お嬢様が冒険者なのは仕方がない4
スッゴい間があった。
私の手を取ったまま微動だにしないクラウス。
尚且つ、気のせいか手に伝わる力が先程より増しているようにさえ思える。
はっきり言ってそろそろ痛い。
「あの……手を……」
遠慮がちにそう言ってみれば。
「すみません。色々手違いがあり今直ぐに出立せねばなりません。御身少々預からせて頂きます」
クラウスはそう言うと私をヒョイと抱き上げて歩き出してしまった。
俗に言うお姫様抱っこだ。
世の中に「硬直する」とか「固まってしまう」って言葉があるけど、まさに今その状態である。
階段に差し掛かる頃に気持ちが落ち着きクラウスの方を見れば、物言いたげにこちらを見ていた。
もしかしたら私重い?
「私結構重いでしょう?」
絶対そうだ。
きっと階段は歩いて欲しいに決まっている。
だって、このドレス結構布ががさばっていて、着ている自分でさえ重くて効率悪いとしか思えないのだから。
「私降りますよ」と言うニュアンスを含めてそう言ってみれば
「大丈夫です。フィリア様は軽い方ですよ」
そう言って紳士スマイルを繰り出す。
「フィリア様は」?って言ったよね。
つまりそれって誰かと比べているんだよね。
思わず胡乱な眼差しで見てしまったのは仕方がないと思うんだ。
そんでもって、階段では先程より体が密着してしまい、もう私は石像と化してしまったよ。
だってさ。
ほら、階下の方で父がニマニマしているからさ。
階下へ着くとやっとこクラウスは私を解放してくれた。
「それではタナトス辺境伯。フィリア様を無事王都までお連れ致します」
クラウスは深々と父に礼をする。
「クラウス様。どうか娘を末永く宜しくお願い致します」
父はそう言うとクラウスに礼を取った。
お父様……何かさ……まるでクラウスに嫁入りするみたいな言い方だよね。
クラウスだって困ったような顔しているよ。
ほら、一応彼にだって選ぶ権利位あるんだからさ。
故に、私は父のセリフを無視して家族へ深々と礼をした。
「不肖フィリア。タナトス家の名に恥じぬようお役目を全うして参ります」
そんな私に母が「フィリア……」と涙目になる。
うん。
やっぱりお母さんだ。
そう思っていると私の側まで来て最後の包容をする。
「お母様……」
本当に感極まりそうなその時
「がっちりクラウス様を落とすのよ」
気合い十分にそう囁かれた。
この両親は……。
そんなこんなで、感動のお別れのシーンなのに、何処吹く風。
私はクラウスにエスコートされながら馬車へと乗り込んだ。
「では、行って参ります」
そう言って手を振れば家族や使用人が手を振って別れを惜しんでくれた。
遠ざかる邸を眺めながら、はたと気付く。
「私のごはん……」
隣を見れば私専属の侍女のユリアナがニコリと微笑む。
「ありませんよ」
チーン。
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