メガネの小学生が来てからなぜかこの街に殺人が頻繁に起こるようになってしまったのでなんとかこの街から脱出したいと思います!!
「ニュースです。ここ、ベーカイ町でまた殺人事件が起きました。警察によると...」
俺は「はあ」とため息をつきながら、テレビの中の殺人事件を報じているキャスターを見た。
「ここ最近、この辺で事件が起きすぎだろ...」
テレビを見ながら俺はそうぼやく。たしかに俺の住んでいるベーカイ町では少し前から殺人事件や強盗事件が増えたような気がする。なぜかは分からないが、心当たりのようなものは少しある。
「あそこに小学生ぐらいのガキが居候してくからだな...」
そう言いながら俺は真反対の建物を見る。肌色の外壁に窓が付いていて、その窓には「育毛利探偵事務所」と書かれている。
この事務所はその名の通り探偵事務所なのだが、少し前に小学生がやってきた。青い服に赤の蝶ネクタイをつけたそのメガネの子供は少し大人びているというか、子供じゃないような言動を見せることがある。
「いや、流石に関係ないかなあ...」
そう言いながらテレビのチャンネルを変える。変えたチャンネルでは、どうやらヒーローものだったようで、ハサミのようなものを手に装備した怪人を目の当たりにして、物語の登場人物3人のヒーローは決めポーズをする。どうやら変身のシーンのようだ。
決めポーズが決まるとベルトの『ダ』と書かれた文字が回転し、3人の男は光に包まれた。
「え?」
だが、その変身は中断される事になる。赤のジャージの男はキョトンとしながら怪人の方を見ている。それはそうだ、変身中に攻撃してきたのだから。変身中というのは基本的に待っているというのがお約束のはずだ。
「へえ、変身中に攻撃するなんてこの怪人面白いことするなー」
俺はそう言いながらついていたヒーローもののテレビを消して伸びをした。とはいうものの戦隊ものという奴は正直興味がない。
「あ、また何か起きてるのかな」
外に再び視界を戻すと、先程言った少年が仲間と思われる小学生5人を連れてどこかに行っているのが見えた。赤い服のカチューシャの女の子、緑の服の小太りのうな重しか考えてなさそうな子供、スラッとしたなんだか博識そうな子供、栗色の髪の大人びた様子の子供。その子もあのメガネのガキンチョの友人だろう。
「でもあの子供、事件現場によくいるんだよなあ」
ニュース以外でも事件にあう事はしばしばあるのだが、必ずりいっていいほどあの子供がいるのだ。まるで、その少年が事件を起こしているかのようだ。
「よし!引っ越そう!こんなとこにいたら何されるか分かりゃしない!!」
そう思い立ち、おもむろに立ち上がる。引越し業者に電話をして引っ越しをしたいという旨を伝えて電話を切った。茶色いソファに腰掛けながら一息つくと、チャイムの音が聞こえてきた。
ピンポーンという音とともに何やら子供のような声が聞こえてくる。一体何のようなのか...。
「はいはい...」
重い腰を上げて銀色のドアの前に立つ。鍵を開けて開いてみるとあの青い服の子供そのお供が立っているではないか。
少し嫌そうな顔をしながらその子供を見る。するとその子供はこんなことを口にし出す。
「この近くで女性が殺害されたんだけど、何か知ってない?」
「え、いや?うーん...わからないなあ」
「何でも良いんだよ!教えろよ!!」
うな重のことしか考えてなさそうな小太りの少年はそう言う。そう言われても心当たりがないのだから知らないというしかない。
「わからないなあ...」
殺人事件の操作を嬉々としてまるでゲーム感覚か何かしているなんて親はどんな教育をこの子たちに施しているのだろう。そう思いながらも少し面倒くさそうに俺は子供達をあしらった。
「分かんないから...」
「わかることがあったら教えてくださいね!」
博識そうな子供は丁寧な口調でそう告げる。この子はだいぶマシな気がする。扉を閉めて「ふーっ」と息をついた。
「もうあのメガネのガキンチョ達に関わるとロクな事がない。この前だって容疑者の一人に入れられたし...」
それは少し前ぐらいか。あの子供らのせいで容疑者の一人にされたことだってあった。そのときはそこにいた真暮刑事という茶色い服の太った刑事に事情を説明してなんとかなったが、次そうなったら同じようにうまく行くとは限らない。
「早く引っ越したい...」
とか考えていると、またチャイムの音。恐る恐る扉を開くと 今度は引っ越しセンターの人たちだった。胸のところに黄色い丸と猫を模したマークが描かれえている。そしてその胸の辺りと帽子には「黒山都猫」という文字。
「ああ、どうも、荷物がいっぱいあるんですけど...」
「お任せください!」
そういうと家の中に2、3人ほど引っ越しの人が入りテキパキと荷物を運び出した。そのスピードは驚くほど早いもので、さすが好評を得ている引っ越しセンターというべきか。
簡単に済ませて荷物を完全にトラックに運び込んでしまった。
引っ越し先はもう決めてある。結構離れた場所に行くとでもしよう。こんな生活ももうおさらばだ。
「あれっ?」
すると扉の方に2人組の男がいるのが見えた。見覚えのある顔..あの人はいつぞやの真暮という名の刑事ではないか。
「えっと、何か御用ですか?」
「あなたに疑いがあるのでね。低木君」
そう言われると灰色のスーツの低木くんと呼ばれた背の高い男性は何かを見せてきた。
「これは...?」
「被害者の家にあったものです。これに見覚えは?」
「い、いえ...」
差し出された指輪は赤いルビーが嵌っているものだ。心当たりなど全くないのだから正直にそういう。そう言うと足元にいる子供がこう口出ししてきた。
「あれれー?おかしいぞぉ??」
また、あの事件を引き起こしてるんじゃないかと疑わしいガキンチョだ。なぜこんなところに...。
「申し訳ありませんが、署までご同行願いますかな」
「絵?なんでですか!?」
「少し、この指輪について確認したい事が...」
まただ、またこのメガネのガキンチョによって面倒な事に巻き込まれた。はあ...。
俺は車に乗りながら引っ越し先に向かっていた。あれからなんとか誤解を解き釈放されたのだった。もうあのメガネのガキンチョはこりごりだ。だがいい、もうこの街からはおさらばできる。これから、新しい生活が始まるのだー。
何時間かして目的の街についた。とても良さそうな場所だ。
「よーし」
車を降りて伸びをする。ここが、俺のあらたな家だ。赤い外壁と黒い屋根。とても良い。前には先程荷物を詰めたトラックが停車している。やはりというべきか、仕事が早い。
「よーし!ここから新生活が始まるぞぉー!!」
「あら、新しく引っ越しした人ですか?」
隣から声が聞こえた。そこには30代ぐらいの女性がいた。
「本当にここに住むんですか?」
「え?それはどういう...」
そう不穏なことを口にする女性は、数秒黙ってからこう口にした。
「この街には、金田市っていう、よく近くで事件が起こる高校生ぐらいの子供が住んでいて...」