第1話 邂逅 女神ミド
寝ているはずの灯里はしかし、不思議な空間にいた。
「先ほどはアンケートに応じていただき、ありがとうございました!」
「え、さっきの美少女!」
茶色と緑の、美しい髪の美少女。頭の上におめでたい花を咲かせている。
その花を見て「ふふッ」と、吹き出す灯里。
「無礼者! 何故笑いますかっ!
私は、こことは違う世界で神様をやっている者ですよ! もっと恭しくなさい!」
「もうーっ!」と、頬を膨らませ頭の上の花を両手で押さえる様子がまた可愛い。
「夢にしては、随分現実味のある、変な夢だな」
「はい。今、ここは夢であって夢ではありません。
あなたの世界の言葉で言うと、カクリョといったところでしょうか。
あなたと私、『両方』の世界のために。また、会いに来ました」
「世界のために? ぶっ飛んでるなぁ。
何だ? 女神さまが選ばれしものに『世界を救え』ってか?」
「まさに、その通りです! 大変理解が早くて助かります!
あなたでなくてはならないと、私の直感が告げているのです!」
「そんなこといって、他に誰も捕まえられなかっただけなんじゃないのか?
お礼があんな変な折り紙じゃあなぁ」
「失礼ですよ! あれは、私がこうしてあなたと繋がるための媒体なのです!
バカにしないで下さい!」
「あぁ、一生懸命作ったんだろうに悪かったな」
「で、もっと詳しく聞きたいんだが?俺に何をしろと?」
「まぁまぁ灯里さん、慌てないで。
ここは少し、この超絶美少女神『ミドさま』との会話を楽しみましょうよ」
「はぁ、そうですか……。だがまぁ、確かに美少女だな」
「灯里さんもかっこいいですよ!
線が細いのにキリっとしてらっしゃる。
長めの髪の毛もモサいけど良い調子です」
「はぁ、そいつはどうもありがとう、女神様……」
「はっ! 申し遅れました!
私はミド! ミドと申します。
こんなに若々しい美少女なので不信に思うかも知れませんが、こう見えて本当に女神なのです!
豊かな実りの世界樹が見守る列島、ミドレットの女神ミドです!」
「ミド、ね。はぁ……」
せっかくの可愛さが台無しになるほどのヘンテコな、頭のお花満開ポーズ。
こいつはホントにおめでたい奴のようだ。
「私は、先ほどの奉仕活動を通して、あなたからボランティア精神と知性と情熱を感じました!
それに、面白い経歴の持ち主ですよね。あ、ごめんなさい。
興味がわいて、あなたのことは殆ど調べ上げてしまいました」
「どうやって俺のことを調べたんだか知らないが、ボランティア精神だぁ?
やっぱり他に捕まらなかったんじゃないのか?」
「いやいやいやいや! 大事なことですよ!
自分の利益しか考えられないような方ではいけませんから!
あと気になったのが、夢がありますか?
という問いに対して『いいえ』としていながら、あなたは願い事のところに面白いものを書いています。
『頑丈な身体が欲しい』。と」
「あぁ、そうさ。
俺は丈夫な身体が欲しい。
その為なら何でもしてやると思って、生きてきたさ……」
「その願い、叶えられるとしたらどうしますか?」
「――――何?」
「実は、私は今、こことは違う世界で大変な危機に瀕しているのです。
助けて下されば、あなたの願いを叶えて差し上げられます」
「そうか……。
こことは違う世界か、面白い。
こんな辺鄙な惑星、とっとと抜け出してやりたかったところだ。
で、俺に何をしろと?」
「具体的にこうしてくれ。とは、訳あって言えないんです。
でも、本当に、私とあなたの世界そのものの危機ともリンクしている超絶重大な事件が、これから起こっちゃいそうなんです……」
そう言いながら頬を赤らめ、なにやらモジモジする女神。
何やら時折、悶えているようにも見える。
コイツ、本当に大丈夫か、と心配になるトーリ。
「急がなくてはなりません!
トーリさんの住んでいる島国だって、地震が多くて困っているはずです!
ついてきてくれますか? いきなり過酷な目に合わせてしまうと思うのですが……」
「もちろんついていくさ。
本当に俺に、丈夫な身体が手に入るんだな?
実は密かに夢見ていたんだ、こういう展開を!
本当に、ただの夢じゃないんだな? ぬか喜びさせるなよ?」
「本当に本当です。
ただ、繰り返しますが、いきなり過酷な環境に身を置くことになると思いますけれども。
――準備はいいですか?」
「いや、夢枕からの旅立ちに、準備もなにも……。
こちとら裸一貫みたいなものなのだが……」
「立派なパジャマじゃあないですか!
私は好きですよ!そのパジャマ。
それでは、出発します!目をつむっていて下さい!」