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「えっ…じゃあ、俺は、死んだのか…?」


信じられない事態に、頭がついていかず、省吾はすがるように女神さまを見つめる。


「そのとおり、なのじゃ…。」

悲痛な面持ちで 、今にも涙が零れ落ちてしまいそうな瞳を伏せながら、小さくそう呟いた。


「うそ、だ…」

省吾は信じられないと、両手で頭をかかえる。


「本当なのじゃよ。お主は、」

「うそだー!!」

省吾は話の途中で、叫びだした。その先を聞きたくないと耳を押さえ、目をぎゅっと硬く閉じる。


(うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ)

省吾の頭の中は、その3文字だけで埋め尽くされ、呪文のように繰り返しつぶやく。

(俺が死んだなんて、うそだ…今日は朝から学校に…)

そこで疑問がふと浮かび上がったのだ。

そう、なぜ自分が死んだのか、と。

省吾は今日の事を、順番に思いだしていくが、肝心なところが思い出せない。というかその原因になることに心当たりがないのだ。

省吾は、知りたいという好奇心と、知ってしまったらこの事を受け入れなければいない恐怖を胸の内に抱えながら、この事を唯一知っていそうな、人物に視線ををむけた。

その人物は、先ほどと変わらず悲痛な面持ちで、今度はしっかりと省吾の事を見つめていた。


「俺は、なぜ、死んだのでしょうか?」

口からでた言葉は、とても小さかったが、省吾の心の中では否定してくれと張り裂けんばかりに叫んでいた。


だが、その願いは通じることはなかった。


「これを、見てくれるかのぅ」


そう言うと目の前に、地球儀のような物があらわれ、プロジェクターのようにそこから、映像が映し出された。


「俺だ…」


映し出されたのは、いつもと変わらない省吾の登校中の姿だ。映像が進んでいくと表れたのは子猫だ。歩道の端に置いてある小さな段ボールの中で古びたボールで遊んでいる。


ガシャン ガガガガッガー

何かが擦れる音が鳴り響くと同時に周りが騒がしくなった。


「キャー」

「危ない、車が突っ込んでくるぞー」


車はガードレールや縁石に、車体をぶつけながら、歩道の方へと迫ってくる。

人々が叫び、走って逃げ出す者や、パニックで動けなくなる者、何が起きているのか分からず回りを見渡す者、そしてただ一人その車へと走り出す者。


「そうだ、思い出した…俺、あれから…」


小さな段ボールへと黒猫が駆け寄ってきて子猫の首を咥えて逃げようとするが、子猫はまだボールで遊びたいのか、段ボールに爪をたてて抵抗する。黒猫は段ボールごと引きずって行こうにも、側にあった自転車に段ボールが引っかかりうまくいかない。

車は勢いを落とすことなく、猫達へと、どんどんと近づいてくる。

映像の中の省吾は走る。そして猫達を捕まえて、街路樹のツツジの上に投げた。次の瞬間、大きな衝撃音と共に車は停車し、車の下から這い出るように、血が流れ出てきて、そこで映像は止まる。


映像が止まった所で省吾は顔を上げる。

すると、女神さまは消え、目の前には黒猫が座っている。


「助けてくれて、ありがとうなのじゃ。あのままだとわしも、あの子猫も、死んでいたじゃろう。しかし、かわりにお主が死んでしまって、本当に申し訳ないと思っておる。」

そう言うと黒猫は頭を下げた。


「まっ、まだ、助かるかもしれない。死んだとはかぎらないだろっ!すぐに、救急車で病院に運んでもらえる。」

省吾は、一縷の望みにすがりつき叫んだ。


しかし、黒猫は首をふる。

「残念じゃが、お主の体はもう、生命維持できる状態じゃないのじゃよ…。」


省吾は膝から崩れ落ち、泣き叫ぶ。体の中に渦巻く、自分ではどうしようもない感情を、爆発させた。

黒猫はただ、そっと近づいて寄り添う。


どれくらいの時間が過ぎただろう。止めどなく流れていた涙はとまり、さっきまで渦巻いていた感情は、もやもやと心の奥で燻っていた。省吾は隣で様子を伺うようにこちらを見ている黒猫をそっと撫でた。


「子猫は、けがしてない…?」


「お主のお陰でな。本当にありがとなのじゃ。」


「なら、よかったよ。」

それを聞いて省吾の心は、ほんの少しだが、もやが晴れた気がした。


「もし、お主が望むなら、他の世界で生きてみるというのはどうじゃ?」


黒猫が真っ直ぐ見つめて問いかけてくる。そしてくるりと、宙返りすると先ほどの老人の姿に戻っていた。


「えっ?」

その突拍子もない話と、目の前で起きた事に思考がついていかない。もう、頭も心もいっぱいいっぱいなのだ。


「わしの見守っている世界の中から選ぶようになるのじゃがな。もちろん、お主が望むのならば、じゃ。どうじゃろうか?」


「えっと…」


「試しに他の世界を見てみるのはどうじゃ?それから決めたらいい。」


そう言うと老人は持っていた杖を横に振る。するとどからともなく地球儀のようなもや、そこらへんに転がっているような石ころのようなものが、等間隔を開けて、二人を囲むように表れた。


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