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第03話「ソロとギフト」

 有名な【銀翼ぎんよく】のパーティで「無能」「ハズれ異能ギフト」の烙印らくいんを押された俺に声をかけてくれるような第五層パーティは、やはりそう簡単には見つからなかった。

 それどころか、第四層以下のパーティにも、なぜか断られてしまう日々が続く。


 そろそろ所持金も心細くなってきた俺は、仕方なくソロで第一層を探索し、日銭を稼ぐ事にした。


「戦利品の選別できたぞ」


 倒した腐肉喰らい(キャリオンクロウラー)の脇から立ち上がり、周囲を見回す。思わず出た自分の言葉に、俺は頬が赤くなるのを感じた。

 もう一度周囲を見回し、誰もいないことを確認して大きく息を吐く。

 独り言が恥ずかしいだけじゃない。今はドロップ品を回収している間、周囲を見張ってくれるものも居ないんだ、用心しないと。

 パシッと自分で頬を張り、気合を入れ直す。


 まだ全く重さを感じないリュックを背負ったところで、悲鳴と怒号、そして剣戟の音が聞こえた。

 予想外に近い。角を一つ二つ曲がったところだろう。

 マップを広げて周囲の構造と位置を確認して、俺は走り出した。


 一つ目の角を曲がる。通路の向こうに明かりが見えた。

 リュックからクロスボウを取り出し、矢をつがえる。

 二つ目の角を曲がった瞬間、目に飛び込んできたのは一面の赤だった。

 赤い水たまりの中で、剣を構えた男が二人、オーガと戦っている。その足元には一体のオーガの死体と、はらわたを引きずったままピクピクと痙攣けいれんする魔術師らしき人間の姿があった。


 剣士二人のうち一人が、血糊に足をすくわれ石壁にぶつかる。そのすきを逃さず、オーガは手に持った棍棒を大きく振り上げた。


 自慢じゃないが俺は戦闘全般が苦手だ。弓の精度だって剣の攻撃力だって異能者としては並以下だと自覚している。

 それでも迷っている暇などない。クロスボウの引き金に指をかけ、強く握りしめた。


「南無三ッ!」


 半分神頼みの矢は、オーガの背中に命中した。次の矢をつがえ、レバーを引く。

 狙いもつけずにもう一発放った矢は、振り返って咆哮を上げるオーガの片目を貫いた。

 これ以上ないくらいうまく行った。その間に体勢を立て直した冒険者たちは力いっぱい剣を振るう。

 叩き降ろされた鋼はオーガの肉を裂き、骨を砕き、そして一面の赤い水たまりは更に広がった。


「そこの人! 助かった、すまない!」


 男の一人がオーガにとどめを刺しながら礼を言う。もう一人の男は水たまりの中に溢れている仲間のはらわたを、半狂乱でかき集めていた。

 クロスボウをリュックに放り込み、俺も駆け寄る。

 信じられないことに、その魔術師は()()生きていた。


回復薬ポーションは?!」


「もう……手持ちが」


 男の返事が終わる前に、リュックからありったけのポーションを取り出し、魔術師に振りかける。泉のように吹き出ていた出血は緩やかになり、痙攣けいれんするだけだった魔術師は、小さく「うぅっ……」とうめいた。


「さすがにこの傷はポーションだけじゃ回復しない。何か奥の手(アーティファクト)でもあれば出し惜しみせずに出せ」


「第一層パーティの俺たちが、そんなもん持ってるわけがないだろっ!」


「マグリアっ! マグリアぁぁ!」


 二人のうち一人はもう泣き叫ぶだけで理性も残っていない。

 俺は黙って立ち上がると、リュックの中から革製の()()()をズルリと引き出した。


「……やめろっ! マグリアはまだ死んじゃいない!」


 泣き叫んでいた男が俺に向かって殴りかかる。流石に第一層レベルの冒険者に黙って殴られるほど弱くもない俺は、そのこぶしを掴み、逆にひねり上げた。


「くそっ! やめろ! マグリアっ! マグリアぁ!」


「やめるんだケイロス。すまんがあんたも許してやってくれ。俺もせめてマグリアを最後まで看取ってやりたい」


 ケイロスと呼ばれた男の手を離し、俺は死にかけの魔術師の横に遺体袋を広げる。

 苦々しげに見下ろしている、まだ少しは冷静さの残っている男に向かって、俺は指先をヒョイと曲げた。


「あんた、名前は?」


「……ツーロン」


「オーケー、ツーロン。俺は異能者だ。マグリアを助けたかったら早く手伝ってくれ」


「ギフト?! いや、マグリアは助かるのか?! あんたの二つ名ってどんな――」


「助かるとは確約できない。まぁとにかく時間がないんだ。わかるだろ?」


 ツーロンの対応は早かった。すぐにマグリアの体を遺体袋に乗せて、内臓が傷つかないように革袋でまとめる。ちぎれた肉片も、とにかくできるだけ詰め込んだ。

 なかなか手際が良い。最後の革紐を締めるまで、三十秒とかからなかった。


「よし」


 俺はリュックの口を開き、遺体袋の端にかぶせる。

 その瞬間、まるで底なし沼に引きずり込まれるように、マグリアの体はリュックの中へずるりと消えた。


「……は?」

「……え?」


 ほとんど大きさの変わっていないリュックを軽々と背負い、俺は立ち上がる。

 呆然としているツーロン、ケイロスに向かってパンパンと手を叩いてみせると、二人は気を取り直し、俺のあとに続いて出口へと走り始めた。


「あんた……、くそ、あんた【運び屋】ベゾアール・アイベックスか! なんてこった!」


「おいツーロン、やばいぜ【運び屋】は……」


 走りながら、二人は頭を抱えている。

 気にはなったが、とりあえず無視してリュックから地図を取り出し、最短距離を走ることだけに集中した。

 途中何度かモンスターに遭遇はしたが、第一層レベルとはいえ剣士二人で脇を固めて逃げるだけの戦術だ。タイムロスも予想の範囲内に収まり、俺たちは大迷宮ギルドの治癒室へと駆け込むことができた。


 まだ日も高い昼時。こうして久々のソロ探索は、突然の中断を余儀なくされた。

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