10)強者のターン
クロトがしばらく戦闘を傍観していたのは、2人でなんとかなるようならアメリアのカバーに回ろうと考えてたからだ。
決して目まぐるしい展開に参加のタイミングを逃したわけではないのだ。決して!
「私に打撃を、、、キサマァ、何者だぁ」
醜悪な笑みをたたえながら、ゆるゆると身体を震わすアラクネ。
「この国にとっては、通りすがりの者、かな?」
もう一発顔にぶち込もうと、強く踏み込んだ瞬間、アラクネが白い塊を口から飛ばす。
危ういところ避けると、白い塊は木にあたり、そのまま弾けて蜘蛛の巣状に拡散した。蜘蛛の糸の塊か、あれ。
「チィ、外したか。だが、全て避けられるかい? 一つでも当たれば、もう逃げることもできないよ」
アラクネはのべつ幕無しに蜘蛛糸を吐き出し始める、偶然当たれば良しといった感じの、狙いも何もない連射。
うーむ。避けるのは難しくないが、行動範囲が狭まるのはよろしくないな。
避けながら試しにダガーで糸を切ってみるが、張り付いて伸びるだけ、これを戦闘中に刃物で切るのは無理だな。
ひとまずダガーは捨てて、あとで回収しよう。
周囲を見渡すと、シーラはアメリアのそばに戻っているのであっちはひとまず大丈夫か。
バーンは、、、見当たらないけど、多分大丈夫だろ。まぁ、頑張れ。
「どこを見ているのかしらぁ!」
ちょっと目を離したすきに、アラクネが飛び上がり、六本の足を揃えて突き刺すように落下してくる。まるで尖った隕石だ。
避けた場所に着弾。地面がえぐれ砂埃が舞う。その砂埃に紛れアラクネは再度飛び上がり、再度俺を狙い落下してくる。
「あぶなっ」とこれも避けるが
「甘い!」アラクネは張り巡らした糸にさらに口からも糸を出し繋げ、振り子にして方向を変えた。
「クロト(さん)!」アメリアとシーラの悲鳴に似た叫びが耳に届く。
「もらったわぁぁぁぁ」
勝利を確信するアラクネ、なら! と、俺も飛んでくるアラクネに向かって飛び上がる!
「なっ!?」 自分の方に向かってくるとは思わなかったアラクネ。
俺は尖った足に掠りながら体を捻り、揃った足に思い切り拳をぶち込んだ。全力のぶん殴りに真横に吹き飛ぶアラクネ。
うまい具合にあった大きな木の幹に直撃し、バウンドして地面を転がる。
本当は顔に一発ぶち込もうと思ったが、とっさのことだったから上手くいかなかったのは残念。
結構全開パンチだったが、あの硬そうな足じゃあさすがに致命傷とはならないか。多少ふらつきながらも立ち上がってくるアラクネ。
「この威力、お前本当に人間かぃ?」
地面に叩きつけられた際に負傷したのか、左腕がだらりと垂れ下がり、血が流れているが、さして気にする風でもなくこちらに近づいてくる。
「ちょっと驚いたけど、今の攻撃は覚えたわぁ。同じ手は使えないわよぉ。今度は避け切れるかしらねぇ」
再び空中攻撃のため、六本の足をぐっと沈ませたアラクネ。しかしそのままバランスを崩し、タタラを踏んだ。
「何が、、、っ!?」
バランスを崩した方向を見やるアラクネ。するとそこには、あるはずの足が2本、無かった。
「さて、私のことはお忘れですかね。アラクネ」
バーンが切ったのだ。あの硬い足を一振りで2本も切りとばすとは、すげえ。バーンさんのことちょっと舐めてました。
「きさっ、、きぃさぁまぁ。だがまだこの程度なら!」
4本足となったものの、憤怒の形相で再び飛び上がるアラクネ。驚異のタフさと言える。
「だが、高さもスピードも足りてませんね」
落ち着いた様子で飛び上がったアラクネを眺めるバーン。
飛び上がったアラクネは、自分の頭上に影ができているのに気づく。
「まさか!」その瞬間、アラクネの目はクロトの姿を捉えることができたのだろうか。
はい、そのまさかです。この一撃で決める!
「もらったああああ!!!!」
アラクネの頭上から今度こそ顔面にめり込む全力パンチ!
飛び上がった速度の倍近いスピードで地面に突き刺さる! 凄まじい音とともに今度こそピクリとも動かなくなるアラクネ。
俺たちの、勝ちだ!