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闇、暗闇。
果てしなく続いているようにも、手を伸ばせば暗闇の終わりを知ることができるようにも思える不思議な空間。
立っているのか、自分のベッドでうとうとと寝そべっているのか、はたまた水中でゆらゆらと漂っているのか。
はっきりと分かるのは、自分という意識があるということだけだ。
ぼんやりとした意識の中、少年の目の前に白い点が表れた。
「なんだあれ??」
吸い込まれるように、その点に近づいていく。
気付けば点は、人の頭くらいの大きさを保ちながら、ぐねぐねと動き、その動きと連動したように、さまざまな色に移り変わりながら輝いていた。
「ようこそ。でよいかのぅ?伊藤 省吾よ。」
突然響いた、男とも女とも分からない声に、戸惑いながら回りを見渡す省吾だが、もちろん誰もいない。
それと同時に、さっきまでなかった体の感覚が、だんだんとはっきりして、足の裏からどこかに立っている事が伝わってきた。
「すみません、ここはどこでしょうか??あと、あなたは……?」
声の出どころと思われるその輝きに戸惑いながらも声をかける。
「君たちの言葉を借りるなら、死後の世界とでもいうのかのぅ?そして私は、神というところじゃろう。」
「死後…神様?」
省吾はありえない単語にパニックになり固まってしまう。
そして次の瞬間もっとありえない事がおき、尻餅をついてしまう。
「これが、君の思う神かのぅ?」
目の前の輝きが消え表れたのは、杖を持ち、仙人のような白髭を蓄え、ふわふわと浮かぶ雲の上に老人が立っていたのだ。もちろん頭は禿げている。
目の前状況についていけず、口をぱくぱくと動かず省吾。
「私に実体はないのじゃよ。これは君の想像を借りた姿じゃ。」
そう言って老人は、雲からおり杖をつきながら、ゆっくりと省吾に歩み寄ってくる。
「人とは面白いのぅ。同じ地球という星に住んでいながら、場所や時代で、神と言うとみなバラバラなものを思いうかべるのじゃ。あるものは若い屈強な男性を、あるものは産まれたての赤ん坊を。人だけじゃない火、ドラゴン、象なんかもおったかのぅ。もちろんお主と同じように老人を想像した者もおった。」
話した内容にそって老人は、若い男性に姿をかえ、次に赤ん坊、火、ドラゴン、象、そしてまた老人の姿に戻って、省吾の前に立ち止まった。尻餅をついたままの状態の省吾に手を差しのべる。
「そういえば若い女性、女神を思いうかべた者もおったのぅ。」
その瞬間老人は女神に姿を変えていた。
「お主の思う女神は、珍しい姿をしておるのぅ。」
そう言って女神は微笑む。
それはそうだと省吾は恥ずかしくて顔を真っ赤にして、そっぽを向く。
省吾が思い浮かべたのは、最近はまっているアニメの中でも、大好きな、女神様だったからだ。
アニメのキャラともあり、スタイルは抜群なのはもちろん、見えてはいけないものが、見えてしまうのではないかと思えるほどの、布面積の少なさ、そして謎の紐。
しかし、省吾が顔を真っ赤にしたのはそれだけが理由ではない。
そう、目の前にあるのだ。たゆん、たゆんと揺れるあれが。
省吾は目を瞑り、心を落ち着かせる。
(あれは、女神さまだけど違う!!落ち着け俺!!そう…あれの元の姿は、禿げたじじいだ!!)
心を何とか落ち着かせ、目を開ける。
目の前には微笑みながら手を差し出す女神さま。
省吾はまたも、そっぽを向いてしまいそうになりながらも、女神さまの手をとり立ち上がる。
「あ、ありがとうございます……」
お礼を言いつつ、目線はあちらこちらに泳いでいる。
いくら心を落ち着かせたとしも、省吾にとっては大好きなキャラだ。しゃべり方や声が違っても目の前にいるという事だけで、嬉しくて、興奮してしまうのは仕方がない。
「お礼を言うのは、私のほうじゃ。」
そういいながら、女神さまは困ったように笑う。
その困った顔さえも、可愛いと省吾はニヤけてしまうのをごまかすように、頭をかいた。
(か、可愛すぎる~!!こんな可愛い女神さまと話せるなんて、ここは天国か!!……天、国……?)
省吾のニヤけ顔は真顔に戻り、頭をかく手が止まる。
視界が揺る、視線が定まらない。膝が震え、崩れ落ちそうになるのなんとかこらえたが、呼吸は荒く、冷や汗は止まらない。
そう、目の前でおこる不思議な事に気をとられ、重要な事をみのがしていたのだ。
「…死…後の、世界…」
ただ一言、省吾は呟いた。