お嬢様が冒険者なのは仕方がない3
翌朝、何時もより早く目が覚めた。
昨夜急いで用意した自身の嫁入り道具を確認してニンマリとする。
基本的に入り用な道具は既に揃っているが、私が持って行きたいと用意したのがこれである。
冒険者が愛用する大型のリュックに自身の愛用の品を詰め込んだ。
さっと宝石箱から腕輪を一つ取り出す。
「『装着』」
言葉に魔力を混ぜると腕輪はスルッと私の右腕に収まった。
そして、その腕輪の宝石に魔力を込めるとリュックがスッと宝石に吸い込まれた。
「これで準備完了」
気分良さ気にそう言うと、時間を見計らったかのように侍女が部屋のドアをノックする。
「仕度のお手伝いをしても良いでしょうか?」
必ずドアを開く前にそう問い掛ける侍女。
勿論答えは「どうぞ」だ。
本当の嫁入りでもないのに、何故か白いドレスを着せられる。
馬車での移動とありコルセットだけは免れたが、化粧もバッチリにされ自身の姿に一瞬固まってしまった。
「誰これ?」
思わずボソリと呟いてしまう。
鏡の中には見たこともない美女がいた。
「勿論。お嬢様ですよ」
侍女は良い仕事をしたと満足気に頷く。
確かに良い仕事をしたのは分かるけど、ここから王都まで馬車で10日程の行程だ。
勿論宿も取ってあるのでこの化粧は今夜には落としてしまう。
誰が見る為に化粧したのか?
あまり意味がないよね。
そう思ってしまった。
丁度そう思っていると、階下から馬の嘶く声が聞こえる。
時計を見るとまだ7時と言う時間だ。
「予定より早く出発すると、お迎えの者が来ております」
慌てて部屋へと入って来た侍女がノックもせずにドアを開けると口早にそう言うが、時既に遅し。
後ろから侍従を引き連れた男が入室して来た。
「おはようございます。フィリア様。私はこの度陛下より護衛を任されました第一騎士団隊長のクラウスと申します。以後お見知りおきを」
深々と礼を取るクラウスは、態度こそ紳士だが、レディの部屋へ朝早くから乱入する辺りが既に野蛮だった。
しかし、フィリアにしたらそれより驚く所があった。
「今なんと……」
思わず聞き返してしまっていた。
それは言われた言葉の内容が飲み込めなかったのだ。
「第一騎士団隊長のクラウスです。陛下の王命にてフィリア様の護衛の任に着かせて頂きます」
もう一度言わせられた事が不快だったのか、一瞬眉を寄せたクラウスは再び礼を取りもう一度口上した。
第一騎士団の隊長?
だって、クラウスは冒険者じゃなかったのか?
この時フィリアは自分以外にも別の顔を持つ者がいる事を学習した。
膝まづくクラウスの元に近付き
「了承しました。クラウス様、警護に励むよう。宜しくお願い致しますわ」
そう言って手を差し出す。
クラウスはその手を取り軽く甲へと口付けた。
一応の仮の侍従関係の契約が完了された。
そして、顔を上げたクラウスは一瞬だけ表情を固くした。
もしかしてバレた?
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