103)エルフの里へ!
「この島の一番の見どころといえば、やはり”大灯台”です。少々歩きますので、道ゆく途中の見所もご案内しながら進むとしましょう」
獅子王ビクトルの秘書、ルルルさんの案内でザウベル島の名所を見て回ることになった一行。
いつの間にかルルルさんは白い手袋をして旗を持って「迷ったらこの旗の元へ集まってください」と言っていた。
迷うか? と聞いたら
「こういうのは雰囲気ですよ」と表情を変えずに言っていた。冗談なのか本気なのか分からん。
城の裏手から出発し、青々とした穀物の畑の間をのんびりと歩く。
「こうして見ると、随分と平坦で木の少ない島だな」シーラが呟くのをすかさずルルルさんが拾う。
「はい。シーラ様が今いいところに気がつかれましたね。もともとこの島にも沢山の木々が生い茂っていました。しかし、不安定な食糧事情を抱えたわが国を憂いた7代目獅子王様がこのままでは島は衰退してしまうと危惧され、木々を伐採して輸出すると同時に、全住民に開墾を奨励。結果、木材の輸出で港は賑わい大陸との交易が活性化、それがきっかけで現在のような活発な取引につながり、さらにはこうしてたくさんの畑を確保するに至っております」
そんなルルルさんに先々でザウベルの特徴を聞きながら進むと、徐々に白亜の塔が近づいてきた。その先には長く続く砂浜が見える。
「さあ皆様お待ちかね、我が国が誇る大灯台。通称”貝殻灯台”のお目見えでございます」
近づくと巨大さがよくわかる。白というよりもクリーム色がかった大きな灯台。
「貝殻灯台?」サリナが興味津々に上を眺める。
「はい。なぜにこのような名前がついているかといいますと、実はこの壁、貝殻を砕いたものを混ぜ込んでおります。かつてまだ食糧事情が安定しておりませんでした頃、この砂浜で採れた貝を頼りにしておりまして。食べ終えた貝殻をなんとか再利用できないかということで、灯台の素材の一部としたそうでございます」
「これ、中には入れるの?」ジュリアの質問に「もちろんでございます」と、鍵を取り出し扉を開ける。
中に入ってすぐ、ちょっとした宿泊スペースになっている。その端には螺旋階段があり、ずっと上まで続いていた。
「海が荒れる日はこちらに当番のものが夜通し詰めますのでございます」
ルルルさんはそう言いながら先行して螺旋階段を登り始める。
何周回ったかわからないほど螺旋階段を登り、ようやく頂上へ。
「うわあ!」ジュリアの掛け声は全員の気持ちを代弁しているよう。
見渡す限りの海に、点在する多数の島々が見える、こうして見ると”諸島”という言葉の意味が良くわかる。かなりの絶景だ。
「これは凄いですね、、、」アメリアも感嘆した声を出しながら海を見つめている。
「状況が揃えば大陸が見えることもありますよ」とルルルさん。
一方風景には全く興味を注がずに、灯台の役割たる火を灯す部分に夢中なのはアーヴァントだ。
「これは、、、宝具だな。。。」
「はい。そういえばアーヴァント様はファウザの方でしたね。有名な太陽の玉の事はよく存じております。実はこの宝具も、それによく似た物でして、天井の明かりとりから降り注ぐ明かりを溜め込んで、夜になると輝くという代物です。面白いのはどうも月の明かりでも使えるみたいなのですよね」
「なるほど、、、太陽の玉の上位互換のような宝具だな。数日光がなくても大丈夫か?」
「はい。少なくとも私の物心がついた時以降、この灯台に明かりが灯らなかったことはありません」
アーヴァント以外も説明を聞き入り、感心したようにその光の元を眺める。
「さて、そろそろ戻りましょうか。お城に着く頃には灯台に光が灯るのを見ることもできると思いますでございますよ」
ルルルさんの言った通り、城に戻る頃には日も暮れ、振り返ると貝殻灯台に光が灯るのが見えた。
なかなか情緒のある明かりだな。
帰城するとルルルさんが
「まずはお風呂にしますか、それともすぐにお食事に? それとも、、、」
と、古典的なジョークを炸裂させるが、とにかく表情があまり変わらないので冗談なのかが分かり難い。
とりあえず風呂でと伝えておいた。
クロトはアーヴァントと連れ立って風呂へ。獅子王の城の風呂は露天風呂付きだった。随分凝った意匠なのは先代獅子王の趣味だそうだ。
「うぃー」っと声を出しながら湯船に浸かる。
次第に空には星が瞬き始め、のんびりとした時間を過ごした。
夕餉は獅子王の絡み酒で、ジュリアが例のごとく距離をとった以外はまぁ楽しい夕食だった。
明日、朝にはエルフの里へ出発である。そう言えばポロンポとあの後会っていないので出発について知らせないとなと思っていると、ルルルさんが「お知らせ済みです」と言っていた。
ちょっと変わっているけど、さすが有能秘書、ルルルさん。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌朝、ポロンポ商会の船に向かったのはクロトたちに加えて、獅子王ビクトルとルルルさん。それに獅子王の護衛だという2人の戦士。
、、、え? 獅子王も一緒に行くの?
「当たり前だ! 俺が行かなければエルフの里には入れんぞ!」
「でも、護衛少なくないか? 一応王様だろ?」
「一応ではなく王だ! エルフの里は大人数が来るのを好まぬのでな。まぁ、お前らも腕に覚えがあるようだし、仮に途中で海賊に襲われるようなことがあっても大丈夫だろ」
と豪快に笑っていた。。。海賊? 出るの?
「この辺りでは海賊は殆ど出ません。まぁ安全な航路でございます」
ルルルさんがきっちりと補足する。
予期せず獅子王を乗せての航海となったポロンポ商会のクルーに若干の申し訳なさを覚えつつ、船は出港するのだった。
出港してしばらくは獅子王の指示によって船を進める。
「ああ、この辺りだな。止めてくれ。錨は下げなくていい。ここまま波に任せておけ」
獅子王がそのように指示。止まったのは何もない海の真ん中。
すると、獅子王が腰から変わった形の笛を取り出す。そしておもむろに吹き始めた。
決してうまいとは言えない、どこか落ち着かない感じの音程を奏でる獅子王。
しばらく笛を吹いていると、にわかに海から薄ピンクのもやが立ち込め始める。
ざわつくクルーを尻目に、なおも音を奏でる獅子王。すると船の周辺は完全にピンクの霧で包まれ、完全に視界が無くなってしまった。
「大丈夫なのかこれ?」と、クルーの誰かが言う言葉が聞こえたが姿は全く見えない。
そこで漸く笛の音が止まり、ビクトルが
「もう舵は触らんでいいぞ。勝手に動く」と言うと同時に、船がゆっくりと動き始める。
「エルフの島に着くまでは視界はこのままだ。慌てて海に落ちないように大人しくしておけ!」
姿は見えないが獅子王の声に全員がその場で待機。
それからどれくらい経ったであろう。そろそろクロトがじれ始めたころ、船が止まる感覚があった。しかし靄はまだ晴れない。
「ビクトル! 船が泊まったみたいだが、どうすればいいんだ?」
クロトが声をかけるが返事はない。
仕方がないのでしばらく様子を見ていると、不意に靄の一部が薄くなり、道のようにそこだけ視界が通る。
その道に沿って進んでみると、渡し板が敷かれ、上陸できるようになっていた。
警戒しながら上陸するも、周辺はまだ靄がかかったままだ。ただ、一部だけ道が続いているので、それに従って進む。
少し歩くと門のようなものがあり、小さな扉がついている。扉を押し開けると一気に視界が広がった。
「ああ、来たか」
そこは広場になっており、待っていたのはビクトルだ。
「どうなっているんだ?」
「前に来た時もそうだったが、徹底しているものよな。何、心配するな。じきに皆この場所に来るはずだ」
ビクトルが言った通り、少し時間をおいてアメリアとシーラが一緒に来た。2人はすぐ近くにいたので、一緒に出て来たと言う。
その後ルルルさんが。また時間をおいてポロンポと言った感じで、ポツリ、ポツリと広場に集まってくる。フレアはサリナにくっついて来た。
しかし、ジュリアとアーヴァントだけは、いつまで経っても現れることはなかった。
ルルルさんのしゃべり方のイメージはペル●ナのエリザベスさんです。