが不安の色を浮かべる。
「大丈夫、、、だとは思います。王妃と王子、2人同時には変装できないでしょう。どちらかが突然行方不明になったら、流石に騒ぎになりますし。恐らくはアメリア様とケリをつけるために一時的に軟禁しているのでは」
「私もそう信じたいのですが、相手があんな怪物だとは思わなかったので、心配です」
衛兵が来たら、急ぎ戻りましょう。きっと大丈夫ですとシーラが慰め、ことさら話題を変えるようにバーンが言う。
「しかし、アメリア様も随分大胆なことを計画なさる。まさか王を人質に取るとは」
ん? みんなが顔を見合わせ、ハッとする。
あ! 王! 忘れてた! OH!