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第07話「指輪を持つもの」

 黄昏の街を、俺はアミノの手を引いて早足に駆けていた。


 この世界では、全人口のうち1%ほどが『冒険者』と言う職業につくと言われている。その中の半分程度が異能ギフトを持っていて、二つ名を授かっている者は、百人にも満たない。

 冒険者とは、神代かみよの昔に人の住む巨大な王国があったといわれる『遺跡』の探索をするものだ。

 遺跡の中でも、『大迷宮』と呼ばれるこの街の地下は、遺品アーティファクトの質、量、そしてそれを守る怪物モンスターや罠の凶悪さで、特に有名だった。


 大迷宮は知られている限り最低でも五層以上に分かれていて、その層一つ一つがとてつもなく広く、国境をもまたいでいる。

 一番探索のしやすい第一層の地図ですら、正確なものは手の届かないような高級品になっていて、普通は粗悪な写本くらいしか流通していなかった。まぁ俺たちはその粗悪品の中でもなるべくマシなものを手に入れ、修正し、書き足しながら探索をするのだが。


 話がそれた。第一層、第二層と進むに連れ、モンスターの種類は増え、その攻撃の激烈げきれつさは増す。そうやって大迷宮は人間を拒み続け、今では人間のたどり着ける第五層までが、この世界のすべてということになっていた。

 そこには、信じられないような強大な化け物が多く潜んでいる。国と大迷宮探索ギルドは、冒険者をランク付けすることで、無謀な挑戦と、それによるモンスターの活性化を防いでいた。


 当然ながら、ここへの挑戦が認められるものはごく少ない。

 才能のあるものでも数年、よほどの才気に恵まれたものでも数ヶ月以上の実績をギルドに示した後でなければ、第五層探索許可証代わりの、昇降カゴの鍵となるマジックアイテム『指輪』を手に入れることはできなかった。

 自慢するわけではないが、俺はその『指輪』を所持する第五層レベルの冒険者だ。

 ハズれ呼ばわりされてはいるがギフトを持っていることと、強い仲間に恵まれただけだとしても、第五層レベルの冒険者に認定されたことは、誇っていいはずだった。

 それがなぜこんなはずかしめを受けなければならないのか。そう考えると頭の中の整理はつかず、モヤモヤが胸の内で渦巻いた。


「……さん! ベゾアールさん! その、指が……」


 アルシンに向けた怒りの感情そのままに、考え事をしている間中握りしめていたアミノの手には、指輪が当たって跡がついていた。

 慌てて手を離す。

 オレンジ色の逆光の中、彼女の亜麻色の髪は風に揺られ、大気に吸い込まれるようだ。太陽のように輝く彼女を見て俺は、やはりキレイだと改めて思った。

 アミノは跡のついた指に息を吹きかけながら、美しさを更に際立たせる笑顔を見せた。


「ふぅ……。わたくしの依頼、受けていただいてありがとうございます」


「……いやいや、どうしてそうなるんだ? くわしい話を聞いてからだって言ったろ?」


「あれ? でも先程は『この女性は俺の運搬の顧客だ』とおっしゃっていたので、てっきり受けていただけるものとばかり……」


 思わず「あっ」と声を上げてしまった俺は、眉間みけんを押さえて唸った。

 確かにアルシンの言いがかりから逃げ出すためとはいえ、そう言った記憶はある。ちらりとアミノの顔を見ると、目があってしまった。

 真っ直ぐに俺を見る、大きな澄んだ目。

 俺は大きくため息を吐き出して、大迷宮探索ギルドから借り受けている、第五層冒険者専用の宿舎へと彼女をいざなった。


「宿舎……ですか?」


 アミノはキョトンとした顔で俺を見上げる。

 ただ単純に、他には聞かれたくない話をするには個室のほうがいいだろうとさそったのだが、若い女性を宿へ連れ込むと言う自分の言動の軽率さに思い当たり、俺は一気に頬が火照ほてるのを感じた


「……あ! いや! やましい考えはないぞ! あそこなら個室だし、金もかからないしな! 入り口には管理人兼守衛(コンシェルジュ)も居るから、何かと便利なんだよ!」


「やましい……?」


「いやいや違う、だから――」


「――いえ、わかりました。ギルドの宿舎であれば確かに相談事にはうってつけですね」


 アミノはあっけらかんとそう答え、またニッコリと微笑む。

 大汗をかいた俺は、リュックからタオルを引っ張り出して汗を拭き、アミノと一緒に宿舎へと足を向けた。

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