表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

3. 預言者

「まずは、感謝申し上げますわ。今日あの場で貴女が庇ってくれなかったら、一体どうなっていたことやら」


「リオでいいって」


「ではリオ。あの場にいたということはリオもどこぞの令嬢だということよね」


「私は一般人だよ」


「爵位はもってらっしゃならないのね。出身は外国かしら」


「多分外国ってことになるのかも。日本っていう国聞いたことある?」


「いいえ」


二ホンなどという国は聞いたことなかった。不思議な響きに感じた。


「二ホンからやって来たということは、留学かしら」


「いや……えっと」


リオは気まずそうに言葉を濁す。


「はっきり言えないということは、何かやましい事情があって?」


貴族でもない。留学生でもない。となれば密入国のならず者の線か。

わたくしにうまく近づいて何か企んでいるのではないか。


「そういうわけじゃない。多分信じてもらえないと思って」


「聞くわ。どうぞ」


「……多分、私は異世界から転移したんだと思う」


「異世界から転移」


予想だにしない返答に思わず目が点になる。


この世界には魔力が存在しそれを扱う魔術師がいる。

異世界に転移するとなるとそれは高度な魔術になるだろう。

童話で語られることはあっても、実際には聞いたことがない。

それを行使できるのであれば、目の前の少女はとても優れた魔術師だということになる。


「リオはそれができる魔術師でいらっしゃるの」


「それがさー、私は何の魔法も使えないんだけど、謎の力に導かれちゃったみたいな」


何だそれは。

ますます胡散臭いではないか。


「なんていうか、私の世界にはセシリーを中心とした物語があって」


ここで急にセシリーの名前が出てきてどきりとする。


「何通りも彼女の未来が存在する。その一つにシド様と結ばれる未来もある」


シド様とセシリーが結ばれる未来――。頭がうまく回らない。


「その物語に転移しちゃったみたいなんだよね。えーと、セシリーの何通りもの未来が書かれた本の中に吸い込まれたって例えがわかりやすいかも」


前提としてバカらしい。とても信じられない。

そもそもなぜセシリーが中心なのだ?

特別権威を持つわけでもないし、そりゃかわいらしいとは思うがお嬢様の域は出ないじゃないか。

だが、リオは嘘を言っている様子でもない。


「では、その物語でのわたくしはどうなるのかしら」


「バイオレットちゃんは悪役令嬢で……おっと今のは聞き流して」


「流せるわけないでしょう。誰が()()令嬢ですって?」


「ごめんごめん、物語ではそういう役回りってだけで。事実とは違うじゃん」


わたくしが悪役だなんて。理不尽にも程がある。

しかし何が悪で善なのかは立場によって変わるもの。

深く考える必要はないのかもしれない。


「そうね。とりあえず続けてくださる?」


「……婚約破棄された後、学園を追われて、公爵家からも縁を切られて、その後はわからない」


婚約破棄はもうされかけている。学園の退学は王家のシドの権力で可能だろう。


そしてフロックハート家からの絶縁。

わたくしの結婚でフロックハート家は王家に連なることになり政治における発言権を得る予定だ。

それを失うということはわたくしの利用価値が無くなるということ。

実家に見捨てられる。あり得なくはない。

冷酷無慈悲な、家の実権を握る我が兄なら、やりかねない。


「そんな……信じられませんわ」


婚約破棄され、学園も追われ、公爵家からも縁を切られ、そんな未来がわたくしに降りかかるなんて。

だが、今日のあの騒動だ。あの場はうやむやになったがこの先どうなるのかわからない。


惨めだ。悔しい。泣きそうになるのを必死にこらえる。


「わたくし……そんな未来は認めませんわ」


そう言うのがやっとだった。


「じゃじゃーん! そこで私の登場でーす」


急にでかい声を出されるものだから、驚いて固まってしまう。

リオはわたくしの両手をぐっと包み込む。


「私も違うルートを見てみたいんだ」


ルートとは?


「バイオレットちゃんが輝く未来を切り開こうよ」


「当然ですわ。このまま引き下がるつもりはなくってよ」


フンと涙を隠して見せる。


「まあ、ここは一つ私に任せてよ。剣も魔法も使えないけど、この先何が起こるかはある程度わかってるんだよ」


リオはえっへんと腰に手を当て胸を張る。


先ほどの話を踏まえると、この先何通りもの未来の物語が存在し、リオはそれを知っていることになる。


「なら貴女は未来予知の預言者といったところですわね」


「おお、その設定超かっこいいじゃん」


この少女、異世界からやって来たやら、わたくしが破滅する未来があるやら、言ってることはめちゃくちゃだ。

だがあの場で守ってくれたこと、未来を導いてくれると言ってくれたこと、素直に嬉しかった。

少なくとも敵ではない。

ならば今は側に置いといても問題はなかろう。

それに、眉唾ではあるが、未来を見通す力が本当ならば何よりも頼れる存在となるであろう。


二人を乗せた馬車がフロックハート家に到着した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ