お嬢様が冒険者なのは仕方がない2
「私が嫁入りとか、どういう事ですか?」
食事を開始する寸前にテーブルに手を着き、この館の主人を睨み付けているのは当タナトス家の三女フィリアだ。
現在18歳と貴族なら結婚しても不思議ではない年齢だが、残念ながら婚約者すらいない。
「それに、お姉様だってまだ嫁いでいませんよね」
私は思いっきり今年20歳になる次女のエレナの方を指差す。
もともとこの地方は魔獣が多く、婚約者も結婚も妙齢になってから決まるのが普通であった。
「エレナは先日婚約が決まったのだよ。3ヶ月後には身内だけで結婚式をする」
父はそう言うと深い溜め息を吐く。
「それに、今回のフィリアの件は嫁入りまで行くかどうかは分からない。今回王族の血筋以外の主要な貴族から未婚の令嬢が王太子を初めとする王子方、もしくは王弟殿下の婚約者候補として集められるんだ。時世からしてそれは表向きの理由で、隣国との内通や謀反の防止の為の人質だ」
そこまで言うと父は私の方を見た。
「お前には末の娘と言う事もあり、今まで散々自由にさせて来た。そろそろ家の為に何かしても良いのではないか?それに万が一が起きても、お前なら難なく逃げて来れるだろう」
「まぁ、それはそうだけど」
色々突っ込みたい所は多いけど、確かに姉よりは生存確率高いよね。
「それに、万が一にも殿下方の何れかに見初められるとも限らないしな」
それはないだろう。
そう思い深い溜め息を吐いた。
「分かりました。私もタナトス辺境伯の娘。人身御供になれと言われても何も言いません。お役目無事にまっとうして参りますわ。それに有事の際はご心配なく。あらゆる手段を使って逃げおおせますので」
私はそう言うと近くにあったコップを掲げる。
「私の最後の晩餐を」
そう言うと父が苦虫を噛み潰したような顔になる。
「フィリアの旅立ちを」
父は娘の言葉を訂正すると手に持ったワインを一気に煽った。
こうして、私の最後の夜が過ぎて行った。
そして、何故かお風呂で滅茶苦茶念入に全身を磨かれてしまった。
明日から長旅だからだろうか?
それとも、今夜で本当に最後だからだろうか?
まぁ。
それは良い。
「フフフ……お父様。
私が大人しく嫁入りするなんてありえませんわ」
夜中、自ら荷造りをしているフィリアに専属の侍女が扉の隙間から盛大に溜め息を吐いた。
「私の苦労が増えるわね……」
何処か達観した様子は既に20歳の女性ではなかった。
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