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「どんな世界がよいかのぅ。たとえばこんな世界は、どうじゃ?わしが見守っておる中でもなかなか珍しいんじゃが」
そう言うと老人は、全体的に青い惑星にむけ杖を振る。すると引き寄せられるようにその惑星は近づいてくる。
「この世界は海しかないんじゃよ。魚人のような生き物で、人間のように知識があり、群れをなして生活しておるのじゃよ。もちろんこの世界に行くのなら、そこに馴染むように、魚人にして送りだすから、安心するのじゃよ。」
話を聞きながら省吾はその惑星を見つめる。全体的に青い色で、暗くなったり明るくなったりを繰り返しているだけだが、それはとても神秘的で、ずっと見ていたいと心を奪われるようだった。
「すごく綺麗ですけど、できるなら俺は人として生きていきたいです。」
「分かったのじゃよ、じゃあこの中から選ぶとよいぞ。」
老人は持っていた杖で、コツンと床を鳴らすと、30個くらいあった惑星が10個になり、二人の間に円になるよう並んだ。
「どの星にも、人間が住んでおるぞ。ただ、人間だけではなく、他の種族が住んでいたりもする。世界が違えば、今までの常識は通用せん。よく考えて決めるのじゃよ」
それから、目についた惑星について色々聞いた。そのうちのいくつかは、省吾が好きなアニメに似ている世界もあって、どんどん夢中になっていった。
「この惑星はどんな世界ですか?」
指を指した惑星は、地球と瓜二つでよく見ると大陸の形が違うくらいしか見た目の違いはなかった。
「この惑星は、ほぼ地球と一緒じゃな。覗いてみるかのぅ。」
今度は杖でその惑星を目の前に持って来るとまたプロジェクターのように映像がながれる。映し出された町並みは見たことはないが、そこにある建物や乗り物などほとんど地球と一緒なのだ。ただ少しずつ、なんとなく違うのだ。
「ここなら、前とさほど変わらんから苦労することもないじゃろう。どうじゃな?」
「やめておきます。せっかくなんで前とは違った世界に行きたいです。こっちの惑星はどんな世界ですか?」
地球と瓜二つの惑星を見て、胸の中でざわざわ蠢く感情に蓋をするように、他の惑星を指差す。
「ああ、その惑星はオススメしないのじゃよ。今はまだ人も住んでいるんじゃが、魔族と戦争中でな。」
「えっ、じゃあこの所々光ってるのは…」
「まさにそこが、戦争の真っ只中じゃな。」
「神様が助けてあげる事はできないんですか?」
「わしは、たとえるならば神というだけで、ただ見守る存在なんじゃよ。そんな力は持っていないんじゃ。わしに出来たとしても、道路の脇で遊んでる、子猫を咥えて運ぶくらいじゃ。」
まぁ、それさえも出来んかったがのぉ。小さい声でそう呟くと、困った顔をした。
杖を振ると、映像が流れた。地を揺らすような爆発音、武器どうしがぶつかる音、自分自身を鼓舞するような雄叫び、助けを呼ぶ言葉にならない叫び声。地面に刺さる氷の柱、空から降り注ぐ炎の雨、宙を舞う、先ほどまで生き物の一部であったであろう肉片。
「…。」
目を覆いたくなる光景に省吾は息を飲む。そこにいるわけではないのに、体の奥底から恐怖が込み上げ膝が笑う。見たくないと思うのに目線がそらせない。老人は、無言で杖をあげ杖を振るおうとする。
「待ってっ!」
それを制すように省吾は叫ぶ。戦場の真ん中にいる場違いな二人に目が釘付けになる。
「この子達、なんでこんな所に…」
そこにいたのは二人の子供だったのだ。女の子の方は恐怖で尻餅をつき、ぬいぐるみをぎゅっと抱き締めている。その女の子を守るように背中で隠して、敵に剣をむけている男の子がいた。そして目の前には斧を持ったモンスターが今まさに襲いかかろうと跳び跳ねた。
「あっ!!」
そこで映像は、止まる。
「この後どうなったんでしょうか?二人は大丈夫ですよね?」
「それはわしにも分からんのじゃよ。」
「この続きを見るとこは出来ますか?」
この後の事を考えると見たくないと思う一方で、二人は大丈夫だと見て安心したいという気持ちで問いかけた。
「それは無理なんじゃよ。こことは、時間の流れが違うのじゃ。ここの一秒が、向こうも同じ一秒とは限らんからのぉ。この世界は特に、時間の流が遅いみたいじゃからのぅ。」
「そう…ですか。」
「次を見てみるかのぅ。」
そういうと杖を降り次の惑星を引き寄せ、映像を流す。
そこに映し出されたのは穏やかな田舎風景のようだった。人々が畑仕事をしていて、その回りを子供達が駆け回って遊んでいる。
「ここはどうじゃ?モンスターもおるが、いろんな種族が共存しておる。争いも多少はあるが、さっきの世界とくらべると、平和な方じゃと思うぞ。」
「じゃあ、ここにしようと思います。あの、モンスターに喰われて死ぬとかないですよね…?」
「もちろん、喰われる事もあるぞ。」