8. 贈り物
数日後、再び王家からの馬車がフロックハート家に到着した。
今回は王族も同乗している。
エメリオン王国第二王子フィル=マッキンタイヤーだ。
優雅な佇まいと堂々とした振る舞いは王家の人間であることをなりより証明している。
だが、人懐っこいその性格が分け隔てなく人を惹きつける。
彼はフロックハート家の召使に導かれ館に入る。
バイオレットとリオが待つ部屋に一人訪れた。
「ようこそおいでくださいました。フィル様。
ロータイトとの交渉の旅路、お疲れさまでした。
今日はわたくしのお付きの預言者リオが同席しますことお許しくださいませ」
「どうもリオでーす。以後お見知りおきを」
「ああ、貴女が噂の異国の方ですね。」
「噂!? 噂になってます私?」
「兄のシドが非礼を働いたあの日、バイオレット様を守った勇敢な女性として噂になっております」
「えっへっへー。そんな感じで言われちゃってますかぁ」
リオはへにゃっと破顔する。
「戦争の件もリオ様が預言していたとのこと、伺っております。
貴女の偉大なる功績を称えます」
優雅に紳士の一礼をするフィル王子。
「さて、本題へ入りましょう」
王子は卓上に巻物を広げる。
エメリオン王国の地図だ。
図上を指でさす。
「城下街に繋がる河川に面した土地です。
30,000坪は超えるでしょう。
こちらをバイオレット様に譲渡します」
その広大さに目を見張った。
「と、東京ドーム2個分……!」
リオが唸る。
「城下街に繋がる河川に面してるということは、交通の利便は言うまでもなく、物の運搬も容易ということではありませんか。
さらには、この地形だと作物を育てるのに最適な環境にありますわ。
加えて、商業地区にも工業地区にもできる可能性があります」
「どうでしょう。お気に召したでしょうか」
「そんな、感謝の言葉もございません。これ以上ない最高の贈り物ですわ」
「満足していただいて安心しました。
バイオレット様、こちらが譲渡契約書になります」
名前を署名し、書面にある土地が事実上わたくしの物となった。
「こんなにも名誉のある贈り物は初めてです。
フィル王子、心からお礼申し上げます」
「貴女の行いはエメリオンを救った尊いものです。いくら感謝しても足りません」
少し顔を曇らせ続けるフィル王子。
「兄のシドの立場は身勝手な婚約破棄により悪くなっています。
その上、私の功績が認められたので、彼の継承権は剥奪されるでしょう。
心苦しいですが、その犠牲の上で私は王となりえるのです」
「ええ、正しい判断だと思います。
わたくしはフィル王子こそが我が国の王であるべきお方だと信じておりますわ」
「ありがとうございます。
必ずや善き王となってみせます」
彼は力強く誓い、わたくしたちは握手を交わした。
その後、王位継承は正式にフィル王子へと与えられた。
国民は新たな王の誕生に祝杯を上げた。
かつてのわたくしは、この国の王となるのはシド様だと信じて疑わなかった。
王妃となるのは自分だと思っていた。
王になれなかったシド様はどう感じているのだろう。
婚約者を捨てた報いだと悔いているか、それとも手にした最愛の人に歓喜しているだろうか。
このわたくしを犠牲にした代償は高くつきますのよ。
感涙し咽び泣く程喜んでもらわないと承知しませんわ。
思い描いた未来とは違うけども、今の自分も捨てたものではない。




