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第4話 サバイバルをしよう


 最初の目的地、”緑と水の村リレーテ”までの道中。

すでに景色は深い森を抜け、人の歩いた形跡のある林へと移った。


 とはいったものの、もちろんキレイに舗装されている訳ではない。

生い茂る草が上腕部に触れてくすぐったいほどだ。

草をかき分けて歩き進む灯里。

しかし、まったく不快な気はしない。


「ぷはぁーっ! この世界は空気もきれいだし!

 身体も健康になったし! 体が軽いと気分も軽快だ!」


 遂に、旅立ちが始まったんだ。

そして、丈夫な体を手に入れるという、俺の夢が叶ったんだ。と、感慨深くなる。

傍目にも、ブルーが基調のパジャマ姿が冴えわたる青空に溶け込んでいて、実に調和がとれている。


「最初の村まではちょっとしたサバイバルになりそうだが、この体ならきっと楽しめるだろう!」


 ――サバイバル生活。

ネットで動画を観るたびに、自分には無理だろうと思いつつも密かに憧れていた。

そんな灯里にとってこの状況は、決して億劫ではなかった。


 外出を憚り、避けていた世界。

そして、夢にまで見た、鮮やかな自然の風景。

それが今、目の前にある。

自分の足で、踏みしめている。

心まで(はな)やぐ、ような。

世界に祝福されている気分だった。


「こういうときはまず、安全地帯を確保する。

 出来れば虫などの危険から身を守るために、少し高い所に寝床を設置したい。

 それから、飲み水と食料の手配だ。

 そのために、水源から近い適当な場所を探さなくてはならない」


 ――知ってる知ってるぅ!

いつか、もしもの為にと、心の隅にしまいこんでいたんだ。


 そして灯里は、研ぎ澄まされている感覚を頼りに耳をすませて、川のせせらぎを聞き分ける。 

距離感も方向も、なんとなくイメージ出来る。

実に便利な体になったものだ。




 ほどなくして川に到達。

世界樹の森の中にあった細流とは違い、結構大きい。

しかし整備されていない川というのは、なかなかどうして不気味である。

生い茂る草をかき分けた先に、ボンと急流が現れる。

まだ、流れの速い川が。

昔の人が川に畏れを抱いていたというのが、今、腑に落ちた。


「流れが落ち着くまで、もう少し川を下るか。村にも近づくだろう」


 そうしてしばらく歩いて。

午後になったのか、陽も少し頂上から下ってきた頃。

ややひらけた場所へ到着した。

近くにある川の流れも、少し落ち着いていて、河原もある。


「今日はこの辺りに拠点を作ろう」


 そして……。


「さて、自分の実力を試してみるか!」



 少し、緊張する。

これから、魔法を、使うんだな……。

炎は自在だと、ミドは言っていた。

世界樹の頂上でも、自動的に、身を守るための炎が周りに出たほどだ。

意識を集中して、手を空にかざし、炎を出してみようと試みる。

燃え広がらないように、少し大きな炎の球体を作り出すイメージ。

魔法はイメージが大事なんだ、イメージが。

――まぁ、何ら確証のない理論だが。


 ふぅ、よしっ。


「さぁどうだっ!」


 ボォオウっと、いともたやすく、炎は出た。

イメージ次第で、大きさも自由自在に調節できる。

大きくしてみたり、小さくしてみたり……何度か試してみる。

火力の調節も自在だ。

強くしてみたり、弱くしてみたり。

 そして、自分で出している炎からは、あまり熱を感じないことに気がつく。


「自由自在じゃないか! すごい! 凄すぎる!

 原理は分からんが、とんでもない性能だ!

 今の俺は人間コンロだ……」


 いやいや、もっと良い表現があるだろう。

炎の魔術師とか、紅蓮魔導士とか……?

いや、それも違うだろう。

心の中で反省する。


 そして未知数の、怪力の確認。

だが、無闇矢鱈と破壊活動に勤しむのは得策ではないことを、灯里は弁えている。

 先ほど歩きながら、いくつか道具を作ろうと考えていたのだ。

思いついたのは、7つ。

 石のナイフ。

 石斧。

 水の煮沸と食料を焼く為の石の器。

 磨いた石の皿。

 水筒。

 ツタの紐。

 カゴ。

冒険の最初に手に入れる、『ゆーしゃトーリの7つ道具』だ。

おっと、世界樹の葉を入れて8つか……?

まぁいい。

心して制作に取り組まねば!



 まず河原に出て、石で作る道具を先に用意することにした。

ナイフと石斧は、木を加工するためにも優先順位が高い。

いくら怪力を手にしたとはいえ、木を切るのに素手とあっては、加工の際に不便だろう。

 手頃な大きさの石を、なるべく沢山拾って集める。

研磨用の石・砂。

ナイフ用に、手のひら一つ分の平たい石。

石斧用に、手のひら二つ分の平ための石。

熱する為の石の器と皿は割れないように、少しブ厚めに作れそうな、岩。

これらを互いにぶつけたりすり合わせたり、砂を使って磨いたりして作成する。


 何故だか今の灯里には、どの石をどのように使うべきか。

どんな石をどれだけ集めればいいのか。直感的にわかる気がした。


「そういえば、鍛冶がある程度出来るとかいう葡萄をねじ込まれたんだっけ……」


 正確には自分で食べたのだが。


 そして加工に踏み込む際にも、感覚が冴えわたる。

どの石とどの石を、どんな角度で、どんな力加減で、ぶつけ、すり合わせば良いのか。


「不思議だ、思い通りに道具が出来ていく」


石のナイフ数本、器、皿は簡単に完成した。

さわり心地もうっとりするほど滑らかだ。

石斧は持ち手が木なので、ナイフを使っていずれ完成させていく算段だ。


 器に道具を乗せ、林へ移動する。

怪力のおかげか、材料が石だというのに、歩いている間もまったく重さを苦に感じない。


「ははっ、すげー……! 丈夫な身体だ……!」



 歩きながらも灯里は、食べられそうな果実を手に取る。

とても美味しそうな果実を見つけたのだ。

色はオレンジとピンクのマーブルで、形は、細長いリンゴのような。


 さぁ、サバイバルの達人の真似事だ。

まず、手で煽いでにおいを嗅ぐ。

次にパッチテストの要領で腕に塗る。かぶれはないか。

しばらく時間が経って無事だったら、唇の周りに付ける。

舌先に付ける。

舌先に乗せる。

味は大丈夫か。酸っぱすぎたり苦すぎたりしないか。

そして、口に含む。

それぞれ、時間をかけるべきなのだが、いかんせん空腹が堪える。

舌先に乗せるまで無事だった段階で、ここまでくればあとは運任せだ。と、食べてしまった。


 それも仕方がない。とんでもなく良い香りがして、旨いのだ。

かぶりついた瞬間に、ジュワっと、瑞々しい甘酸っぱさが口いっぱいに広がる。

皮は、薄いながらも果肉がはじけるように感じさせるほどの絶妙な張り具合だ。

香りは桃のように、甘く、それでいて食欲を刺激する爽快さがある。


「旨すぎる……!」


5個ほど一気に食べてしまった。

そして石の器に、入れられるだけ入れた。

特段、身体に異常はない。

だが、安全に食べられる果実を一つでもミドに聞いておけばよかった。と、後悔した。

まぁ良いか、旨いし。と、作業再開。



 木を伐り、林で石斧を完成させる。

相変わらず、いともたやすく完成してしまう。

 これで、拠点に使う木を伐るのだ。

しかし、ここまで簡単に道具が作れたとあっては、最初の拠点だからとそこまでしっかり作らなくても良いかもしれない。と、思い直す灯里。


 竹のような植物を探したが見つからなかったので、水筒は木を切り削って作った。

 かごは、ツタの紐と木を加工して、背負えるくらいの大きめのものを作成。

真ん中でパカッと開くような2層構造にした。

世界樹の葉や、ツタの紐、食べられそうな果実やなんか、軽めのものを集める為の上層部。

石の器や皿、小動物やなんか、重めのものを詰める為の下層部。

 石斧は、ツタの紐を加工して、斧の部分をひっかけるように背負える形にした。

水筒とナイフは、腰に装着。


 「す、すごい! すごいぞ、俺!」


 いともたやすく、サバイバル道具を完成させてしまった。

おまけに、火は自在に出せる。たき火はもちろん、灯りや飲み水の心配は皆無だ。


 そして、拠点の作成。

簡単なものにすることとした。

石を囲って適当な木を組んだたき火。もはや、火が消えるのを警戒しなくともいつでも簡単に起こせる。

葉っぱを適当に集めた寝床。灯里が近づく段階で、虫達は離れて行ってしまう。

そして、獣を焼くためと、干し肉を作るために細くて堅い木と、ツタの紐で組んだ物干し。

極めて原始的だが、灯里は大変満足した。



「さぁて、道具と拠点は揃った。狩りの時間だ……」


 シカとかイノシシとか、食い出のあるのがいたら良いなぁ。

そういえば、ウサギっぽいのは見たっけ。

食べられるのかな。

ミドは確か、この付近に魔物はいないと言っていたから、この辺りの生物ならば食べられるだろう。

いや、魔物も食えるのかも?

身を潜め、耳を澄ませていると、何やら聞こえてきた。






「ひゃああああああ! 食べないでくださあああああい!」





 何者かが、追われているようだ。女性の声だ。

丁度良い、助けて、色々とこの世界のことを教わろう。

ミドの説明だけでは全然足りん。

ついでに獣肉もゲットだ!

灯里は、悲鳴の聞こえる方へ向かって走った。




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